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第十二話 森本修二との遭遇

本日と明日は12時、17時、21時の1日3回更新ですのでお気をつけて。


感想などお待ちしてまーす!

 呼びかけられた方を見ると見知らぬ若い男が立っていた。その視線を向ける先には間違いなく俺がいるので呼ばれたのが勘違いということもなさそうである。


「お前が八代夜一だな?」

「そうですけど、どちら様ですか?」


 覚えていないけど会社で会ったことのある誰かかもしれないので念のために外面を良くして対応する。


 その変化に愛華が思わずといった様子でこっそり笑っているのが視界の端に映ったが今は無視だ。


「俺は森本修二。Dランクの探索者だ」


 一瞬本気で誰だか分らなかったがすぐに思い出した。


 (えい)()と勘九郎から副本部長の息子がちょっかいを掛けてくるかもしれないから気を付けるように少し前に警告されていたのだ。


 その理由は調査中とかで教えてもらえなかったけど。


「森本? ……というともしかして協会の副本部長の関係者ですか?」

「ああそうだ、俺は息子だよ。でもって今日はお前に忠告しにきてやったんだ」

「忠告ですか? 一体何を?」


 さも何も知りませんという態度で聞き返すと傍の愛華が笑いをこらえきれないように顔を背けた。


(お前、こっちが演技してるんだからバレるような真似するなって)


 仕方ないので少しだけ前に移動して愛華が相手から見えないよう位置になるようにする。


「もしかして協会からの連絡ですか? あの件の罰則についてはもう話が済んでいるはずですが」

「そうじゃねえよ。これはD級の俺からG級になったお前に対する個人的な忠告だ」


 やたらと級を強調してくる辺り昔はともかく今は自分の立場が上だと誇示したいのだろう。


 だからと言ってG級がD級の命令に従わなければならないなんてことはないのだが、この手のアホにそんな常識を語っても仕方がない。アホだから常識を理解できないのだから。


「お前、未だに探索者としての活動を辞めてないらしいな。G級に降格した上にランク1に戻ったくせに」

「そうですけど、それの何がいけないのでしょうか?」

「生意気なんだよ。落ちぶれたのならそのまま消えろ。目障りだからよ」


 意味が分からない。そもそも別にお前の前に姿を現してないだろうに。

 因縁をつけるにしてももう少しまともな理由をでっちあげられないのだろうか。


「いいか、今すぐに探索者を辞めろ。これは命令だ」

「お断りします。あなたに迷惑を掛けた覚えはありませんし、そもそも何故そんなことを見知らぬ人に言われなければばらないのでしょうか?」

「ああ!? うるせえな。いいからお前は言うこと聞いておけばいいんだよ!」


 そう言って奴は俺の胸倉を掴んできた。その割にはそこまで力が籠っていないからあくまで脅すためだけにこういう態度を取っているようだ。


(てかそれにしても力が弱っちいな。こいつ、本当にD級なのか?)


 腕力を強化するSTRの補正が弱い職業だとしてもD級ならそれなりのランクになっているはず。それなのにここまで力が弱いなんてことがあり得るだろうか。


「おい、なにをビビってんだよ。この程度で言い返せもしねえってか?」


 そんなことを考えて黙っていたせいだろう。奴がそんな勘違いをしだしたのは。


 まあそれはそれで好都合なのでその誤解を解くなんてことはせずに逆にその勘違いを加速させておくことにする。


「や、やめてください。急に現れてなんなんですか?」


 頑張って震える感じで声を出してみる。背後から笑いを堪える気配がするがやはり無視だ。


「はっ! 元C級のくせにこの程度の事態にも対応できないってか。情けねえな」


 そんなことをほざきながら手を離すと同時に突き飛ばしてくるので、その勢いに負けたふりをして背後の愛華にぶつかっておいた。その際にこっそりその横腹に軽く肘を入れておく。


「うっ!?」

「すみません。五十里さん、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です」


 謝るこちらを恨めしそうな目でこちらを見てくる愛華。痛みで笑う余裕がなくなったようで何よりだ。


「お、なんだよ。後ろの子、結構可愛いじゃんか。お前にはもったいないな」


 そこで初めて愛華に目を向けたのか奴がそんなことを言い出した。


「ねえ君、そんな奴なんて放っておいて俺と一緒においでよ。その方が絶対楽しいし君の為にもなるよ」


 一体こいつは本当に何をしに来たのだろうか。

 俺に喧嘩を売ったと思えば急にナンパをし始めるし何がしたいのかさっぱり分からない。


(まあいいや。面倒な相手を押し付けられるし)


 そう思って一先ず会話に入らずに困惑した様子のふりをして成り行きを見守ることにする。


「君、名前を教えてよ。あと連絡先も」

「……お断りします。急に現れて何なんですか? それとさっきから先輩に無礼な事ばかり言って失礼ですよ。謝ってください」


(おい、やめろ。そうやって俺にターゲットを戻させようとするな)


