第四十一話 全てが素材で力となる
攻撃が七つ、あるいは八つで終わるなどと誰も言っていない。
「九つ、十」
だから俺はそのまま続々と新しいアイテムを使って攻撃を続行する。
「ま、待て」
そう言われて止まるバカがいるものか。
「十一」
「バカな、いったいどれだけの種類のアイテムを保持しているのだ、貴様は!?」
生憎と数えていないので俺にも正確な数は分からなかった。だけど少なくとも十や二十で済まないのは確かだ。
「十二」
何故なら錬金剣士となってから今まで、俺が解析した魔物は結構な数に上るので。
「十三」
そうして数を増した防御の壁すら間に合わない十三番目の錬金剣による攻撃が、遂に強固な守りに阻まれていたボスの肉体を捉える。
どうやら更に分裂して二十四本の腕になるとかはなかったようでなによりである。
「そんな、まさか!?」
「ようやく一撃をくらわせられたな。でも流石に硬いし、これで終わるほど軟じゃないか」
しかもボスもただやられてばかりではなかった。
弾幕のように迫る攻撃を回避しきれないと判断した奴は、腕の一本を盾にすることでダメージを最小限に抑えたのである。
それにより十二本の腕の内の一本を犠牲にするだけで、こちらの強力な錬金剣の攻撃を凌いでいた。
そればかりか千切れ飛んでいった腕が地面に落下する前に破壊された腕も急速に修復が進んでいくではないか。
この様子だと全ての腕を破壊し尽くして、敵の防御を丸裸にする戦法は使えなさそうだった。
「そうしなくても問題はないけどな」
だって今のように十三種類の錬金剣で攻撃すれば良いだけだ。
なにせこちらにはまだまだ攻撃手段があるので。
しかも、こちらに優位な点はそれだけではない。
敵が何かする前に俺はたった今、千切れ飛んだ敵の腕の元まで駆け寄って、それをアルケミーボックスに回収する。
そう、これまで回収してきた魔物の素材と同じように。
「へえ、断空壁って特性によるものなのか。この妙な防御は」
ホムンクルスの一部だから素材として利用できるか分からなかったが、幸いなことに防具である錬金術師の外套に組み込めるようだ。
この感じだと腕を吹き飛ばせば追加の素材補充には困らなさなそうなので、解析に回さずに錬金してみる。
「ふんふん……なるほどな。こっちの防御も受け止めた攻撃のエネルギーの一部を吸収して蓄える能力が隠されてたのか。どうりで攻撃は最小限で防御に徹してた訳だよ」
錬金アイテムを吸収する点もそうだったが、こいつは徹底的に相手の攻撃を受け止めて吸収。
それによって溜め込んだエネルギーで反撃したり回復したりする、カウンター型の戦法を得意としていたようだ。
あるいはそういうコンセプトで作られたホムンクルスを、同じような特性を持った魔物と組み合わせることで更に強化したといったところだろうか。
(この先、俺がホムンクルスを作る時が来た時にでも役に立ちそうな知識だな)
思わぬ収穫を得たことに内心でほくそ笑みながら、俺はまだ終わっていない戦闘の続きを再開する。
と言ってもやることは先ほどと同じだが。
「ほら、どうした? このまま一方的に攻撃を防ぐだけか?」
様々な素材が組み込まれた錬金アイテムを使用して、吸収できない形で戦闘型ホムンクルスに攻撃の嵐を叩き込む。
錬金剣から発せられる光線や風の刃などのありとあらゆる攻撃が、本来なら鉄壁の守りを押し切るようにして。
(攻撃の瞬間をずらしても同じ種類の攻撃は無効化されるのな)
掌によって停止させられているのと同じ攻撃は、たとえ別々のタイミングで放っても関係なくどちらも無効化されてしまっていた。
だがそれも今や無意味でしかない。
何故ならどれだけ止めようとも、それ以上の種類の攻撃が容赦なく降り注ぐからだ。
そうしてまた一本、腕を破壊して回収する。
今度は素材を分解して解析するために。
(阿修羅オーガとやらの解析が進んでいるところを見るに、戦闘型ホムンクルスに組み込まれている魔物の素材でも関係なく解体は可能みたいだからな)
だったらこの調子で解析を進めて、ここにある全ての魔物素材を自分のものにしてしまおう。
