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第四話 対策会議

 そもそもどうして探索者資格の剝奪にまで話が進んだのか。それは全てダンジョン協会本部の副本部長である森本という野郎のせいだ。


 最初はそこまでの罰ではなかった。いくら不可抗力の面が多くても何もなしでは周囲に示しがつかないし、今後それを言い訳にするアホが出てくるかもしれない。


 また決められた規則的にも減刑は出来ても無罪は難しいという話だったので、それについては仕方ないと受け入れた。実際俺がダンジョンコアを壊したことで世田谷支部の職員を始めとした関係者に大きな迷惑を掛けたのは事実だから。


 だから俺は研修をしていたら試練の魔物が現れたこと。皆を逃がすために奴と一人で戦ったこと。そして一度は討伐したと思った奴がダンジョンコアを取り込んで強化されたことまでは正直に報告した。


 もっともその後はダメージを負わせた奴はそのまま逃げるように姿を晦ませたということにしている。それでダンジョンコアを持ち逃げされてしまったので遠くないうちにこのダンジョンが消滅するかもしれないということにしたのだ。


 まあ哲太達よりも大分遅れて到着した他のCランクパーティ二組と世田谷支部の支部長はボス部屋周辺の壁も床も原形を留めていないような激しい戦闘痕を見て、むしろ同情的だったくらいだ。


 これだけの戦いをして敵を退けたのに罰は避けられないのは可哀そうだと。


 実際支部長は状況的に情状酌量の余地があるのと協力的な態度であることを考慮して可能な限り罰が重くならないように手配してみると言ってくれて、最初は数千万ほどの罰金で済むはずだった。


 これも決して安いとは言わないが、それでも稼げるC級ならこのくらいの出費は許容範囲内といったところだろう。


 それで一度は話が付いて、正式な通達はダンジョンの消滅が確認されてからということになっていた。


 これは万が一俺が嘘を吐いているとか、そうでなくてもダンジョンコアの破壊ではなく持ち出した場合は消滅が起こるか不確定なところがあったからだ。


 そうして俺が入院している間に世田谷支部ではそのタイムリミットまでに職員が関係各所に連絡を取って状況の説明に追われたり、その辺りを主に活動している一部の探索者がダンジョン内に取り残された人がいないか確認して知らずに入り込む人が出ないように交代で門番をしたりと色々と時間がない中で大変だったようだ。


 そういった迷惑を掛けた人達に対する迷惑料の意味を込めて俺は罰金については払える範囲で上乗せしようかと支部長に相談していたくらいに話はスムーズに進んでいた。


 だが実際にダンジョン消滅が確認されてようやく落ち着けるかと皆がホッとしていた辺りで、それまで何も言ってきていなかった本部から急に人が派遣されてきたのだ。


 そして事態を見ていた訳でもなく大した聞き取りするでもなく下される罰が軽過ぎると文句をつけてきた。


 それどころか他にも色々と暴言を吐いてきた上に、罰金は前例に倣った額にするべきで更には危険行為を行なった俺の探索者の資格を剥奪すると一方的に言い出したのには流石に頭に来たものだ。


 当然のことながら俺はそれに唯々諾々と頷いたりしない。既に世田谷支部とは話がついていたのに急にそれを反故にするなど話が違う。


 だがこういう事態の最終的な決定権は支部ではなく本部にあり、今回の決定を下したのがその本部の副本部長というお偉いさんだということで世田谷支部の職員や支部長ではどうしようもなかったらしい。


 まあ組織の上役に逆らうなんて簡単にできることではないのでそれは仕方ないだろう。


 一応俺が退院した後に話し合いの場は設けられることになってはいるが、これだけ勝手なことを強引に推し進めている奴らが相手なのだ。このまま何もしなければその決定が覆ることはまずあり得ないだろう。


 少なくとも実際にその場にいなかった上に杜撰な調査で処罰を決定しようとしている奴らにそんな期待をするほど頭がお花畑ではない。


 だから何故そんなことになったのかについての調査を諜報活動が得意な朱里と英悟の双子に依頼してある。その結果が資料として目の前に広がっていた。


 そもそも何故本部のトップである本部長ではなく次点の副本部長がこの大事な決定を下したのか。


 それはどうもその本部長とダンジョン庁の長官などが海外で行われている国際会議に出席していて不在だからとのこと。


 その留守を預かっている森本恭吾副本部長という奴が今の本部の実質的なトップとして君臨している形のようだ。そしてこいつは当初、ダンジョンが消滅するかもしれないという事態でも姿を現すことはなかった。


「ダンジョンが消えてから姿を現すなんて随分と動きが遅いと思ったら隠れて愛人と海外旅行に行ってたみたいですよ、こいつ」


 英悟が非常に悪い笑顔を浮かべていた。それが推測ではないことが証拠の写真付きの資料で証明されている。しかもこの愛人は三番目だそうだ。どうでもいいか。


「こいつに愛人がいようがその愛人と旅行に行こうが俺にはどうでもいいことだけど、それならなんでこんな明らかに遅いタイミングで口を挟んでくるんだ? 下手に騒いだら自分に注目が集まってこの醜聞が目に付きやすくなるだろうに」

