第三話 秘密会談
今回の会談は協会側の希望で秘密裏に行われている。
言ってしまえば表向きにできない話し合いということだ。
だから格付けが終わった以上は形式に拘るつもりはない。
「それじゃあここからは親父の知り合いって話だし本音で語らせてもらうぞ、飯崎さん」
「……ったく、さっきまでの慇懃無礼な態度はガワでそれが本性ってわけか。明石さんも末恐ろしい息子を寄こしたもんだ。はあ、分かった、こっちも堅苦しい建前は取っ払って本音で話す。それと隆でいいぞ。こっちも八代だと明石さんとややこしいから夜一って呼ばせてもらうからな」
構わないしむしろ話が早くしやすくて助かるというものだ。
「まず回復薬だけど現状では低位体力回復薬、低位魔力回復薬、低位異常回復薬が作成できる。しかもウチで作った物の中でも一部だけの特別品は若干ながらダンジョン産の物よりも効果が高い上に使用期限が長い」
「やっぱり作れるようになってたか。しかも効果が高いだけじゃなくて期限まで長いだって? それはどのくらいの話なんだ?」
「具体的にはダンジョン産のがHPを300回復するのに対して、特別品のが310くらい回復する程度だな。期限については現状ではドロップ品よりも一月だけ長い四か月。ただそれは現状の話で研究が進めば最高で400回復する物でもっと期限が長い物が作れるようになると思う」
「おいおい、それだけで大分ヤバい話だぞ。既存の物よりもお前達の方のが質が良いと分かれば誰もがそっちを求めるに決まってるからな」
それはその通りだが残念。
こんなことで驚いていたら精神的に持たないぞ。
「それはそうかもしれないが、中位や高位のものが作れるようになったらそっちの方が断然効果が高いからな。それに比べたらたいしたことはないだろう?」
「それはそうかもしれないが……てか、そもそも中位とか高位ってなんだそれ!? そんなの聞いたこともねえぞ!」
「そう言われても実際にある以上は仕方がないだろう。中位体力回復薬はHPが最低でも500回復する上にある程度までの肉体の欠損も復元できるみたいだぞ。高位に至っては1000回復した上で生きてさえいればどんな外傷も治るとさ」
それこそ半身吹き飛んでいても一瞬で元に戻るらしい。
流石に自分の身で試したくはないけど。
「肉体の欠損も元に戻るだって?」
「そう、だからあんたの左腕も中位の体力回復薬なら元に戻せる」
「知ってたのか。まあ明石さんから聞いてるか、そりゃ……てかお前、ここまで話がスムーズに進まなかったらそれも交渉材料にするつもりだったろ?」
「当たり前だろ。悪いか?」
「悪かねえよ、このクソガキが。ったくよ、お前みたいな三十前の若造がどうやったらそこまで老獪になれるんだ。明石さんはどういう教育してんだよ?」
「英才教育の賜物かな?」
すっとぼけてみたけど通用する相手ではなかった。
「嘘つけ。明石さんが酒の席でお前のことを突然変異だって言ってたぞ。次男がどうしてあんな風になったのか分からないって。その意味がよく分かったよ」
酒の席での話とは言え実の息子に対して酷い言い草ではないか。
でもこれまでの自分の行動を振り返ると否定しきれないかもしれない。
「そもそもどうやって中位だか高位だかが判明したんだ?」
「悪いがそれについては企業秘密だ。怪しいと疑うのなら中位体力回復薬で腕を復元してみせようか?」
「疑ってはいねえよ。ただ腕を治せるのなら治したいのが本音だな」
義手で見た目はどうにかしているが片腕では様々な場面で不便だと隆さんはボヤいていた。
もっとも勘も鈍っているから腕が治っても探索者に復帰するつもりはないとのことだが。
「協力してくれるのなら一本提供するぞ」
「当然無料じゃねえだろ。対価は? 金か?」
この口ぶりだとこちらが二十億円の借金を抱えているのは知っているのだろう。
だけど生憎と金は欲していない。
「金は別にいらねえな。これから自分で幾らでも稼げるし」
「だろうよ。それなら俺に何をさせたいんだ?」
「まずは近い内に副本部長を排除するから、その時に後始末を頼みたい。それとその際に協力が必要になったら手を貸してほしい」
「まずは、で軽く言う内容じゃねえぞ、それ」
そうは言うが実際にやるのだから仕方ないだろう。それにこれは悪い話ではないはずだ。
