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第五章 崩壊の序曲と御使い降臨

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第五十一話 試練の魔物が生まれたワケ

 魂の回廊と呼ばれる場所に現れたアマデウスを見てウスリスクが取った行動は素早かった。


 即ち両腕を交差させながら肩に手を置き、その状態で跪いたのである。


 それまるで肉体を取り戻したアマデウスが俺に対してやったように。


「こ、これはアマデウス様。私のような卑俗の身が、あなた様にお目通りできるなど光栄の極みでございます」


 どうやらこの体勢は異世界流の敬意を示す形のようだ。


 緊張と恐縮した様子を隠せないウスリスクの態度からもそれは察せるというもの。


 だがそんなウスリスクの態度に対して、アマデウスの回答は冷たかった。


「無駄な世辞は不要だ。そもそも今の私はそのような事を言われる立場ではない。今の私は先代黄金真の御使い筆頭ではなく、彼に仕える一介のホムンクルスなのだから」

「そ、そうなのですか。てっきり私は何らかの形で復活したあなた様が、何か目的をもって彼を動かしているのかとばかり」

「もう一度だけ言うぞ。私が彼(・・・)に仕えているのだ。この言葉の意味が分からないのか?」


 そう言いながら圧力を感じさせるアマデウスの言葉にハッとした様子で、ウスリスクは俺に向けて頭を垂れてくる。


「こ、これまでの非礼をお詫び致します。まさかアマデウス様がお仕えする御方とは知らず、そのような御方に対して私如きが対等のような口ぶりで話しかけるなど……!」


 冷や汗をダラダラと流しながら謝罪してくるウスリスクの様子は、余裕など欠片も存在しなかった。


 それこそ言葉一つを間違えれば首が飛ぶのかというくらい緊張と焦りがその身を支配しているのが分かる。


(てか、ホムンクルスも汗を掻くのな)


 そんなアホな事を考えながら俺は手を振って気にしないと示した。


「別にいいさ。だって俺自身があんたに敬われる立場って訳でもないんだし」

「で、ですが」

「いや、マジで良いって。そんなことよりどうしてあんたはアマデウスが生き返ったって分かったんだ?」


 今回はウスリスクだったから問題にならなそうだが、これが黄金神とは別の派閥だったら不味いなんてものではなかっただろう。


 だからこそそれを知ることが先決というもの。

 同じ形でバレることがないように。


 まだ何か言いたげでピリピリした雰囲気を漂わせていたアマデウスも、俺が止めるように視線を向けると仕方ないという風に矛を収める。


 そんなやり取りを見て目を白黒させた様子のウスリスクだったが、それでも質問を無視するのは不味いと思ったのかたどたどしく答えようとしていた。


「わ、私がそのように考えた理由は錬金真眼が完全な形で他人の手に渡るとは考えられなかったからです」


 確かに魔物を倒せばスキルが手に入るケースは存在する。


 だが全てがそうだなんてことはあり得ないし、中にはどれだけ倒しても人間には手に入らないスキルなども存在しているだとか。


(確かにスキルオーブでも仕様上、どうやっても手に入らないスキルとかがあるわな)


 そしてユニークスキルもその例外ではない。


 いや、むしろ保有者の魂と直結しているユニークスキルの方が、持ち主を倒した程度で手に入る可能性は低いとのこと。


「それはアマデウス様を復活させるのに失敗した際、図らずとも我らで実証しています」

「それってお前達は試練の魔物となったアマデウスを倒したことがあるってのか?」


 その言葉に頷くウスリスク。


 ただその話をよくよく聞いてみると、その倒した時というのはあくまで通常形態に限った話とのこと。


 つまり俺がやったようなダンジョンコアを取り込んで少なからず真の力を取り戻させた状態ではないようだった。


「そもそも試練の魔物と呼ばれる存在の発生自体、我らにとっては誤算でしたから」


 通常の魔物は特定のダンジョンに出現して、そこから外に出ることはまずあり得ない。


 人間が意図的に魔物を外に連れ出すとか、崩壊などの特殊な現象が起こらない限りは。


 だが試練の魔物はその法則に従わず、勝手気ままに様々なダンジョンを放浪する。


 かつて俺達ノーネームの前に突如として現れたように。


「この世界に逃げてきた我々は生き残る手段を模索していました。その内の一つに、かつての大戦で失われた力ある方々を蘇らせるという計画があったのです」


 アマデウスは大戦で死亡した。だがその魂は大戦を生き残った者が御霊石という形でどうにか保護していたのだとか。


(アマデウスとかの御霊石があったから、それをホムンクルスとかに組み込んで復活させようとしたってことか)


 黄金神一派はホムンクルスに組み込む方法を選んだが、他の派閥では別の手段が取られたとのこと。


 だが方法は違えど、力ある存在を蘇らせようとした目的は一緒だったらしい。


 ホムンクルスなどの仮初の肉体ではかつての力は発揮できなくとも、指導者として自分達を導いてもらえないか。


 少なくとも求心力の無さで苦労をしていたウスリスクなどはそういう点を期待して復活計画を実行に移したとのこと。


「その行ないは我らでも禁忌とされているものでした。仮にやるにしてもアマデウス様や歴代の黄金神のような圧倒的な実力を持つ者でなければ実現不可能という事も分かっていた。ですがそれでもそれに頼るしかないほど我らは追い詰められていたのです」