「いや、こいつは何とかしてここで口を挟んでおかないと不味いんですよ。だってダンジョン消滅なんて結構大きな事態に対して何の対応もしてなかったのがバレたら一体その間に何をしていたのかっていう話になるでしょう?」


 何かに関わっていたことにしないと不味い。


 だが連絡が取れて急いで戻ってきた時には既にダンジョンが消滅して後始末も大方片付いた後だった。


 残っていたのはダンジョン消滅後に正式に決めようとしていた俺の処罰くらいのもの。

 だからそこに口を挟んできたのか。


「愛人との海外旅行は権力を使ってもみ消して、夜一さんの処罰を重くすることで仕事をしていたことにする。まあ実際、罰金で取る額が増えればその分だけ本部は資金的に潤いますからね。その金で賄賂でも送って色々と誤魔化したり裏金作ったりする予定なんじゃないですか?」

「つまり俺はこいつが仕事していたアリバイを作るためとか都合のいいように利用されようとしてるってことか?」

「勿論それだけじゃないですよ。どうもこいつ、半年くらい前から子飼いの探索者に試練の魔物を見つけて討伐するようにこっそり指示を出してたそうなんです。狙いは試練の魔物が落とすレアアイテムでしょうね。んで、今回の件で試練の魔物が強化されたことに大変ご立腹みたいです。まあほんとはもう夜一さんが倒した後なんてことあっちは知らないでしょうからね」


 半年前ということは俺達が試練の魔物と戦った時か。なるほど、その時に試練の魔物の存在を知って誰よりも先んじて倒せればレアアイテムを手に入れられると踏んだ訳だ。


 だが今回の俺の行動のせいで試練の魔物は強化されたことになっている。それを邪魔されたと思ったのか。


「余計なことをした夜一さんに対する嫌がらせ。あとはやたらと試練の魔物と遭遇する夜一さんを警戒しているんでしょう。先を越されるかもしれないって」

「そんな私利私欲のためだけに探索者資格を剝奪しようってのか? 日本ではトップ層に入るC級相手に探索者を管理する組織の副本部長が?」


 政府、正確にはダンジョン庁もこんなのを放置して一体何をしているのやら。


 こんなことだから日本にはA級がいない、正確にはいなくなったのだと文句を言ってやりたい。


「まあこれが普通のC級なら流石にここまであからさまではなかったかもしれないですけど、夜一さんは世間からは怪我で引退してるって見られてますから」

「ああ、なるほど。どうせ引退してるかその間際の奴だから問題ないと」

「それでも頭おかしいと思いますけど、こんなアホなことを実行しようとする時点でバカなんで考えても無駄っすよ。それにこいつ、後ろ盾が与党の議員とかで今までもその権力を利用して悪さしてたみたいですからこういうのが常習化してますね」


 こうやって権力を使って今までも好き勝手やってきたから今回も大丈夫だと高を括っているのか。まあ一般的には探索者は魔物を好き好んで討伐している野蛮人という印象が強いので、こいつもそういった風に俺やその他の探索者のことを舐めているのだろう。


「あとこれはまだ完全に証拠が集まり切ってない話ですけど、後ろ盾の議員と癒着があると噂されている幾つかの企業が社コーポレーションのことを良く思ってないみたいです」

「ああ、それはあり得るな。うちは五年前に出てきて急成長した反面、結構周りから妬まれているみたいだし。ちなみにその会社の目星はついてるのか?」

「まず確実なのは帝命製薬って製薬会社ですね。他はまだ調査中です」

「分かった。あとで社長にもそういう情報がないか聞いてみる」


 とにかくその副本部長は俺のことを陥れたい理由が複数あるみたいだ。


「さてと、原因が特定できたところでどう対策しようか」

「それについては私に考えがあります。ですがそのためには大事なことを決めなければいけないですね」

「大事なこと?」


 勘九郎が急にそんなことを言い出した。


「そうです。これだけの証拠があるなら資格剥奪を撤回させるだけならそう難しくないでしょう。だから君が考えるべきことはどういった形でそのように持っていくか。もっと言うのなら今後どういう風に活動していくのか、そのためにどういった落としどころに持っていけば今後有利に働くかなどを意識して動くべきです」

「今後の活動方針か。それなら一応決まってるぞ」


 そう言って俺はとあるアイテムを指さす。それを見た全員がやっぱりかという風な顔をしていた。


「俺はこれを使って誰も到達していない探索者の高みを目指す」


 指さしたそのアイテムの名称はリセットポーション。

 やり直しの薬だ。

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[一言] やっぱ日本の政治関連ってゴミやわ···
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