第五十六話 戦いと強さを求める者の宿命と直感
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折角の機会だったので、俺はその後もアマデウスに気になった点などについて色々と話をした。
そしてその中でも印象的だった内容を思い出す。
「そういやさっき先代黄金神は命を捧げたようなことを言ってたけど、それならあの言葉尻はどういう意味なんだ?」
命を懸けて継承したことになっているという言葉からして、実際はそうではないと思われる。
その考えは間違っていなかったらしく、あっさりとアマデウスは肯定してきた。
「ああ、それは言葉通りの意味だよ。あの方は命を懸けて力を継承するという我らにとって重要な儀式を行なうフリをして、実はこっそりと生きて在野に下っていたのさ。その事実を知る者はあの方の御使い筆頭だった私のみだけどだね」
なんでも先代黄金神がトップに君臨していた期間はかなり長く、それもあって生きたまま引退しても大き過ぎる影響力が残ってしまう恐れがある状態だったのだとか。
また当代の黄金神が祖父である先代を非常に尊敬しており、最悪は先代の傀儡のような形になる懸念すらあった。
過去には同じようなやり口で、年を経て衰えても権力の座に縋り付こうとした黄金神もいたのだとか。
勿論先代黄金神はそんなことは望まなかったし、世代交代を促す上でも自分がいてはダメだという結論を出したようだ。
「だからその大切な儀式とやらを利用してまで、死んだフリをしたと」
「建前ではそうだよ。もっともあの方の本音は、あとのことは後進に任せて、自分が思いのまま好きに動くことだったけどね」
なにせそうやって自由の身になった先代は、異世界でも誰一人足を踏み入れたことのない人類未踏の地。
A級以上の魔物しか生息しておらず誰も生きて帰ってこられないとされているとされた危険地帯へとたった一人で旅立っていったとのこと。
「あの方は若い時分から戦って強くなることを生きがいとしていたそうだ。それこそ今の我が主が如く。そしてそれは黄金神となってからも変わらなかった」
だが先代が黄金神となってから時間が経てば経つほど、戦える相手は減っていった。
黄金神となる前から戦いの天才と称されていた先代の力は黄金神となってからは更に磨きがかかったからだ。
その結果、かつては好敵手として切磋琢磨した間柄の相手とも大きな実力差が生まれてしまうことになる。
ならばこれまでにない強大な魔物を獲物とすれば良いかと思えば、派閥の長を一人で危険な真似はさせられないと他の者達に止められることが多くなってくる始末。
「俺が言うのもなんだが、その先代とやらは破天荒が過ぎんだろ」
「それは否定しないさ。そしてそんな形で不満を溜め込んでいた先代は、周りの者にこう宣言したんだ」
一人での魔物討伐が危険だと言うなら、今後は俺と同等の力を持つ護衛を同行させる。
それなら魔物討伐のために遠征しても文句はないだろう、と。
「いや、そういう問題なのか?」
「絶対に違うね。だけど意外なことにその条件を周りの側近たちは受け入れたんだ」
何故ならそれを言い出した時点で先代に匹敵する実力者など周りには存在しなかったから。
またその護衛となる者が見つかるまでは大人しくしていると先代が誓ったことも大きかったらしい。
「側近連中からしたら先代と同等の実力者など、まず見つかるはずもないと思っていたんだろうね。だが先代もそれは考慮済みであり、既に裏で手を回していたのさ」
何と先代はそう言いだした時点で素質のありそうな者を自ら探し回って、将来の護衛兼右腕となる者を確保していたのだ。
そう、アマデウスというその時点では単なる貧困層の子供でしかなかった奴を。
「先代曰く、どうにかして側近共から自由を勝ち取ろうと作戦を考えているところに私を見つけて、不思議と確信したそうだ。目の前の子供が、自分に届く牙を持ち得る稀有な存在だと」
そしてそれを利用して自由を勝ち取る算段を付けたとのこと。
「それもあって私は先代から重用されたものだよ。魔物討伐に行くときは勿論、暇な時はしょっちゅう手合わせに付き合わされる形でね。もっとも成長するにつれて私も先代以外とは隔絶した力を手に入れていたから、自然と相手は限られていたのだけれど」
アマデウス自身も強くなるにつれ、まともに戦える相手が少なくなっていたらしい。
