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[書籍第2巻、4月18日発売!]隻眼錬金剣士のやり直し奇譚-片目を奪われて廃業間際だと思われた奇人が全てを凌駕するまで-【第4回HJ小説大賞 年間最優秀賞受賞!!!】  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中
第五章 崩壊の序曲と御使い降臨

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幕間 アマデウスとウスリスク

「……アマデウス様、どうしてですか? どうしてあなたまで私の提案を否定するのです」


 我が主である八代 夜一が去った魂の回廊。


 そこに残された私に対してウスリスクという者が私に問いかけてくる。


「どうしても何も、それが我が主となった人物が受け入れるはずもない実に愚かしい提案だったからだ。だから私は仮にあの場で主がその提案を一行の価値があるとした場合でも猛反対したよ」


 その問いに私は分かり切った答えを返してやった。


 だがそれでも目の前のウスリスクは納得しようとしない。


「何故ですか? 主の身の安全を考えているなら、あなた様もこの提案を拒否する理由などどこにもないでしょう。それともまさかアマデウス様ともあろう方が仕える主よりも薫という人間の命を優先するというのですか?」

「仕える主の身の安全か。……それが単にこの場での命だけを守ってただ生き永らえさせる、という意味でなら確かにお前の言うことは間違っていないのだろうよ」

「それの何が悪いのですか? 錬金真眼を継いだ上にアマデウス様が主と認めた人物なら、今の彼は歴代の黄金神に匹敵するような何かがあるのでしょう。そのような御方なら我らが全力で危険からお守りするべきではありませんか」


 私のこの言葉に皮肉が込められているのを理解したらしいが、それでもウスリスクはまだそんなことを言っている。


 その過保護な親のような発言に鼻で笑ってしまった。


「ウスリスク、今のお前には類は友を呼ぶというこの世界の言葉がピッタリ当て嵌まるようだ。なにせ今のお前は当代の黄金真である彼女を守ろうとしていた、お前の主であるトルテインにそっくりだからな」


 そう、トルテインは最後の最後まで彼女を、当代の黄金神を守ろうとしていたのだ。


 だからこそその結果が彼女を殺すという選択肢になったのは、これ以上ないくらいに皮肉が効いている話ではあるのだが。


「……今の私がトルテイン様に似ている、ですか。だとするとやはりトルテイン様は力を奪うために主君殺しの凶行に及んだ訳ではないのですね」

「ほう、それが分かるということは、どうやらお前は奴のことを理解できる程度には傍にいたようだな。まあそうでもなければ、あそこまで肉体を酷く改造させられるはずもないか」


 主のアルケミーボックス内から隠れて交渉の場を見ていた私だが、そこに現れたウスリスクという男の肉体を見た時は流石に少しばかり驚いたものだ。


 何故なら体の多くの部分が、不必要な形で質の悪いホムンクルスのパーツと取り換えられていたからだ。


「大方、真実を吐かせるための拷問と大罪人に仕えていた懲罰といったところか。あるいは八つ当たりも込められていてもおかしくはないな」

「全て正解ですよ。単なる傷では回復薬を利用して治せてしまう。だからこそ私を捕らえた者共は、治療が困難になるように私を改造して徹底的に痛めつけたのです」


 愚かなトルテインは黄金神を害した後すぐに逃亡した。


 となればぶつようもなくなった怒りの矛先の一部が、奴に仕えていた者に向けられたのだろう。


「ただ皮肉な事にこの拷問のための改造のおかげで、私はこれまで他の者よりもこの世界で動けるようになっていたのですがね」


 この世界で言うところのサイボーグと言ったところだろうか。


 本来はマイナス効果でしかないはずの機械化改造だったのに、環境の異なる場所では何らかの耐性を得るのに役立ったという風な。


「とは言え、それでも限界はあっただろう」

「ええ、移植されていた質の悪いパーツはガタが来ていましたし、そもそもそれらのパーツを整備可能な設備も元の世界に置いてくるしかなかったですからね。仮に休眠施設で冬眠したとしても私の寿命は長くなかった」


