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第五章 崩壊の序曲と御使い降臨

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第四十四話 狂乱伝染

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 スカイドラゴンに変身した二人は、巨神兵の一撃によってこじ開けられた穴に向かって脇目もふらずに飛翔する。


 有人が使用した圧倒的な力で風穴が空いたとはいえ、魔物の大群全てを消滅させられた訳ではない。


 つまりのんびりしていたら、残った魔物などによってダンジョンの入り口へと続く道が塞がれてしまうことになる。


 急速に消滅しているダンジョンから一刻も早く脱出しなければならない以上、そうなる前に逃げるのが最善というもの。


 だから俺もスカイドラゴンの背中に掴まりながらも爆裂剣を連続投擲するなどして、追いすがってくる魔物の迎撃を行なう。


 その結果、どうにか魔物の大群の中を抜けてダンジョンの入り口から外へと飛び出ることに成功した。


「ふう、これで一先ずダンジョンの消滅に巻き込まれる心配はなくなったな」

「どれだけ私達のステータスが高くても、消滅に巻き込まれたら流石に生き残れないでしょうからね。だけどこれだけ消滅の進行が速いのなら、本土に到着する前に天空ダンジョンは消滅してくれそうじゃない?」


 椎平の言う通り、巻き込まれそうになったこちらとしては消滅の速度が速かったことは災難だったが、そういう面では朗報だった訳か。


「だとすると残る問題は既に外に溢れている魔物がどうなったか、だな」

「足止めしている人達も心配です。ルミナスや繚乱の牙の面々がそう簡単にやられるとは思いませんが、格上の魔物を相手にしているのは間違いないですから」


 この場にいるB級探索者は全員が突入組に組み込まれている以上、残った面々はC級探索者ばかりとなるのが当たり前。


 つまりB級の魔物であるスカイドラゴンは、どうしても厳しくなる奴がいてもおかしくはない。


 だからまずは足止めしている奴らと合流して状況確認をしようということで、スカイドラゴンに変身している有人とアリーシャの二人に頼んで、仲間たちがいるだろう船の方へと向かってもらう。


「やあ、任務は無事やり遂げた感じかな?」


 そんな俺達をまず出迎えたのは、背中辺りから幾つもの第三の腕を伸ばして、これまで見たこともない数の楽器を演奏してみせている薫だった。


 その様子はそれこそ一人でオーケストラでも行なっているかのようである。


「ダンジョンコアは破壊したし、遠からず天空ダンジョンは消滅するはずだ」

「それは良かった。なにせ支援に徹している私はともかく、実際に魔物を相手にしている他の面々は段々ときつくなってきているようだからね」


 その言葉通り、船の中や周りには割と疲れた様子の繚乱の牙やルミナスの面々が揃っていた。


 輝久や絵理沙などのC級の中で腕が立つ面々がいても、やはり大量のスカイドラゴンの相手をするのは簡単ではなかったらしい。


「だけど残るは外に出た魔物を殲滅するだけ。それにここからは俺達も参戦するからな」


 突入組には俺だけでなく椎平や有栖などの殲滅力が高い面々も揃っているのだ。


 今は戦線を維持するのがやっとな状況でも、すぐにひっくり返してやるというもの。


「助かります。予想してはいましたが、やはり我々だけではこの大群を倒し切るのは難しかったですからね」


 教授が降り注ぐスカイドラゴンのブレスを防ぎながらこちらに近寄ってくる。


 その顔は魔法を連発したせいなのか疲労の色が滲んでいた。


 それを見てすぐに有栖は氷姫を召喚すると、船の周りに配置して守りを固める。


 そのおかげで一息をつけた教授は、大分楽になった様子だった。

 どうやら支援の要であった薫を一人で守り切っていたらしい。


「別に当然のことをしていただけですよ。彼女の驚異的な支援なければ、我々が戦線を維持することは到底不可能でしたからね」


 俺が提供した大量の回復薬などの潤沢なアイテムと、薫による何重もの支援で戦力の底上げがされていなかったら正直厳しかった。


 少なくともどこかのタイミングで確実に犠牲者が出たのは間違いないと教授は語る。


「とは言え、少し情けない思いもありますね。なにせこれだけ支援を全体に維持し続けている彼女が、この場で一番元気なのですから」

「別に私は気ままに音楽を奏でているだけだからね。疲れる要素なんてどこにもないさ」


 平然とした様子で薫はそう宣っているが、実際はそんなことはない。


 以前の有栖が氷姫を召喚し過ぎて疲労していたように、どうやらスキルの連続使用などで蓄積する一部の疲労は回復薬でも癒せないようなのだ。


 それなのに幾つもの支援スキルを並行して使用するばかりか、そのために肉体を変化させるスキルまで同時に行使するなど、ぶっちゃけ正気の沙汰ではないと言っても過言ではないだろう。


「そんなことより早めに殲滅に動いた方が良いと思うよ。何かさっきから嫌な感じがするんだよね」


 そんな唐突な薫の言葉に、俺と椎平は顔を思いっきり歪ませた。


 なにせ誰よりも勘の鋭いこいつがこういう発言をする時は、決まって碌でもないことばかり起こってきたからだ。


「思い出すわね。私達が試練の魔物と遭遇する前にも、薫が同じようなことを言ってたの」

「だとすると、それに匹敵するような厄介事がこれから起こるってか?」

「うーん、でも流石にあの時ほど嫌な感じはしないから、そこまで酷いことは起こらないんじゃないかな?」


 厄介事が起こることは否定しない薫の発言にゲンナリする暇もなく、すぐにそれは起こった。


 ダンジョンの消滅が一気に進むと同時に、またしても魔物が放出される。


 どうやら敵は完全に消滅する前に可能な限り外に魔物を放り出すつもりらしい。


 嫌がらせのような行ないだが、ただそれだけなら問題はなかった。


 問題があるとすれば、それで外に出てきた魔物はどれも明らかにまともな様子ではなかったことだろう。


「……あれは狂乱してるよな?」

「ええ、間違いなく、最悪なことにね」


 以前の北海道でバーサーカーブルがなっていたのと全く同じの状態で、複数のスカイドラゴンが狂ったような咆哮を上げるのだった。

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