幕間 その姿はまるで
年内の更新はこれで終わりの予定です。
年が明けたら、そう時間を空けずに更新再開する予定なのでそれまでお待ちください。
それと書籍の方もどうかよろしくお願いいたします……!
阿修羅オーガを取り込んだ戦闘型ホムンクルスには触れた錬金アイテムを吸収して体内に蓄える能力が搭載されている。
しかもそれは自動的なものであり、鋭敏なセンサーどんな些細な反応でも見逃したりしない。
だからその反応を感知したら最後。目の前の状況のように決められたプログラム通り、どんな錬金アイテムであろうと吸収されることとなるのだった。
(流石は同族殺し用に特化してある戦闘型ホムンクルスであり、数少ないこの世界に持ち込めた逸品の一つだな)
錬金アイテムを吸収して無効化する。この能力が向けられて困るのは、当然ながら錬金アイテムを作って活用する陣営。それ即ち我らが黄金神一派である。
幾つかの例外はあれど、基本的には黄金神一派でもなければ錬金アイテムは作り出せない。
だからそれらのアイテムを活用することが多いのも作成している本人達となるのも当然の帰結というもの。
だとしたら何故、そんな自分達にとって脅威となる能力を搭載したホムンクルスを作り出したのか。
それはこのホムンクルスが黄金神一派を裏切った者に対して差し向けられる、懲罰用の刺客として設計されているからである。
この世界に持ち込めたホムンクルスの数は多くはない。
その中でも最も頑丈な上に激しい戦闘を行なうことを想定されている高性能な戦闘型ホムンクルスは、本当に限られた数しか残されていないくらいに貴重なのだ。
(五年ほどの時間を掛けて、どうにか性能の低い原型や支援型ホムンクルスを作成する目途は立った。それによりホムンクルスを依り代とすれば、我らが外界への干渉もできるようにもなった。だが逆に言えば、そこが今の我々の限界とも言える)
積み重なった疲弊や環境の違いなどから御使いや神族に限らず、まともにかつて振るっていた力を行使できる者は皆無だ。
それどころか特別な装置で休眠していなければ生命維持もままならない者もかなりの数いるほどに我らは追い詰められていると言っていい。
それでもそんな現状をどうにか打破しようと足掻いた結果、次に作れるようになったホムンクルスだが、その性能も悲しいことに決して高いとは言えない。
それこそかつての我々なら片手間に作ることも容易だったレベルのものでさえ、少なくない時間と労力を必要とする始末。
やはり世界を滅ぼした大戦が我らに齎した影響は甚大と言わざるを得ない。
滅びる世界から避難船で逃げ出すのが精一杯であり、そんな状況では貴重で代えがたい多くの技術は継承することなど叶わなかった。
そしてどうにか残せたものがあったとしても、それを活用するための施設などなければ使いようがないという体たらく。
これがかつて隆盛を極めていた黄金神とその一派の末路なのかと忸怩たる思いを抱えざるを得ないほどた。
それは私だけでなく他の者も同じだったろう。
そんな時だった。
日本という名のこの世界の島国で、突如として我らが関知しない回復薬が大量に売り出されたのは。
それも明らかに黄金神のレシピが使われた痕跡がある回復薬が、だ。
それらがいくら比較的価値の低い低位の回復薬だったとしても、黄金神のレシピが使われてそれらが作られていると調査の結果で判明した以上、黄金神一派の誰であろうと看過できる訳がない。
かつて世界を滅ぼすこととなった大戦の切っ掛けともなった事件。
当代の黄金神様を、よりにもよって最も信用を寄せられていた側近が弑するという、どんな理由があろうとも許されざる大逆の罪。
あの事件の顛末を考えれば、レシピを横流ししたと思われる裏切り者の存在を許す選択肢などありはしない。
だからこそ私を始めとした一部の面々は、上が状況の把握が終わるまで待機するようにという命令を出したのを無視して行動を開始したのだ。
そもそも再三に渡ってこちらからの交渉の試みを無視した相手に、まだそんな悠長な態度を取るなど慎重を通り越して腰抜けと言われても仕方のない態度ではないか。
「裏切者は何があろうと許されはしない。そいつと通じる協力者も同じだ」
そのためならば裏切者などが活動していると思われる回復薬の量産に成功した企業の本拠地を灰燼とするまで、徹底的に破壊し尽くすのも厭いはしない。
その余波で他の無関係な他者を巻き込もうが、日本という国が破壊しつくされて壊滅しようが知ったことではないのだから。
だが幸か不幸か、そうなる前に裏切者とその協力者は動いた。
それも仲間を率いて我らが発生させたダンジョンに直接乗り込んでくるという、無謀とも言える手段を用いて。
確かに発生したダンジョンを無害のまま消滅させるためには、ダンジョンを攻略してダンジョンコア破壊する以外に選択肢はない。
なにせ下手にこの世界のミサイルなどの兵器でダンジョンを外から破壊しようと試みたら、その時点で天空ダンジョンは崩壊現象を引き起こして、中に蓄えられていた魔物が無作為に溢れ出すようにしてあるだから。
それを相手も察したからこそ、危険を承知で突入という選択肢を取ったのだろう。その中で我らが待ち構えているのを承知の上で。
だとするとやはり日本という国や、この場所が裏切者にとって何らかの意味を持っているのと考えられた。
そうでなければこんな危険を冒してまで、ダンジョンが日本に到着する前に止めようとするとは思えないからだ。
そうして用意していた罠によって、裏切者から錬金の力やアイテムを譲り受けていると思われる対象を隔離することに成功した。
それはこちらの思惑通りだった。
錬金封印が施しておいたボス部屋では、錬金アイテムなどは使用できない。
つまりそいつが裏切者からどんな力やアイテムを横流しされていたとしても役に立たないのだ。
(回復薬の量産に成功しているのなら、それらを大量に用意していることだろうよ)
ダンジョン攻略のために魔物と戦う上で、それらの有用性は非常に大きいものとなる。
多少のダメージなら体力回復薬で治し、全力を出して空になったMPも魔力回復薬で補えば、それこそ多少格上の相手でも討伐できるくらいに。
だが悲しいことにここではその戦法は取れないのだ。
だからこそ目の前の裏切者の協力者、眼帯で片目を覆った隻眼の探索者はなす術なく周囲に召喚された魔物の大群に押しつぶされるはずだった。
(何故だ!? どうして封印が無効化されている!)
