プロローグ 取材に応じた理由
ダンジョンや探索者関連のことをよく取り扱うとある雑誌のインタビューにそれは掲載された。そしてそれは多くの関心を集めた。
〔消えたG級ダンジョンの真相! 孤軍奮闘した探索者に与えられた理不尽な罰とは!?〕
そこで書かれた内容は最近起こった日本のとあるG級ダンジョン消滅に関してのことだ。
新人探索者を逃がすために身体がボロボロになるのを承知の上で薬での強化を行なって時間稼ぎをした、とあるC級探索者の独占インタビューも載っている。
ダンジョン庁の発表だけでは事件の概要までは知れてもその場で何が起こったのかの詳細までは分からない。そういうこともあってこの雑誌は探索者関係者に好評でよく売れたらしい。
そのC級探索者はインタビューであまり知られていなかったことを赤裸々に語っていた。
突如として現れた試練の魔物とどのようにして壮絶な死闘を繰り広げたのか。
一度は首を刎ねて確実に止めを刺したのにダンジョンコアを取り込んで復活してきたこと。
それでもどうにか他の探索者が逃げる時間稼ぎをするために戦い、その際に薬を使い過ぎて後遺症で死にかけたことなどを。
更には現場となったボス部屋の写真もどこから手に入れたのかその雑誌には載せられていた。
原形を留めないほど破壊し尽くされたボス部屋とその周囲の惨状を示すそれらは大きな反響を呼んだ。
それと同時にダンジョンコアを取り込んだ試練の魔物はこれだけの状況になっても逃げ延びるしぶとさを持っていると知られることとなった。
一時はこれら全て捏造ではないかという話も出たが、救援のために実際に現場に行った他の複数の探索者の証言もあってこれらの戦闘痕は嘘ではないと信じられた。
これだけの相手に対して必死になって戦い、その果てに得たのは多額の罰金と降格処分だけ。
本部には流石に罰が重過ぎると抗議したが下された処分は覆らなかった。
これを理不尽だとインタビューでとあるC級探索者は憤る。
確かにダンジョンを消滅させる原因を作ったので罰は免れないかもしれないが、悪意もなく巻き込まれたことを一切考慮してくれていないと。
それどころか一部の関係者からは余計なことをせずにやられてくれた方が良かったという暴言まで吐かれたというのだから救えない話だ。
それは他の探索者を見捨てて逃げればよかった、死ねばよかったと言うのと変わらない。
当初は無断でダンジョンを消滅させたというC級探索者に非難は集中していたが、この記事を境にそれは一変した。
少なくとも一方的にその男が責められることはなくなり、処罰を決定したダンジョン庁や本部に非難が寄せられることも少なくなかった。
最終的には事情はあれど罰自体は適切なものなので覆すことはできない。ただそのような不適切な暴言を吐いたとされた職員は懲戒処分が科されるということが協会で決定して、その決定が発表されるくらいに時間が経つ頃にはこの話が世間の話題に上がることは少なくなっていた。
そうして当事者達以外はそんなことを気にすることがなくなっていき、表向きの目的である些細な意趣返しと裏の目的である試練の魔物と戦う危険性とその愚かさの周知に成功したある男は満足げに笑っていたそうだ。
その笑みは人生の落後者が浮かべる絶望的で自暴自棄なものなどでは決してなく、まるで夢中になって遊ぶ子供のように楽しげで希望に満ち溢れているのだった。
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