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第五章 崩壊の序曲と御使い降臨

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第四十三話 脱出と巨神の一振り

 自らの攻撃をそっくりそのまま返される形で仕留められた戦闘型ホムンクルス。


 ボスであるそいつは死んだ瞬間に肉体を残さずに消えていく。


(残った魔石は阿修羅オーガのものか。その辺りはホムンクルスに取り込まれていようと変わらないのな)


 今回は魔石を出現したダンジョンコアに返還して再戦を願うなんてするはずもなく、俺はすぐにアルケミーボックスに収納して解析に回した。


 ただそれでも阿修羅オーガの解析が完了することはなかったが。


 これでも戦闘の最中に肉体を削って解析率を稼いではいたのだが、それでは肉体を丸ごと解析するのとは雲泥の差だったからだ。


 仮に解析が完了していたら、この断風壁などの面白い特性も利用し放題だったので、その点は実に残念でしかない。


 と言っても本来の目的はそれではなく、この天空ダンジョンの消滅だ。


 優先順位を間違えることほど愚かなこともないというもの。


「それじゃあダンジョンコアを破壊するぞ」


 ボス消滅と同時にダンジョンコアとどこかに戻るための魔法陣も出現しており、あとはダンジョンコアを壊すだけ。


 それでこのダンジョンは消滅することが決定となる。


「そんなバカな。あの戦闘型ホムンクルスが、我らに残された貴重な遺産の一つがこんな奴らに破壊されてるなんて……」


 それが分かっていてもアソシアは何もしないし、できない様子だった。


 やはり御使い共が自身ではまともに行動できないというのは本当のことらしい。

 でなければこの場で奴が俺の行動を何もせずに見逃すはずもないのだから。


 そうして俺が振り下ろした剣によってダンジョンコアは呆気ないほど簡単に砕け散る。


「さて、これでしばらくすれば天空ダンジョンも消滅するはずだな」

「目的を達せられたのなら早く脱出しよう。消滅が決定したとは言え、ここは敵地のど真ん中ではあるからね」


 有人の言う事はごもっともなので、俺達は用意しておいた転移石を取り出した使用した……のだが何故かそれは効果を発動しなかった。


 そればかりかダンジョン全体が大きく揺れ始めているではないか。


 さながら今すぐ消滅でもするかのように。


「……どうやらこの天空ダンジョンは突貫工事で作ったみたいだね。前にも一度だけ同じような現象を見たことがあるよ」

「と言うと?」

「簡単に言うと、作りが甘いせいか消滅する速度が他のダンジョンとは比べ物にならないんだ。しかも妙な形で空間が歪むせいか転移石などが上手く作動しない」


 突貫工事で強引に完成させた欠陥住宅な上にダンジョンコアという大事な大黒柱を破壊してしまったから、建物が一気に倒壊しようとしていると。


 しかもその影響で脱出装置まで使えないおまけ付きで。


 あるいはこれも敵の罠の一つでもあるのかもしれない。


 仮にボスを倒されたとしても、その対象をダンジョンの消滅の巻き添えにしてしまおう的な。


「とにかくすぐに脱出しないと不味い訳だな」


 そうと分かればこんなところに残って会話している場合ではないというもの。


 すぐさま俺達は出現している魔法陣に飛び込んで、最初の小島へと転移する。


 そしてそのままスカイドラゴンに変身した有人達に乗り込もうとしたのだが、生憎と小島の周りは大量の魔物で包囲されていた。


 それこそここから獲物を逃がす気はないと言わんばかりに。


 この数の中を突っ込んでいくのは流石に宜しくない。


 俺だけなら問題なくとも、乗っている有人達がダメージを受けて飛行できなくなるかもしれないし、有栖などの耐久力に不安がある奴もいるのだから。


「僕が風穴を開けるから、その隙に一気に駆け抜けよう」

「出来るのか?」

「ああ、有り難いことに君達のおかげで切り札を温存できたからね」


 そう言いながら有人はこれまで見た中で最も大きい魔石を取り出す。


 それが何かは錬金真眼のおかげですぐに分かった。


巨神兵タイタンの魔石か」


 こいつはA級の魔物の中でも一際巨大な肉体を持ち、その一撃が現実世界で振るわれれば大地が裂けると称さることもあるような魔物だった。


 それこそAダンジョンに潜ったことも無い探索者でも知っているくらいには有名な、最強とされる魔物の一つではある。


「と言っても今の僕では部分的な変身が限界なんだけどね。だけど今はそれで十分さ」


 その言葉の通り、その魔石によって変化したのは有人が上空へと向けて掲げた右腕だけだった。


 ただそれでもその巨大な腕と、その手が握っている雷が刃の形に固められたような力の塊からは圧倒的な力を嫌でも感じるというもの。


「もしかして、これは魔法剣なのか?」


 あまりに巨大過ぎるせいで分かり難かったが、その雷の刃の形は見たことがあった。


「よく分かったね。これは僕が好んで使う魔法剣を魔物の、今回で言えば巨神兵の力を利用して再現したものだよ」


 だとすると有人が使う特殊な魔法剣というのは、魔物の力を利用して強化したこれのようなもののことを指していたのか。


「これはA級の魔物の力を借り受けているようなものだから強力な分、力のコントロールが難しいんだ。だから悪いけど余波には各々で耐えてほしい」


 そんな分析をしている間に、ダンジョンそのものを切り裂くのではないかと思えるほど巨大な雷の刃がゆっくりと振り下ろされていく。


 それによって周囲を埋め尽くしていた数々の魔物が黒焦げか消し炭となっていく。


 それこそ自らも雷を使い、それには強い耐性を持っているはずのスカイドラゴンも例外ではない。


 その影響下に入った存在は一体すら生存することは許されない。


「巨神の一振り・雷刃。これが僕の切り札だよ」


 そんな絶対的な一撃が、俺達の進む道を文字通り切り開いていた。


 なにせ小島から入口に続く道がそこには出来上がっていたのだから。


(威力だけなら陽明をも超えた圧倒的な一振りだな。だけど振り下ろす速度がかなり遅かったことからして、かなり制御し辛くて使いどころは難しそうな力ではあるな)


 これ単発だと素早い魔物なら回避するのは難しくなさそうだし、断空壁などの特殊な防御の前では無力かされてしまうだろう。


 それに使い手である有人がすぐにHPやMP回復効果のある指輪を使用している辺り消耗も激しそうだ。


 と、分析するのはそこまでにしておこう。


 なにせこの場で大事なのは消滅する天空ダンジョンから一刻も早く脱出することなのだから。


「一気に駆け抜けるから、振り落とされないでよ!」


 そんなアリーシャの言葉通り、背中に俺達を乗せた二匹のスカイドラゴンは流星の如く切り開いた道を突き進んでいくのだった。

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― 新着の感想 ―
これは脱出したらしたらで自衛隊の艦隊・武装ヘリや報道ヘリの皆さんが迎えに駆けつけてきて賑やかに本土に帰還になるかも
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