特に阿修羅オーガなんて聞いたこともない魔物だし、B級でも強い魔物なら色々な特性を秘めていておかしくないのだから。
「くそ、戦闘型ホムンクルスを守るんだ! これ以上、奴に妙なことをされる前に!」
それに対して嫌な予感でも覚えたのだろう。
それまで戦闘型ホムンクルスの能力だけで守り切ろうとしていたアソシアが、今になって他の魔物を大量に召喚してでもボスに攻撃を当てさせないように指示を出す。
ここに至ってボスだけでなく取り巻きの魔物も総動員して脅威を排除しようというのだろう。
だが、
「生憎と、それはそれでこちらにとっては有り難い話だぞ?」
だったらボスを守る魔物を刈り取っていく。
新しい素材、新しい力とするために。
つまり戦闘型ホムンクルスを守っている魔物も、俺からすれば美味しい獲物でしかないのだ。
何故なら錬金剣士である俺は、MP消費や製作時間も最小で、その場で確保した素材を即座に活用できるのだから。
魔物を錬金アイテムの素材として利用できるということ。
それは敵である魔物の能力をある程度までなら再現できてということ、そして本来なら判明していない能力でも暴くことすら可能になることに他ならない。
現に今、俺が阿修羅オーガという見たことも聞いたこともないはずの魔物の隠されていた能力の一部を見抜いて、それどころかこうして自分で利用しているように。
どうにか止まらぬこちらの連撃を妨害しようと襲ってくる取り巻き魔物がいても、ボスの腕を素材として、断空壁という能力が組み込まれた新品のローブによって空中で強制的に停止させられる。
「邪魔だ」
そしてそのまま俺が次々と放つ放出系の攻撃のどれかに飲み込まれてしまった。
放った攻撃の内の幾つかは阿修羅オーガによって停止させられているようだが、それも全てを止められないのではあまり意味がない。
だってB級ダンジョンに出現するような魔物が持っており能力や特性は強力なものが多いのだから。
それらを過剰駆動などで強化した時の威力は強烈の一言。
それこそ生半可な魔物では耐えきれないくらいに。
そうして魔物を仕留めては、死体を回収して素材とする。
その度に俺は新たな力を獲得することとなる。
それはまるで敵の素材を食らい、段々と成長していくかの如く。
そんな風にして魔物の素材を獲得すればするほど、明らかに攻撃の種類が増えていくこちらをアソシアは信じ難いという顔で見ていた。
「あ、あり得ない……敵をその場で素材として自らの力とする戦い方を、どうしてこの世界の人間のはずの貴様が行なえるのだ!? それは我らの中でも高位の、限られた方々のみに許されている御業だというのに!」
そしてここに至ってはアソシアも気付いて、そして認めるしかなかったようだ。
目の前のただの人間が、かつて御業とやらを使っていた奴らと同じ行動を取れてると。
(てか、やっぱりこの戦い方をしていた奴は他にもいたんだな)
まあ魔物素材を力にする点からして、この戦い方は一つの正解例だと思うし、それも当然のことだろう。
あるいはそれこそアマデウスとかも、元の世界ではこんな感じで魔物と戦っていたのではなかろうか。
だって奴こそが錬金真眼や、これら能力の元の持ち主なのだから。
それらを使いこなして御使い筆頭だったという奴が知らなかったとは思えないし。
(それを俺に教えなかったのは、探索者の神髄とかと同じで自分で答えを見つけなければ意味がないってところかね。……まあいいさ、俺もこのまま御業とやらの真似で終わるつもりはないからな)
これは錬金剣士の戦い方として、一つの理想形ではあるだろう。
だがそれと同時にまだ完成とは程遠い。
手に入れている素材の数だってまだまだだし、なによりそれらの素材の特性を完全に活かし切っているとは言い難い。
それこそ使い方によっては相乗効果を生むことか可能な特性や能力もあることだろう。
それらを見つけ、着実に自分の物としていく。
それこそが今の俺に必要なことであり、一つの戦い方の理想形である。
「さあ、まだまだ俺に力を寄越してくれよ」
獲物改め素材の群れに対して、俺はそう告げるのだった。
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