第四十二話 戦闘型ホムンクルスの最期
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まずはボスである戦闘型ホムンクルスを守ろうとする周囲の魔物を根こそぎ刈り取るべく、俺はありとあらゆる素材を錬金した錬金剣を生み出して振るう。
それは今、この場で手に入った素材だけではない。
少し前に陽明たちと向かった火炎地獄ダンジョンなどで手に入れるなどして、既に解析が完了している素材もフル活用する形で。
そうして幾つもの錬金剣を消費することで魔物を蹂躙しては、また新しい錬金剣を作り出すのを繰り返す。
錬金術師の秘奥によって錬金で消費するMPはたったの1であり、MPを回復する手段もある現状では、それらが尽きる時は一向に訪れる気配がないというもの。
その結果、ボスを守ろうと出現する魔物の多くがただ只管に狩られていく。
戦闘型ホムンクルスがどうにかこちらの攻撃を止めようとしているが、この期に及んでそれは焼け石に水でしかなかった。
何故なら既に俺が用意できる錬金剣の種類はもはや十や二十では済まなくなっていたからだ。
しかもそれは断空壁という厄介な特性を潜り抜けられるという条件があったとしても、だ。
そうなれば戦闘型ホムンクルスがどれだけ十二にまで増えた腕を使ったところで、全ての攻撃を止められる訳もない。
だから止めきれなかった攻撃が、容赦なく周囲の魔物に襲い掛かっていく。
ただでさえこの場で確保できた魔物の素材は、B級ダンジョンに生息しているような何らかの強い能力を秘めている魔物の物ばかり。
それらの強力な特性を秘めた素材を組み込まれた錬金剣も当然強力なものとなっており、しかもそれらが過剰駆動によって更に威力が強化されているのだ。
それらをボスでもない魔物が何発も耐えられるはずもなかった。
ただし敵だってただそれを黙って見ているだけではない。
こちらの攻撃を逃れた魔物は、自分の身の安全を顧みずこちらに攻撃を放ってくる。
その内の幾つかは断空壁の特性が組み込まれたローブによって止められたが、あちらもそれは分かっているので、単発で終わらせることなく連携して波状攻撃を仕掛けてきていた。
しかも、
「断空壁、反転」
その隙を狙って、戦闘型ホムンクルスも攻撃してこようとしていた。
どうやら今度は断空壁によって溜め込んだエネルギーを攻撃に転換してきているようである。
恐らくはこちらの攻撃を止め切れないと判断して、どうにかして攻撃の発生元である俺を早めに潰そうと判断したらしい。
(散々こっちは攻撃しまくってる訳だし、溜め込んだエネルギーはかなりの量になっているわな)
それこそさっきの爆裂剣をまとめて返された時よりも強力な一撃になっているかもしれない。
そう思って回避か迎撃のどちらを選ぼうかと考えたが、それは意味のない思考だった。
「断空斬」
何故なら敵が攻撃を放ったと思った瞬間には、こちらの肉体に攻撃が当たりそうになっていたからだ。
錬金真眼のおかげで攻撃の軌跡はどうにか認識できたが、それでもこちらがまともに反応することを許さないような超高速の一撃である。
「ぐぅ!?」
ステータスオール250だから、今の俺は物理特殊のどちらの攻撃にも高い抵抗力を誇っている。
だというのにその一撃は、そんな守りを軽々と突破してこちらの肉体に大きな損傷を与えてきた。
それでもどうにか急所へもらうのを防ぐべく、腕をその攻撃と胴体の間に捻じ込んだ結果、気付けば片腕の肘から先が消し飛んでいた。
しかもそれでも攻撃を受け止めきれずに胴体にも大きな斬撃の跡が残されている。
これは生半可な探索者なら死亡しているだろうし、俺であっても重傷と言わざるを得ない損傷だ。
だけど悲しいかな。
今の俺は即死でなければ仕留められない域にいる。
この攻撃を受けた瞬間に中位体力回復薬が込められた指輪の効果を発動。
するとまるで逆再生でもしているかのように、受けた傷が瞬く間に修復されていった。
「ふう、やってくれたな。今度はこっちの番だ」
失われた腕が生えてきたのを確認して、俺はその言葉通りに攻勢を強める。
それによって周囲の魔物を巻き込みながら、またしても戦闘型ホムンクルスの肉体に一撃を入れて腕を吹き飛ばしてやる。
まるでこちらがやられたことをやり返すように。
しかしその一撃を叩き込むために何発も断空壁に攻撃を止められてしまっているのもまた事実。