 御霊石をホムンクルスに組み込む。


 我が主が簡単にやっているから誤解されるかもしれないが、実はこの行ないは決して容易なものではないのだ。


 そうでなければ目の前のウスリスクや他の黄金神一派の連中も、不便な肉体を一時的に放棄してホムンクルスにその魂を移していたことだろう。


 それが可能ならホムンクルスに意識だけ移すという面倒なことをせずとも、外の世界に出ることができるのだから。


「それにしてもその程度のことで苦労している辺り、本当に黄金真一派は重要な技術の継承のままならぬ状態でこの世界まで漂流したようだな。ただ安心すると良い。その窮状も彼が力を付ければ自然と解決するだろうからね」

「……アマデウス様、あなたはいったい何を企てておられるのですか?」


 その言い草からまだ私が彼を利用していると思っているのが窺えたが、これ以上否定しても納得しないだろうとその点は無視する。


 ただ私が何を目的としているかについては話してやることにした。


「その質問に答える前に一つ聞かせろ。彼女の、当代の黄金神の御霊石はお前たちが保管しているな?」

「……ええ、それは最重要の宝として厳重に保管しています。ですが、その」


 何か言い淀むウスリスク。


 だが生憎とその先は聞かなくても問題はない。


「厳重な封印が施されていて、お前たち程度では誰も触れられないになっているのだろう? それは腐っても黄金神候補でもあったトルテインが全力で封印したものだからな。それも当然というものだろうよ」


 トルテインは黄金神を殺してその力を奪った。それは間違いない。


 だけどそれと同時に殺した黄金神の魂である御霊石を大事に保管しようとしていたのだった。


 誰にも触れられないよう厳重な封印を施してまで。


 その理由も私は知っている。


 そう、トルテインは最終的には蘇らせるつもりだったのだ。


 自らの手で死に至らしめた彼女のことを。


(そろそろその辺りのことも彼には話さないといけないかな)


 どう言い繕おうとも、かつての神族や御使い達が失敗した事実は変えられない。


 その結果、世界が滅びたことも。


 でもだからこそ、それらの失敗から学べることがあるのもまた事実だった。


 だったら彼にはそういった我々の失敗を反面教師にでもしてもらうとしよう。


 たとえそれがあまり知られたくない一族の恥のようなものだとしても。


「私の目的は、今は空位となっている黄金神の座に彼を就かせることだ。それにより封印されている彼女を私と同じように復活させることもいずれ叶うことだろう」


 言っておくが仮に私がそうなるように誘導しなくても結果はそれほど変わらない。


 何故ならひたすらに力を求めている我が主ならば、遅かれ早かれその高みへと近付き、やがては辿り着くことになるからだ。


 かつての私が力を付けた結果、錬金真眼という力を手に入れたように。


「……アマデウス様は本気で信じているのですね。彼がかつて三大神と呼ばれた方々に匹敵するような存在になると」

「当然だ。それどころかそれらの存在を一部では凌駕してくれるのではないかという期待を寄せてもいるよ」


 そうでなければ私が仕える相手に選ぶはずがないではないか。


 これからも彼には数多の試練が襲い掛かることだろう。


 明らかに騒動に愛されている彼がこのまま何事もなく平穏な一生を終えるとは思えないし。


 だが逆に言えばその試練が苦しく厳しいものであればあるほど、乗り越えた時に得られるものも大きくなるというもの。


(最終的にどこまで昇り詰めるか。本当に楽しみだな)


 とは言え、そうなるのはまだまだ遥か先の話だ。


 今の彼は錬金真眼の全ての力を開放しきれていないし、それ以外の錬金術の扱いについても色々と知らなければならないことがあるので。


 そんなことを考えながら私はウスリスクに余計な真似をしないように改めて厳命するのだった。

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