第十五話 その日、不可能は可能となった
あれから俺は暇さえあれば一人でも霊園ダンジョンに潜っていた。
当然ながら目的は錬成魂と錬金魂の確保である。
休憩の際には素材を作成するなどしてスキルレベルを上げるのも怠らない。
それを続けること約二週間。
遂にその時は訪れた。
「ふう、やっとか」
錬金と錬金素材作成のレベルがⅢに上がった。
これで錬成草と錬金草が作成可能になった訳だ。
それはつまり低位の回復薬の大体の素材が揃ったことも意味する。
低位体力回復薬の素材はヒメリ草などの体力回復効果のある薬草と霊薬の素、それと魔石と範囲が広い上にこれだけ。
素材の品質や強い魔物の魔石を使うことでより効果の高い回復薬が作成できるようだが、今回はお試しということもあってゴブリンの魔石などの最低限の物で錬金する。
もっともゴブリンの魔石もヒメリ草も分析は済んでおり錬成草と錬金草などで作れるようになっているから、実質的に必要なのは俺のMPだけだが。
(まずは霊薬の素を作る)
素材は錬成水と錬金水、それと錬金草だ。
これも素材の品質によって良し悪しが変わるらしいが今は気にしない。その後にヒメリ草を錬成水と錬成草で錬金して準備は整った。
全て俺のMPとスキルによって作成されたそれらを使ってこの場での最後の錬金を行う。
それが失敗することはなく目的の品は無事に完成していた。
(品質は13と低いけどそれでも低位体力回復薬であることに変わりはない。しかも霊薬作成スキルと品質の効果で若干期限も延びてるな)
低位体力回復薬の最低限の効果はHPを300回復させるというもの。
ダンジョンでドロップする物は全て品質が0であり最低限の効果しか持っていない。
だが俺が自分のMPとスキルを利用して作ったこの低位体力回復薬は品質が13あることでHPを313回復させる代物になっていた。
現状ではたった13しか変わらないかもしれない。
だけどこの分なら品質を最高の100に出来ればHPを400回復する低位体力回復薬を作れるはずだ。
更に高品質の物は他に特別な効果が付与されることもあるようだし、それらを作れるようになれば必ず今後の役に立つはずだ。
それは俺の主目的である探索者活動だけに留まらない。
(さてと、これで反撃の準備は一先ず調ったな)
低位魔力回復薬もヒメリ草を魔力回復効果のある草に変えれば作れるし、異常回復薬も同じ要領で問題ない。
今は作れる回復薬はこれだけだが、今後の活動を進めていけばそれもすぐに増えていくだろう。
そう思うと笑いが止まらない。
これらの事象が表沙汰になれば世界を大きく揺るがすことだろう。だが俺はそれを止めるつもり毛頭はない。
「時機を見て世界中を震撼させてやる」
別に世界を壊そうとか魔王のようなことを考えているのではない。
回復薬が量産できるようになれば多くの探索者は助かることだろうしダンジョン攻略も容易になる。それ以外の大きい目でみればメリットの方が大きいことは間違いない。
だがメリットが大きいからこそ反響も大きくなる。そして事態が大きく動く時に全ての人が幸福になるなんてことはあり得ない。このことが影響して不幸になる人もきっと多く出ることだろう。
例えばダンジョンが発生したせいでダンジョン投資の詐欺に騙されることになった愛華の父のように、思わぬところに知らず知らずの内に影響を及ぼすことになるだろう。
もっともそれを恐れるような軟弱な精神を俺はしていないが。
俺は俺の望みを叶えるために突き進む。
その障害となる奴は容赦なく排除するし、協力者にはその行為に報いるだけの恩を返すつもりだ。
「まずは百本ほどでジャブを仕掛けてやろうかね」
どういう反応が返ってくるか楽しみだ。
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