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第五章 崩壊の序曲と御使い降臨

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第四十七話 その頃の社コーポレーションで起きていたこと

2月26日から月刊少年エースにてコミカライズの連載が始まっています!

小説と一緒に楽しんでいただけると嬉しいです!!

 天空ダンジョンという脅威に俺達が対応している間、何者かが社コーポレーションに攻撃を仕掛けてくる可能性は否定できない。


 だからこそ俺と椎平と薫の三人以外のノーネームのメンバーに頼んで会社の守りを固めてもらっていたのだが、


「やっぱりこの隙を狙ってきたか」


 何も起こらなかった、なんてことがあるはずなかったらしい。


 戻ってきた俺に外崎さんがまとめた報告書を見せてくれる。


 それを見る限り、それらの対処は英悟や朱里が率先して行なってくれたおかげもあって特に問題なく解決しているようだったが。


「まず透明になって会社の機密情報が集まる部署などに侵入しようとした個体が複数現れたとのことです。朱里さんたちの話では、こいつらの戦闘力自体はたいしたことない上に捕縛した瞬間に肉体が塵一つ残さず消滅したそうなので、恐らくは支援型ホムンクルスという存在ではないかと」

「製作者の意思一つで消滅させることが可能なホムンクルスなら、仮に捕らえられても証拠を残す心配はないと」


 寄越したのが支援型ホムンクルスだったのは、単純にそれしか用意できなかったと思われる。


 アソシアの様子からして戦闘型ホムンクルスは貴重な物のはずだし、こんな形で使い捨てにする訳にもいかないはずだ。


「それ以外でも何人かのスパイと思わしき人物が侵入を試みていたそうです。まるでこのタイミングを狙ったかのように」

「既に協会が天空ダンジョンを消滅させるために上級の探索者を召集したって話が広まっているようですからね。今ならいつもは探索者が守りを固めている場所でも警戒が薄くなっているとでも考えたんでしょう」


 仕掛けてくるのが黄金神一派だとは限らない。


 それこそ御使いなんて関係ない産業スパイがそこには大勢いることだろう。


 回復薬についての秘密を暴きたい奴らなど、それこそ掃いて捨てるほどいるのだから。


「捕獲に成功した連中は英悟さんが尋問して背後関係を暴いた上で警察に引き渡すそうです。と言っても大半が使い捨ての駒だろうから、重要な情報が得られる可能性は低いとのことですが」

「それは仕方ないですよ。相手もバカじゃないでしょうから、こんな駒程度に重要な情報を与えているとは思えないですからね」


 回復薬の量産に成功したことを発表して以来、それこそバーゲンセールかと言いたくなるくらいに各国のスパイが押し寄せてきているのだ。


 それでも英悟や朱里のおかげもあって、そいつらが何かを手にすることに成功したケースは存在しない上に大半を捕まえている。


 でもだからこそ敵も理解しているはずである。


 こちらには優秀な諜報活動を行なえる人材が揃っていることを。そんな場所に知られたら不味い情報を抱えた奴を送り込むなんてするはずもないというもの。


「それを考えると捕らえた連中の中に黄金神一派に関係する人間はいないかもしれませんね。黄金神一派が支援型ホムンクルスとやらで安全に仕掛けられるのなら、わざわざ人間を使う必要があるとも思えませんし」

「仮にいても、それでコンタクトを取れるような人材ではないでしょうね。だとするとやっぱり当面はエルーシャに期待するしかないか」


 以前にアマデウスに教わった御使い用の連絡手段を用いてみたが、今のところ回線が復旧する様子は見られない。


 これで相手と通話ができれば一番話が早かったので、その点は残念でしかない。


 ただこれは予想していたことなので、錬金真眼を見せることで協力を取り付けてあるエルーシャには俺達が天空ダンジョンの攻略に成功したら黄金神一派の上に話を持っていくように言ってあるのだった。


 今のこちらには交渉する気が、話し合う余地があるというようなことを伝えるように。


 誤解の末に天空ダンジョンを出現させるという問答無用の強硬策に出てきた相手側だが、それも俺達によって真正面から叩き潰された形だ。


 ここまでのことをしたのなら手を抜いているとも思えないし、となれば相手側にも焦りが生まれていることだろう。


 貴重な戦闘型ホムンクルスを送り込んでも勝てないのか、と。


 それどころかこちらは誰一人として犠牲を出していないのだ。


 敵側からした想定外の事態に陥っているのは間違いない。


(そこで今までのことは誤解で、こちらには交渉する気があるとなればどうなるかな?)


 アソシアやエルーシャの様子からして大半の黄金神一派の連中が裏切者を許すことはないだろう。


 だがあちら側の全員が、明らかに不利な状況で無謀なことを強行し続けることを主張するとも思えない。


(交渉でどうにかできれば儲けもの。そうじゃなくても話し合いで何か情報を得られれば……的なことを相手が考えてくれれば良いんだけどなー)


 そうではなくて強硬策を続けてきた場合はこちらとしても困ってしまうのだが、果たしてどうなるか。


 その答えはしばらく後、連絡先を交換していた有人から齎されることとなる。


「エルーシャが説得に成功したみたいだ。数日後、黄金神一派の御使いの代表者が交渉の場を用意するとのことだよ」

「それは良かった。これが失敗してたら最終手段を決行するしかなかったかもだからな」

「僕としてもそうならずに済んで心底ホッとしているよ。なにせそれをやったら周りにどれほどの影響が出るか分かったもんじゃなかったからね」


 有人が最後まで反対していた最終手段。


 それはこちらから黄金神一派へ殴り込みをかける、というものである。


 だって仕方がないだろう。


 こちらがどれだけ呼び掛けても無視するのなら、応じるしかない状況にしてやるしかないではないか。


 そうなれば嫌でもこちらの話を聞くしかないだろうし。


 なおそうなった際に狙う対象についてだが、有人達から黄金神一派の使徒と確認が取れている人物であり、以前に日本まできて色々とやってくれた相手となる予定だった。


 そう、俺が戦いを挑む予定だった相手は、世界最強の探索者の候補に常に上げられる人物であり、以前に俺をボコボコにしてくれた獄炎の双剣士ことアーサーである。


(しかしこうなると話し合いで解決しそうなのが、ちょっとだけ残念ではあるな。なんならこの機会にイギリスに乗り込んでリベンジを挑んでも良かったんだが)


 仮には話し合う余地がなく戦うしかないのなら、それはもう徹底的にやってやるつもりだった。


 借りを返す意味も込めて一切の容赦なく。


 勿論、それを言ったら有人などには全力で止められたが。


 ユニークスキル持ち同士が本気で殺し合うなど、物理的にも世界情勢的にもヤバ過ぎるとのことで。


「頼むから最後の最後まで、その手段だけは選ばないでいてほしい。僕の方でも話し合いが上手くまとまるように動いておくから」

「はいはい、分かってるって」


 再三、念を押すように言ってくる有人の言葉に了承の意を返して通話を終える。


(……と言ってもリベンジを諦める気は更々ないけどな)


 仮に話し合いが奇跡的に上手くいって協力できる関係になったとしてもそれはそれというもの。


 そもそも俺がやられっ放しで終わる性格なら、試練の魔物へ再戦を挑もうとするはずもない。


 だからこうなるのは自然の流れというものだ。


「さて、どうにかして上手いこと戦うように持っていけんもんかな?」


 それも話し合いの方は良い感じにまとまるようにして。


 そんな都合の良い状況に持っていくにはどうしたら良いだろうかと考えながら、俺は交渉が行われる日を待つのだった。

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