第五十四話 王としての覚悟と責務
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「ウスリスクから当代黄金神の魂が保管されていることは確認できた。つまり私と同じような方法で彼女の復活を成し遂げれば、失われている残りの黄金神のレシピも手に入れられるということだね」
そうやって俺に全ての黄金神のレシピが手に入る手段を提示してくるアマデウス。
それに対して俺は前から思っていた疑問を口にした。
「それがお前の真の目的か? アマデウス」
「……それはどういう意味かな?」
「恍けるな。前々から疑問だったんだ。お前がどうしてこの俺を仕えるべき主として認めているのかと」
確かに俺は試練の魔物だった頃のアマデウスに勝利した。
それがギリギリでアマデウスが治療しなければ死亡していたとしても勝利したという点は揺るがない。
「だけどそれだけでお前のような奴が、仰ぎ従う主を決めるってのに違和感がある」
全ての御使いがそういう性格とか、そのような生物的な性質を持っているのならまだ分かる話だった。
だけどエルーシャやウスリスク、それにアソシアなどの御使いを見てきたことで、そうではないことを俺は理解している。
「良くも悪くも御使いは人間と同じようだったからな。だとしたらお前が俺に仕えているのにも、何か目的や理由がある方が自然ってもんだろう」
こいつが俺の力量や将来性に期待しているのは嘘ではないだろう。
だけどそれと同時にそれだけとは到底考えられなかった。
こいつがそんな単純な奴ではないことは、これまでの短い時間だとしても分からないはずもないのだし。
「どうせ何か隠している思惑があるとは思っていたし、別にそれ自体を責めるつもりもないから構わない。だけどお前の目的が当代の黄金神の復活だった場合、仮にそいつが復活した後のお前はどうするつもりなんだ?」
当代の黄金神はアマデウスがかつて仕えて誰よりも尊敬している先代黄金神から託された相手だ。
そいつを復活させられるとなったなら、今度こそ万難を排して守ろうとしてもおかしくはないだろう。
「俺と復活した当代黄金神が敵対した場合、お前はどちらに付くつもりだ? 答えろ、アマデウス」
踏み絵を迫るつもりで俺がアマデウスを見てみれば、何がおかしいのかクスクスとアマデウスは笑っているではないか。
それどころか一切の迷いなく答えを返してくる。
「迷うまでもない質問だ。仮に復活した彼女が君と敵対したのなら、その時は君に仕える者として私が彼女を叩き潰すよ。それも一切の容赦なく、徹底的に」
その眼は本気も本気。
冗談を言っている様子など欠片もなかった。
「それに幾つかの誤解も解いておこうか。確かに君の予想通り、私は彼女を復活させたいと考えてはいる。なにせ彼女は先代黄金神から託された人物だからね」
そのために俺に力を付けてもらいたいという思惑があることもアマデウスは認めた。
「だけどそれと同時に、私は彼女が再び黄金神となることには反対の立場なんだ」
「それは、どういう意味だ?」
「簡単な話だよ。どれだけの才能があろうと、難しい事情があったとしても、彼女は黄金神として失敗した上でその命を潰えさせている。そんな者がもう一度、派閥の長になる愚行を許すなど、それこそ正気の沙汰ではないよ」
しかも当代の黄金神の死亡が大戦のきっかけにもなったのだ。
その責任が軽いはずがないとアマデウスは厳しく言い切る。
「どうやらお前は当代黄金神を結構厳しめに評価しているんだな。意外だったよ」
「勘違いしないでほしいんだが、私も彼女の錬金の腕に関しては認めているよ。単に新たな錬金アイテムやレシピを開発するという意味では、彼女の才能は私や先代黄金神を凌駕しているのは間違いないしね」
ただ、それでもアマデウスは彼女を再び派閥の長に戴冠させるのはできないと断言した。
「彼女は錬金術師としては紛れもなく天才だった。それも歴代でも有数と言えるほどに。だけどそれと同時に彼女には王としての覚悟が足りず、果たすべき責務も重さも理解できていなかった」
「それは側近だったトルテインに殺された脇の甘さのことを言ってるのか?」
黄金神のレシピを継承していることから、黄金神となった当代黄金神が弱かったとは思えない。
近しい立場にあったアマデウスや先代黄金神が相当な強者だったことからも、恐らく当代黄金神も同じくらいの強さは誇っていたことだろう。
だがそれでも殺されてしまった。
信頼を寄せていた側近のトルテインに裏切られて。
恐らくは油断しきっているところに不意を突かれたような形だろうと思っていたのだが、どうやらこのアマデウスの様子を見ると、そう単純な話でもないらしい。
「そもそも黄金神として全盛期だった彼女を殺すのは並大抵の難易度ではないんだよ」
そんなに簡単なら、もっと昔から敵対派閥による派閥の長を狙った暗殺が横行していたことだろうとアマデウスは語る。
「たとえ戦闘力では歴代最強候補に入るだろう先代黄金神であっても、その先代と共に暴れ回っていた私であっても、彼女を即座に仕留めるのは難しかったことだろう。抵抗されている間に護衛が駆けつけることを考えれば、そう時間を掛けてはいられないのだから。当然、それはトルテインも同じことが言える。ただしそれは彼女が万全な状態であれば、の話だけれどね」
「それは当代の黄金神は何らかの理由で弱っていたってことだな。まさかトルテインが何か画策したのか?」
「弱っていたのは合っているが、その点に関してトルテインは何もしていないよ」
そうしてアマデウスから発せられた言葉には、流石の俺も驚愕するしかなかった。
「当代黄金神があっさり殺された最大の理由。《《それは当代黄金神である彼女自身がそれを望んでいたからさ》》」
本日21日の20時からYouTubeのHJ文庫の公式チャンネルで今作を取り上げていただける予定となってます!
なお私もどのような形で紹介されるのかなどマジで何も知らず、本当に単なる一視聴者な感じです(笑)
興味のある方、是非私と一緒に見に行きましょう!!