先代黄金神と同じように。そうやって懐かしむような口調だったアマデウスが、そこで意味深な視線をこちらに向けてくる。
「当時の私は、その不思議な確信とやらがどういったものだったのか理解できなかった。だが今ならよく分かるよ」
つまり昔のアマデウスの立場が俺のようなものだと言いたいらしい。
そしてだからこそ異なる世界の人間である俺でも黄金神になれるはずだと信じている訳だ。
「だから私としては我が主が強くなることに関しての心配はない。むしろ私が心配しているのは、我が主もいずれ私や先代のような思いをする日がやってくるかもしれないということだね。戦いと強さを求め続けた結果、周りが付いてこられないといったような思わぬ不幸が起こる形で」
「それは光栄な話だが、流石にまだ気が早いだろ。まだまだ他の使徒だっているし、アーサーとかユニークスキルを有する奴だっているんだからな」
それ以外にもA級の魔物だってたくさんいるのだから。
「いやいや、今回の天空ダンジョンの件でC級、下手をすればB級に昇級するかもしれないそうじゃないか」
B級ダンジョンのボスはA級の魔物である。
そいつを単独討伐した俺には最低でもB級の実力があるのが明白。
その点は同じダンジョンに挑んでいた有人など他のB級探索者のお墨付きがあるし、今回の件で黄金神一派とも繋がりができた。
異世界の残党共は世界ダンジョン機構の設立にも一枚噛んでいるようだし、十分な実績とそいつらの一部の推薦があれば昇級はほぼ確実だろうというのがウスリスクの話である。
「やり直してからまだ一年も経っていないというのに、君は以前の自分の地位を追い越そうとしている。そしてこのペースだと探索者の現状の頂点であるA級になるのも時間の問題だろうさ」
そしていずれは他の追随を許さなくなるのも、そう遠いことではないだろう。
だが安心してほしいとアマデウスは言う。
「戦闘型ホムンクルスや黄金神のレシピが手に入ったおかげで、ようやく私も情報を流す以外で主の役に立てそうだからね。なんなら今後は私が主の暇潰しの相手をすることになるかもしれないよ?」
「それはまさかお前と再戦するってことか?」
試練の魔物だったアマデウスとはそれこそ死闘を演じたものだ。
運が悪ければ死んでいたかもしれないほどの。そんな戦いは二度と御免だと思うのが普通の奴の感性なのだろう。
仮にそれが相手を殺すことのない模擬戦だったとしてもだ。
「おいおい……最高だな、それ」
だけどそれに反して俺の答えはこれだった。
それも嘘偽りない心からの。
そしてそれはアマデウスも同じらしく、俺と同じく獲物を見つけた獰猛な笑みを浮かべているではないか。
その凶悪でありながら心の底から楽しそうな笑みを見て思う。
きっとアマデウスはこんなやり取りを先代黄金神としてきて、更には幾度となく手合わせもしてきたのだろう。
そしてそれがこいつにとって楽しかった最高の日々だったのだろうと。
こいつと同類の俺には嫌でもそれが理解できてしまえた。
「流石は私が主と認めた人物。強さや戦いに対する飢えが並大抵のそれではないね。ああ、私としても本当に楽しみだよ」
アマデウスとしてとしてもアルケミーボックスにジッと隠れているだけの日々は退屈でしかないらしく、俺とやり合える日を渇望してならない様子だった。
「とは言え、そのためには私の魂の入れ物となるホムンクルスを用意してもらわなければならないのだけどね」
「そこはこっち任せなのかよ」
「仕方がないだろう? 器が原型ホムンクルス程度の現状では、簡単な錬金すら不可能なのだから」
そうでなかったら自分で肉体となるホムンクルスを用意しているとのこと。
ちなみに本気のアマデウスとやり合いたいのなら並大抵の性能ではダメらしい。
だってかつて黄金神に匹敵するとも言われたアマデウスの強大な力に耐えられる代物でなければ、アマデウスが全力を出すことは叶わないのだから。
「我儘な奴だな……でも安心しろよ。いつか俺がお前の肉体に用意してやるさ。それもとびっきりの奴を」
「ふふ、ありがとう。楽しみにしているよ」
そうやって俺達、戦闘狂の似た者同士の主従は、いずれくるだろう再戦の日に胸を弾ませるのだった。
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