 そうして禁じられていると分かった上で強行した復活計画だったが、結局は上手くいかなかった。


 アマデウスの御霊石が組み込まれたホムンクルスは、残念ながらまともに意思疎通が出来る状態ないばかりか明らかに暴走していたからだ。


 そのことは戦った俺も良く知っている。


 確かに試練の魔物だったアマデウスは、まともに会話ができる状態ではなかったものだし。


「生み出されたそれら試練の魔物はアンデッドの魔物如き特色を持っていましたが、それは誤った方法で死者を蘇らせようとした影響なのでしょう。ですが最大の問題はそこではなかった」


 強行された復活計画だったが、失敗の可能性があることは考慮されていた。


 だから前もって用意しておいた戦闘型ホムンクルスなどの戦力で復活したばかりの試練の魔物は問題なく討伐されたとのこと。


「通常のホムンクルスは肉体を破壊された際でもコアだけを残す。だから我らの計算では失敗作を破壊しても中に組み込んだ御霊石は残るはずでした」


 だが困ったことに試練の魔物はどの個体も肉体だけでなく組み込んだ御霊石ごと消えてしまった。


 そればかりか討伐してもある程度の時間が経てば復活したのだ。


 それもどこかのダンジョンで突如として現れるような形で。


「当然、我としてもそれらを放置する訳にはいかなかった。万が一にでも試練の魔物を倒した際に御霊石を残すことがあった場合、それらが敵対陣営に渡る可能性があるからです」


 そうでなくとも御霊石の存在を知らない探索者が手に入れるかもしれない。


 御霊石はそう簡単に破壊できるものではないそうだが、それでも何か下手な事をされて中に込められた魂に悪い影響が有ったら目も当てられないというもの。


 だから自陣営が生み出した試練の魔物が世界のどこかに発生した際は、秘密裏に使途を派遣するなどして倒していたとのこと。


 その過程でその使徒などが錬金真眼などのユニークスキルが手に入ることもなかったからこそ、ウスリスクは俺が試練の魔物を倒しただけで錬金真眼を手に入れたことに疑念を持った訳か。


「エルーシャが疑問に思わなかったのは、この復活計画の真実を知る者は各派閥の上層部だけだからでしょう。復活に失敗しただけでも問題なのに御霊石を紛失したなど表沙汰にできることではない。なにせ復活計画に利用された御霊石は、アマデウス様のようにその陣営にとって力ある尊き御方ばかりでしたからね。そのため公式には、あくまで試練の魔物には御霊石そのものではなく、力の一部が乗り移ってしまったということにしてあるのです」

「それでエルーシャはその力の一部とやらを試練の魔物を倒した俺が奇跡的に継承したと思った訳か。てか、その復活計画とやらはなんで下っ端から試したりはしなかったんだ?」


 まずは失っても問題ない奴で試してもよかっただろうに。


 いきなりアマデウスとかの大事な御霊石を使わずとも。


「それはそもそも御霊石とは魂が物質化するほど強い力を秘めている必要があるからです」


 弱い奴はそもそも御霊石を残すことすらできないのか。


 だから御霊石を利用するとなれば必然的にアマデウスのような特別な奴になると。


「それに復活計画に利用できるような高性能ホムンクルスの数も限られていました。蘇らせる数が限られている以上、より力を持っていて我らの窮地を打破できる方を選ぶしかなかった」


 そうして選ばれたのが先代黄金神の右腕だったアマデウスだったということか。


「なるほどな。だとすると俺が錬金真眼を手に入れたって公表した場合、各陣営の上層部にはアマデウスの復活が気付かれる可能性がある訳か」

「だとしてもその数は極少数だと思われます。復活計画と試練の魔物の詳細を知る者は、それこそ派閥のトップかそれに近い者だけの極秘事項のはずですから」


 それにかく言うウスリスクが復活の確信を得たのも、俺と直接言葉を交わした上で実際に錬金する姿や錬金真眼の状態などをしっかりと確かめたからだという。


 力の一部というにはあまりに以前と同じ輝きを放つ錬金真眼を見て、どうやら力だけが復活しただけでは済まなそうだと。


「正直に言えば、何か奇跡が起きてアマデウス様の力の一部を継承している方が可能性としては高いと考えていたくらいです」


 それを考えれば、錬金真眼の情報を聞きつけただけでアマデウスが復活したことまで辿り着くことはまずあり得ないとのこと。


 同じ黄金神派閥ならともかく、別陣営は錬金真眼の状態についての情報も乏しいだろうし。


 仮に万が一復活の可能性がある事に気付いても、各陣営が大掛かりに動くのは難しいらしい。


 何故なら下手に動けば、失敗した復活計画の詳細などが表沙汰になりかねないからだ。


 だから錬金真眼のことが別陣営に伝わっても、即致命的となることは恐らくないだろうとのこと。


 もっともあまり知られない事に越したことはないだろうが。


「だとしたら今後もこの眼のことは隠して行動した方が賢明な訳か」

「そう思われます」


 どうやら仮に力を隠すのを止めたとしても、この眼帯を外すことはまだまだ難しいらしい。


 そう、それこそアマデウスの復活を公表しても問題ないくらいにならなければ。

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