「本部長一派からすれば敵対している副本部長が失脚してくれるのは助かるだろう?」
「俺は別に本部長の派閥ってわけじゃないんだけどな。まあでも反探索者側の副本部長が消えてくれれば色々とやり易くなるのは事実だ」
「なら問題ないだろ。大丈夫、ちゃんとあいつには失態を重ねた上で二度と復帰できないようにしっかりと失脚してもらうから」
その隙に本部長達と協力して協会内での立場を固めればいい。
ついでに副本部長とその一派の影響を徹底的に排除しながら。
「お前なら暗殺でもしそうな怖さがあるけどな」
「失礼な。この状況で暗殺しても代わりの奴がその座に就くだけだろう? それじゃあ意味がない」
「出来ないとは言わないんだな」
肩を竦めることで返答とした。
たぶん英悟や朱里に頼めばやれるだろうとは思う。
でも今はそうするつもりは更々なかった。
その理由は心情的な面というよりはあまり意味がないことが大きい。
意味があるならそれも一つの手段ではあると思うが現状ではそうではないのだし。
やるにしても然るべきタイミングでだ。
「まあでも俺にやったように回復薬を協会に卸さないって脅すだけで副本部長に大きなダメージを負わせられるだろうよ。しかもそれが副本部長の独断によって下した罰が原因だったとなれば尚更な」
「その時は後ろ盾の帝命製薬に泣きつくんじゃないか?」
残念ながら今のところは彼らがどんなに頑張っても錬金素材を使用した回復薬は作れないのだが。
だがそんなことを知らない彼らは、社コーポレーションに出来たのなら自分達もやれるはずだと無駄に研究を続けるかもしれない。
鳳や勘九郎によって材料さえあればどうにかなりそうだという偽情報を掴まされていればそれも仕方のないことだろう。錬成術師へとジョブを変更した勘九郎がそのための錬成素材を提供してくれるのもそれを助長するはずだ。
「ああ、本部長へのお土産として今後も色々と仲良くしてくれるのなら、特別に毎月100本の低位体力回復薬を卸すって伝えてくれ。お望みなら魔力と異常の方も100本ずつ付けるって。流石に特別品ではないけどな」
「断言するが即座に頷くだろうよ。だが気を付けろよ。これだけのことが知られれば日本以外からも諜報員や刺客が差し向けられることになるのはまず間違いない。協会や日本政府も回復薬作成のことを知れば全力で守ってくれるだろうが、それも万全とは言えないからな」
それについては英悟や朱里が対応してくれることになっているが果たしてどうなるだろうか。
彼らの腕を疑う訳ではないが、日本のように平和ボケしていない場所から送られる刺客ともなればこちらの想像を超えた力量を有していることもあり得ない話ではない。
と言ってもそれを心配していても仕方がない。
可能な限りの準備をしてその時に対応するしかないだろう。
なお諜報ではなく直接的な方法を取ってくる場合もあるだろうが、俺を狙ってくれるのならそっちの方が対処は簡単だ。
そのことを心配してくる目の前の人物に実際に証明することにした。
「話は変わるけど隆さんのランクっていくつ?」
「22だけどそれがどうした?」
「俺のランクは8な。一応これが証拠」
スキルなどは隠してランクだけが見えるようにしたステータスカードを相手に提示する。
その上で力比べとして分かり易い腕相撲をしてみた。
「おいおい、嘘だろ……」
その結果は全く勝負にもならない俺の圧勝だ。
普通なら絶対にあり得ない結果に前の前の相手は絶句している。
「この通り俺を直接狙ってくるのなら返り討ちにするさ。それ以外には可能な限り守りも付けてあるし」
それもあってあえて俺には守りは付けていない。
朱里や英悟にもそうするように言ってある。だからこそそれをこちらの隙だと勘違いした相手は俺を狙うことだろう。
「……訂正する。お前はクソガキじゃなくて本物の化物だ」
「随分な言われようだな。俺としてはこの程度じゃ全然満足してないってのに」
「ここまで行くとお前と敵対した相手の方を同情すらしてしまいそうだ。ああ、約束するよ。俺も本部長も絶対にお前に協力するってな」
「有難い話だな。これからも仲良くしてくれよ」
こうして俺は隆さんと本部長一派の協力を勝ち取ったのだった。
「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価をよろしくお願いします!