だというのにそいつは何も問題がないかのように錬金アイテムを使用できているではないか。
あるいは錬金アイテムのふりをして、別のダンジョン産アイテムを使っているのかとすら考えたが、それらを戦闘型ホムンクルスが吸収できていることから目の前で使われているのは間違いなく錬金アイテムだと確定している。
おかげで切り札である戦闘型ホムンクルスが阿修羅オーガの能力を併用することで、完璧に敵の攻撃を防ぎ切れてはいるのだが、それを素直に喜ぶことは難しかった。
何故ならこの部屋に施した封印は生半可なものではないからだ。
それこそ生き残った我らの誰であろうと、このボス部屋の中では力が使えなくなるくらい。
唯一の例外は目の前の戦闘型ホムンクルスだけのはず。
こいつはダンジョンのボスと融合することで、その環境に対する耐性を獲得させているから。
(だとしたら同じような耐性をこいつも獲得しているというのか? ……いや、あり得ない。それこそダンジョンのボスと融合でもしなければ抗えないほどに強い封印なんだぞ、これは!)
そうだ、生き残っている誰であろうとそれが可能とは思えない。
そんな力を持つ生き残りはいないし、仮にいたとしても長い避難生活で弱体化している現状では耐性を発揮することもできやしないだろう。
(そうだ、それこそ歴代の黄金神やそれに匹敵する絶対者でもなければ……)
そこまで思考したところで、十分な数の錬金アイテムを吸収した戦闘型ホムンクルスが動いた。
そう、こいつには吸収した錬金アイテムを体内で蓄えて、それが一定の量を超えると反転させて放出するという能力が隠されているのだ。
だから爆発する剣を大量に取り込んだ戦闘型ホムンクルスは、本来なら自分が受けるはずだった爆発を何倍にもして相手に叩き返してみせる。
その爆発をまともに受けた眼帯の男は、爆炎と煙に包まれて姿が見えなくなった。
「……ふん、まあいい。どんな力を持っていても死ねばそれで終わりなのだからな」
このダンジョンでも多くの魔物を仕留めていた爆発する剣。
その何倍もの威力のある爆発の直撃を受けては、この世界の人間が生き残れるはずもない。
それこそ煙が晴れたところに肉片が残っていれば御の字というものだろう。
可能なら封印を無効化した絡繰りを暴きたかったが、これだけ危険なアイテムを大量に持っている相手だ。
生け捕りにするために力を抑えるのは危険過ぎただろう。
あるいは持っているアイテムを使い切るまで戦闘型ホムンクルスに受けに回らせるのも一つの手だっただろうか。
強力なアイテムであるほど、通常の錬金では作成するまでに時間を要する。
つまり用意してきた分を使い切らせてしまえば、時間を掛けて新たに量産を終えるまでは脅威ではなくなる訳だ。
(だがあれだけ惜しむことなく使っていた様子からして、まだまだ相当な数を持っていた可能性が高いか)
それに相手も数が少なくなったら温存していただろうし、使い切るまでまだまだ時間は掛かったことだろう。
封印を無効化していることからして、この後にもどんな奥の手を出してくるかも分からない怖さもある。
「やはり始末できるタイミングで殺しておいた方が無難だったな」
「誰を殺したって?」
「な!?」
誰に言った訳でもない呟きに返答があることに驚きを隠せない。
誰が答えを返したのかなんて決まっている。だが分かっているのに信じられなかった。
どうやってあの爆発から生き残ったのか。
いや、生き残るどころか話す余裕まであるなんて、どれだけ頑丈なら可能なのか。
だがそんなこちらの予想を嘲笑うかのように、隻眼の男は身に着けていた服こそズタボロになりながらも、その肉体には傷一つない状態でその姿を現す。
「バカな、無傷だと……!?」
「いや、こう見えてかなりのダメージを受けたよ。俺の攻撃が反射されただけはある、って思うくらいにはな」
そう言いながら、目の前の男は戦意を滾らせる。
まるでこの戦いは始まったばかりだと言わんばかりに。
「そのおかげもあってこっちはかなり気合が入ったからな。さっきまでと同じだと思うなよ?」
そう言いながら奴はどこからともなく取り出した爆発する剣を、戦闘型ホムンクルスの近くの地面へと叩きつけてみせるのだった。
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