第二話 格付け完了
最初の内はお互いに牽制から入った。
「それではまずこの話し合いの目的はなんなのでしょうか? 売買の手続きには何も問題がなかったはずですが」
あくまで協会側からこの話し合いを申し込まれたという立場で俺は語る。
「手続き自体は問題ありません。ですが問題がそこではないことはあなたも分かるでしょう?」
「分かりませんね。ウチはあくまで既定の手続きに沿ってポーションを協会に売っただけです」
たとえ売る品物が回復薬という貴重な物でありながらその数が百本という常識外れの数であり、更には全て同じ日にドロップしたかのような全く現実的でない申請が出されたとしても、だ。
「それとも協会では百本を超えるものは買取できないということでしょうか? 売買の際にそういった制限がないことは確認してありますが」
規則上では何も問題がない。であれば協会側が止める理由はないはずだ。
と言うか止めることは出来ないだろう。
「そうですね、手続きに不備がなく協会としてもこの買い取り自体は有難い話なのでやらせていただくことになるでしょう」
「それは良かったです。ですがそれならここで何を話し合うのでしょうか? こちらとしては買い取っていただければそれで終わりなのですが」
互いに笑顔だが相手が非常に苛立っているのが予想できる。あるいは焦っているのだろうか。
表情には決して出していないが、今のところこちらが交渉する気がない態度だからさぞ内心では困っていることだろう。
だがここで終わりにしてあげるほど俺は優しい相手ではない。後々では協力することになるとしても、それはまずはどちらが上の立場がはっきりさせた上でだ。
いざという時になってこちらを裏切るような考えを起こさせないようにするためにも。
「ああ、そうそう。販売する低位体力回復薬について協会の方には先に教えておきたいことがありまして」
「教えておきたいことですか?」
さも特別ですよという態度で俺は爆弾発言を投下してやった。
「一週間後に同じものを百本、更に二週間後にもう百本ほど売ることになると思います。ああ、消費期限については安心してください。どれも納品日数日前にドロップしたものばかりになるようにしますから」
「な!?」
そんなに都合よくアイテムをドロップさせる方法なんてない。それはこちらの言葉に驚愕している相手も分かっているだろう。
だとすればどう相手が考えるかなど簡単だ。
「……やはり回復薬の作成に成功したんですね?」
「何のことでしょうか? あくまで偶然です。偶々運が良くてドロップするというだけという話ですよ。もっともその先は一切協会に売らず海外のオークションにでも出品するつもりですが」
「そ、それは待っていただけませんか」
「何故ですか? ドロップした回復薬を協会に売らなければならないという規則はありません。むしろ合計で三百本も売るだけ感謝していただきたいくらいです」
副本部長がやったことを考えれば温情ある対応だろう。
まあ実情はそれに見せかけた示威行為のようなものなので温情でもなんでもないが。
「ああ、話は変わりますが、場合によってはウチのとある研究班を海外の活動拠点に移すことになるかもしれませんね。残念ながら誰とは言いませんが色々と嗅ぎまわる輩もいますし、日本ではそういった活動に支障が出てきそうですから」
「そ、それは……」
「いや失敬。急に関係ない話をしてしまいましたね。あくまで回復薬売買とは別の話ですからお気になさらずに」
んなわけあるか! そう言いたいのに言えない相手に若干同情するがここで手を緩めはしない。
実際こちらの畳みかけるような発言に相手は脂汗を滲ませて動揺を隠せなくなってきていた。
当然だろう。前に同じようなことをやらかしているのにまた同じような事をしたと世間に知られれば非難は避けられない。しかも今回の場合はただ優秀な探索者を一人失うだけで済まないのだ。
回復薬を作れるようになった人材や会社が海外に流出したとなれば協会どころかダンジョン庁の大失態という評価は免れないだろう。
しかもそうなった原因の一つが協会の副本部長の行いにあるとなれば言い訳のしようもない。
「もしそうなったら非常に心苦しいですが、中位や高位の回復薬を手に入れた際に日本には売らないということも出てきてしまうかもしれません。ですがそれもこれまでのことを考えれば仕方のないことでしょう?」
「待ってください! 中位や高位ですって?」
「ええそうです。どうやら回復薬には低位中位高位のランクが存在していて、今のダンジョンからドロップしている代物はどれも低位みたいなんですよ」
「まさかその中位などの回復薬の作成にも成功したんですか!?」
だから作成してないって言ってるだろうに。
「今はまだ。ですがいずれドロップさせられるようになる目途は立っているとだけ言っておきましょうか。でも日本には関係ないことになるので気にしない方がいいかもしれませんよ」
「……どうすれば海外移転は止めていただけますか?」
その言葉は降参したと同義。つまり格付けは完了した。
「そうですね、そちらが誠実に対応していただけるというのならここからは腹を割って話をしてみましょうか」
その言葉に相手が否と言える訳がなく頷くのみだった。
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