この分だとそう遠くない内にまた今のような強力な反撃を許すことになるだろう。
「だとするとどっちの回復が間に合わなくなるか、削り合いの勝負になりそうだな」
そして悪いがそれで負ける気はしなかった。
指輪の使用回数などについても問題ない。
使用回数を回復させるアイテムもその場で作れるし、なんなら上級回復薬を組み込んだ指輪も用意してあるので、どんな重傷だろうと死ななければ回復可能なのである。
対して阿修羅オーガ改め戦闘型ホムンクルスの回復能力はどこまで持つだろうか。
B級で回復能力の高いオーガタイプの魔物を取り込んでいるから相当な回復性能を誇りそうではあるが。
(無限に回復できるなら厄介だけど、アソシアの反応を見る限りそれはなさそうだしな)
仮にそうなら奴はもっと勝ち誇った様子を見せたに違いない。だが今のアソシアは表情から焦りの色を隠せていなかった。
それはこちらが想定外の能力を見せたのもあるだろうが、他の魔物を召喚してまで戦闘型ホムンクルスを守ろうとしている姿からしてそれだけとは思えなかった。
「さあ、根競べだ」
それから幾度も同じような攻防が繰り返された。
こちらの連続攻撃が周囲の魔物を巻き込みながらボスに襲い掛かったと思えば、戦闘型ホムンクルスから手痛い反撃が放たれるといったような。
勿論、アソシアもそれを黙っていて見るだけではなかった。
時にはこちらの周囲を取り囲む形で魔物を展開させて一斉に攻撃したり、どうにか戦闘型ホムンクルスに攻撃を当てさせないように魔物で壁を作ったりもしていた。
だがそれらの行動が意味を成すことはなかった。どれだけの攻撃を受けても俺は止まらないし、壁を作っても錬金アイテムの暴威を食い止めるには至らないのだから。
(ボスじゃなかったらボス部屋の外に逃がすこともできたかもしれないけどな)
だけどこうしてボスとして姿を現してしまった以上、侵入者である俺がいなくなるまで奴は逃げられないのだ。それがダンジョンボスの宿命というもの。
「反転、断空斬」
そうして幾度目かになる反撃をこの身で受けて回復した頃、気付けば周囲の魔物は全滅しているではないか。
そう、もはやこの場に残っているのは俺とボスである戦闘型ホムンクルスだけである。
しかも戦闘型ホムンクルスの方も、途中から回復速度が明らかに低下してきていた。
その証拠に、今は吹き飛ばされた腕が治ることなく数本欠けたままである。
敵の奥の手がなければ、このままこちらの勝ちで決着となるだろう。
そう思ったところで、背後に誰かが転移してくる。
一瞬相手側の新手かと思ったが、結論から言えばそれは勘違いだった。
「お、そっちも無事なようで何よりだな」
そこにいたのははぐれていた椎平達だ。
どうやらあちらもどうやってかボス部屋までの侵入経路を確保したらしい。
ただでさえこちらが優勢な状況なのに、それに加えて援軍まできたのだ。
このまま一気に押し切って終わらせてしまうとしよう。
「断空斬」
そんなこちらの思惑を感じ取ったのか、戦闘型ホムンクルスが徐に攻撃を放つ。
ただしそれを向けた先は俺ではなく、たった今この場に現れた椎平達一向に対してだった。
警戒しているだろうとは言え、ボス部屋に転移してきたばかりで状況が掴めていない上に、ステータスがカンストしている俺ですら最初の内はまともに反応できないような超高速の一撃なのだ。
それこそ椎平の魔法ストックであっても、防御のための魔法を発動するのも間に合わないだろうし、俺以外がまともに受けたら間違いなく即死することだろう。
「やらせるかよ」
だがその攻撃は椎平達の到着することなく、その途中の空中で停止していた。
そう、俺が展開した断空壁によって。
しかもそこで終わりではない。
何度も何度も奴が使うのを見て、実際にこの身で攻撃を受けてきたのだ。
既にコツは掴んでいる。
「お返しの断空斬だ。存分に味わっとけ」
敵の防御が途切れた瞬間を狙い澄ませて放たれたその斬撃は、超高速で敵の肉体へと到達する。
こちらにやってきたように回避も防御も許すことなく。
そうして胸から上が消し飛んだ戦闘型ホムンクルスは、もはや回復する力も残っていなかったらしい。そのまま光の粒子となって消えていくのだった。
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