第四十話 尽きぬ弾幕
このダンジョンのボスは目の前の戦闘型ホムンクルスだ。
つまり奴以外の取り巻きであった他の魔物の死体は消えることなく残っている。
だからその内の一つである、持ち前の鋭い鎌による斬撃攻撃を得意とするフルブレードマンティスの死体をアルケミーボックスに収納すると、
(錬金、発動)
解体することなくその場で錬金剣に組み込む。
とりあえず選択するのは最も強力な武器になりそうな鎌の部分。
それにより烈斬という特性を持った錬金剣を試しに作ってみるが、
(これはダメそうか)
斬撃攻撃を大幅に強化する錬金剣がアルケミーボックスに生まれていた。
これは通常なら大いに使い道のある武器ではある。
だがボスに直接触れていけない制限が課せられている以上、今は斬撃の威力をどれだけ強化しても意味がないのだ。
仮にこれを使って敵に攻撃したら、敵の肉体に強化された斬撃が触れた瞬間に吸収されてしまうだろうから。
その上、吸収された攻撃で手痛い反撃を受けるかもしれない。
それなら他の部分である翅や魔石ならどうだろうか。
(翅は防具ならともかく、武器に込められる特性はないか。だけど魔石はいける)
これまでの経験から希少であったり強い魔物から採取できる素材だったりするほど、複数の特性を秘めていることは分かっている。
だから先ほどの列斬などの幾つかの選択肢が提示されている中から、今度は風刃という特性を選択した。
「今度はアタリだな」
そうして完成したのは、魔力を消費して風の刃を放てるようになる剣だ。
これなら敵に直接触れなくても攻撃を放てるので、敵に触れずに攻撃するという条件を満たせる。
それを証明するように、俺はこの場で作り出したその剣を使用して風の刃を戦闘型ホムンクルスに向けて放つ。
「ふん、無駄なことを」
アソシアは言葉の通り、敵に向けて飛翔した風の刃は吸収こそされなかったものの、その掌の前に停止を余儀なくされてしまう。
だが今はそれで何も問題はない。
「爆裂剣で一つ目。そして風刃の剣で二つ目だ」
「貴様、何を訳の分からないことを言っている?」
「そう焦るなよ。すぐに意味が理解できるだろうからさ」
そう、俺は決めたのだ。
この厄介な能力の数々で鉄壁な守りを固めている相手を、正々堂々真正面から叩き潰してやると。
それも相手がぐうの音も出ないような、圧倒的な形で。
「三つ目は既に見せている、これだ」
スカイドラゴンは既に解析が完了しているので、本来ならわざわざそれらの素材をこの場でアルケミーボックスに収納する必要はない。
なにせ解析が完了しているのなら自分のMPだけでそれらの素材を用意できるのだから。
だがあえて俺はそれを敵に見せつけるようにして、その場に残されていたスカイドラゴンの死体を回収する。
それで完成した剣は、知っての通りスカイドラゴンのブレスを再現できるようになっていた。
そうやって魔物の死体を回収しては、この場に適切な武器が十分な数になるまで錬金を繰り返す。
「ここが何もない殺風景なボス部屋でなければ、ダンジョン内に生えている素材も利用できたんだけどな。ほら、毒草とかなら毒を放つ剣とかも作れそうだし」
「だから先ほどから何を言ってる? それに関係ない魔物の死体を集めていったい何のつもりだ?」
「悪いが説明をする気はない。だから見て理解してくれ。なにせこっちの既に準備は整ったからな」
そう言いながら俺は今の行動の意味を提示する。
「一つ」
まず爆裂剣を敵の足元へと投擲して、案の定というべきか、その掌に止められる。
「二つ、三つ」
続く風の刃とスカイドラゴンのブレスもそれは同じ。だが、
「四つ、五つ、六つ」
そこで止まらず、追撃が間髪入れずに放たれたことでアソシアの表情に変化が生まれた。
戦闘型ゴーレムの手は全部で六つ。
つまりは止められる攻撃の数も六つまでのはずで、だからこそ次の七つ目の攻撃は防げない。
少なくともこの特殊な防御方法では。
「ふん、我らが作った戦闘型ホムンクルスを甘く見るなよ!」
だがアソシアはそんなこちらを嘲笑うかのように宣言すると、戦闘型ホムンクルスの肉体に変化が生まれる。
具体的に言うと、六本だったそれぞれの腕が二つに分裂したのだ。
それによりなんと掌の数が倍の十二まで増加しているではないか、
「おいおい、何だそれ」
「戦闘型ホムンクルスは単に魔物の特性を取り込むだけではない。難しい調節が必要にはなるが、やり方によってはこのように取り込んだ魔物の能力を活かすよう肉体を変貌させることすら可能なのだ!」
俺が作成する錬金アイテムの形をある程度までいじれるように、こいつらも錬金術で作った物に手を加えられるということか。
あるいはホムンクルスという作られた器だからこそ、こういう生物の常識を外れた改造も可能となるのかもしれない。
だけどそれでも結果は何も変わらない。
「七つ」
本来なら厄介な防御を掻い潜って、敵の肉体にダメージ与えるはずだった七つ目の攻撃。
それが分裂して増えた掌によって止めらえてしまう。
それを見て勝利を確信したのか、アソシアは勝ち誇った顔を浮かべようとして、
「八つ」
「は?」
それでも数えるのを止めないこちらに間抜けな声を出す。
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