第十一話 世間での評価は当てにならないこともある
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俺が降格処分でG級に落ちた上に借金が20億円。
しかも薬のせいでランク1になってしまった人物というのは、鳳に情報を流したらすぐに会社内で噂として広まっていた。それを聞いて態度があからさまに変化した人物もそれなりにいる。
まず御曹司であり次期社長だと勝手に勘違いして擦り寄ってきていた女性社員のほとんどが俺の前から消えた。
特別顧問という役職は変わっていないのだが、これだけの負債を抱え込んでいる人物を狙う利点はないと判断したらしい。
まあこちらとしても邪魔なくせに会社での立場もあるから邪険にできない状態だったので、いなくなってくれてむしろ大助かりである。
また俺と関わりがなかった男性社員からも評判は良くないらしい。
まあそれは探索者として使い物にならなくなった人物が親のコネで居座っていると思われているようなので仕方がないだろう。
俺だって事情を知らずにそんな奴がいると知れば軽蔑するしズルいと思うのも当然だ。
そんな俺を嫌う男性社員筆頭であり率先して噂を流してくれている鳳君だが、意外なことに直接的に何かを言ってくることはない。
ランク1になったと知ったら今なら勝てると言わんばかりにマウントを取ってくると思っていたのだが。
「それはジャイアントラットの時のせいで先輩にトラウマを持ってるからですよ。幾ら弱くなったと思ってもあれだけやられて苦手意識を持った相手に近付きたくはないみたいです。まあ本人はそのことを隠しているみたいですけど」
今では数少なくなった一緒に食事をしてくれる女性社員の愛華がそんなことを教えてくれた。
なお現在の居場所は会社近くの安くて美味しい定食屋である。
「そんなもんか。俺なら弱った相手に止めを刺しに行くけどな」
今は鳳を騙すためにも弱った体で攻められたら押されているふりするつもりだったのに、肩透かしを食らった感じだ。
「その分と言っていいのか先輩のいないところでは悪口と根も葉もない噂を流しまくってるみたいですよ。おかげで先輩の株は急降下。事情を知らない人達からの評価は最低みたいですね」
「別にいいさ。本音を言えばこのまま評価が悪化してクビになっても構わないくらいだし」
もっともそんなことは社長を始めとした本当の事実を知る一部の役員などが許さないだろうが。
なにせ俺は現状では世界で唯一の霊薬作成者なのだから。
社コーポレーションとは今後回復薬を作成して売りさばく際に起こる面倒事を引き受けてもらうという約束をしてある。
回復薬を販売する際にはなるべく社コーポレーションを通すことを条件にして。
まあ世界で初めて回復薬を量産して販売することが可能になるのだから、その程度の条件を呑まない奴はいないというのが社長の言だ。
意外だったのは鳳以外の最初の実地訓練に参加した人物は全員が態度を変化させなかったことだろうか。
回復薬研究で関わりの深かった外崎さんはともかく他の新入社員はまた鳳に影響されるかと思っていたのだが。
「私もあの人達もジャイアントラットの時に先輩の素を少しは見れましたからね。たぶん逆らったらいけない相手だと本能的に理解しているんだと思いますよ」
「何だそれ。別にそんなに怖いことしてなかったはずだけどな」
「いや、ナチュラルに拷問みたいな事させようとしてましたよ」
それは見切りをつけた鳳をボス周回させようとしたことだろうか。それならそれは勘違いだと言いたい。
「あれが拷問だと思われたなら心外だな」
「それはどういう意味でです?」
「決まってるだろ。本当に拷問するならあの程度で済ます訳がないって意味だ」
むしろ鳳が頑張ってジャイアントラットを倒せれば経験値稼ぎができるというご褒美すら残されているのだから拷問と言うには甘過ぎだろう。
やるならもっとえげつない方法なんて幾らでもあるのだし。
「そこでまず初めにそういう思考になるのが原因だと思いますけど。まあいいじゃないですか。別にそれで困っている訳でもないんでしょう?」
「まあな。意外だったけどあれなら今後も指導はできそうだし」
全員が鳳と同じような態度を取るのなら指導など止めるつもりだったのだが、学ぶ気があるのなら鍛えることはやぶさかではない。
何なら使えそうなら愛華と同じようにこちら側に引き込んでしまえばいいのだし。
今後のことを考えるのなら使える奴は幾らいても構わない。会社的にも個人的にもだ。
そんなことを話しながら次に行くダンジョンも決めた辺りで食事も終える。
そしてそこの支払いは何故か俺がした。
「ご馳走様です、先輩」
「おいおい、俺には借金があるんだぞ。しかも20億。その相手に奢らせるってひどくないか?」
「逆にそれだけ借金があるなら今更千円や二千円奢ったところで大した違いじゃないってことで」
「はは、違いない」
これは一本取られたか。そんな冗談めかした会話をしながら会社に戻ろうとしている時だった。
「おい、そこのお前」
急に知らない奴に呼びかけられたのは。
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