 殊勝なこと言う後輩のふりをしてそうしようとしているのが丸わかりだ。


 だって俺も同じようなことしているので。


――私は関係ないんですからこっちに持ってこないでください――


 そんなことを考えているのが目を見るだけで分かる。

 だが幸か不幸か目の前のアホはそんなこと通じなかったようだ。


「先輩ってこと君はこいつと同じ会社なのかな? あ、それとも探索者としての後輩ってこと?」

「……どっちもです。私は社コーポレーションの社員で探索者もやっているので」

「探索者なんだ。それじゃあ尚更こいつと関わるのは止めた方がいい。こんな落ちこぼれに関わっていたら君までそう思われてしまうよ」


 俺に対して接した時とはまるで違う態度で奴は愛華に言い募る。


 こいつは元C級かもしれないが現在では全て失った落後者であると。


 その上、多額の借金を背負っているから下手に関わらない方がいい。

 もし仮に恋人なら今すぐ別れないと借金を押し付けられるかもしれない。


 そしてこんな奴よりも探索者になって一年足らずでD級になった優秀な自分を頼ってくれれば今よりもずっと良い思いをさせてあげられる。

 しかも自分の父はダンジョン協会本部の副部長だから色々と便宜を図ってもらうこともできる。探索者としてやっていくのならその方が絶対いい。


 とかそういうことをペラペラと述べていた。だがそれを聞いても愛華は欠片も興味も示さない。それどころか逆に堪え切れないといった様子で表情から嫌悪感を隠せなくなってきていた。


「どうだい? なんならこれから二人で食事でも」

「いい加減にしてください。さっきから聞いてもいないことをペラペラと。気持ち悪いったらない」

「……気持ち悪い、だって?」


 そんな風に拒絶されるのが信じられないのか奴が呆然とした表情でそう呟く。


「ええ、その薄ら笑いも気持ち悪いしウザいです。今すぐ目の前から消えてほしいくらいに」

「お前、こっちが下手に出てれば調子に乗りやがって!」


 化けの皮が剝がれるとはこういうことを言うのか。


 それまでの懐柔しようとしていた態度が豹変して怒りを露にする。それどころか怒りのまま愛華に向かって手を出そうとしていたが流石にそれは看過できない。


「女だからって甘くしてればいい気になるなよ! このクソアマが!」


 俺は怒りのままに愛華を突き飛ばそうとした奴の前に立ち塞がった。


 その結果奴の手は愛華ではなく俺の身体に当たる。その瞬間にあえて自分から後ろに倒れる形で派手に転んでやった。持っていたバッグを放り投げて中身が散らばらせるおまけ付きで。


 流石にそうなれば周囲が何事かと注目する。そこで奴もこのままでは不味いと思ったようで周囲の視線を気にし始める。


「大丈夫ですか、先輩」

「ええ、大丈夫です」


 心配するふりしても全然慌てていないから愛華も俺がワザと自分で吹っ飛んだふりをしたのは分かっているようだ。


 まああの状況で普通なら愛華を巻き込む形で吹っ飛ぶはずなのに、そうならないよう突き飛ばされた方向と微妙に違う方に倒れたのだからその違和感で気付くだろう。


 もっとも目の前のアホはそんなことは全く理解していないようだが。


「けっ、俺の誘いを断ってこんな雑魚を庇うなんてバカな女だ。後悔することになるぞ」


 そんな捨て台詞を残して奴は去っていった。それであいつは結局何がしたかったのだろうか。


「なあ愛華、あいつは結局何しに来たんだと思う?」


 俺に対して敵意があるのは分かるがその目的が分からない。


 あいつは俺が探索者を辞めるように仕向けたいみたいだが、そうかと思えば急に愛華をナンパする方を優先するなど行動に一貫性がなさ過ぎる。


「私に聞かないでくださいよ。それよりも先輩、これできっと私も副本部長に目を付けられることになりましたね。先輩が面倒だからって私にあいつの相手を押し付けようとしたせいで」

「あー……やっぱり気付かれてたか」

「バレバレです。それで私もこのままだと探索者としてやってけなくなりそうですけど、どう責任を取るつもりですか?」


 そう言いながらも何故かニコニコと上機嫌そうに笑っているから全然怒っていないのは丸分かりだ。


「安心しろ。副本部長もあいつも俺達の邪魔になりそうな奴は全員徹底的に潰すから。絶対にな」

「本当ですか? 先輩のことは信用してますけど失敗することもあり得ますよね?」

「分かった、分かった。万が一それに失敗して海外に高飛びでもする時はお前のことは責任もって世話するよ。巻き込んだ責任があるからな」

「言いましたね。言質は取りましたよ」

「おう、任せとけ」


 よしっとガッツポーズを取る愛華。

 どうやら俺から引き出したかった言葉を得られて満足のようだ。


「それよりも散らばったカバンの中身を拾うの手伝ってくれ」


 それはともかく派手に倒れたせいでスーツも汚れてしまったのは最悪だ。


 クリーニングに出さなければダメだろうか。面倒臭い。


「なあ、倒れた際に怪我したからって理由で早上がりとかしちゃダメか? それでダンジョンに行って気分転換したい」

「それなら私も襲われかけた精神的ストレスってことで早退します。それが駄目なら怪我した先輩の看病ってことで」

「随分と適当な理由だな。……いや待てよ。どうせならこの状況も利用しとくか」


 どうせバカ息子から情報が行くだろうが更に補強のために鳳に俺が突き飛ばされて怪我したという偽情報を流しておいた。奴の前で足を挫いたと言って引きずる演技付きで。


 これであのバカ息子と副本部長が更にこちらのことを雑魚だと見縊ってくれることを期待するとしよう。


 そう説明したら社長(オヤジ)には呆れられながらも今日は帰っていいと言われたので、俺と愛華は帰るふりをして次の狙いのダンジョンへと向かうことにした。

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[一言] 主人公と後輩、この2人いいコンビしてるなぁ
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