第三十八話 錬金剣士としての戦い方と吸収能力
錬金術師の戦い方はどんなものになるのだろうか。
俺から提供されたジョブオーブによって錬金術師となった愛華に、かつてそう問われたことがある。
ユニークジョブの錬金剣士と違ってスキル習得などに制限が掛かる錬金術師は、一般的な探索者と同じようにスキルを多く習得しても意味がないからだ。
(そもそも成り立ちからして生産職としての側面が強いようだからな、錬金術師は)
単純な戦闘面なら、どう考えても創造の力を持っていたという黄金神ではなく、全てを無に帰す破壊の力とやらを持っていた虚空神の方が適性は高そうというもの。
またそういったデメリットで戦いに制限が掛かる代わりに他にない便利で強力なアイテムを作れる訳だし、それを考えればやはり戦うことに向いている職業とはお世辞にも言えないだろう。
ただそれでも探索者である以上は魔物と戦う場面はどこかで訪れるもの。
その時になにもできないのでは死ぬだけだし、ランクアップをしてステータスを上げるためにも魔物を倒せるようにならなければならない。
そういう戦わなければならない時、使われることになる物こそが錬金武器なのだと思われる。
これに予め適切な素材を込めておいて、錬金術師はそれらを駆使して戦う。
そうすることで新たな素材を手に入れて、強力な武器という手札を増やしていくというのが一般的な錬金術師の戦法となるだろう。
だがユニークスキルとユニークジョブを持つ俺はその法則の外にある。
その場で回収したスカイドラゴンの牙が錬金された剣の先端から、奴らが吐くのと全く同じの雷をまとった光線のようなブレスが放たれる。
しかもその威力はスカイドラゴンが吐くものよりもずっと強力になっていた。
それは錬金アイテムとなったことで錬金剣士によるジョブ補正が働いたことによるものであり、しかも強化はそれだけに留まらない。
五発の光線を放ったことで自壊していくその錬金剣を放り捨てて、俺は更に錬金を発動して同じ剣を用意して使用する。しかも今度は過剰駆動のスキルを発動した上で。
それによって極太となった光線までもがボスである戦闘型ホムンクルスに殺到して、当たる直前に見えない壁に当たったかのように止められてしまう。
(防がれたけど爆裂剣と違って吸収されないな。……いや、これは吸収じゃなくて別の要因で防がれたか?)
いつの間にかボスが掌をこちらに掲げるようにしており、その動作が何の意味もないとは思えない。
そう思って水銃のスキルで攻撃したみたところ、別の掌が掲げられたと同時に水の弾丸が空中で停止する。
更にその隙に近付いて拳で殴ろうとしたが、それも敵の手の一つで受け止められてしまった。
どうやらこの六つの掌には何か特殊な防御手段が秘められているようだ。
そこで反撃とばかりに繰り出された相手の拳を腕で防御するが、流石にこれまでと違って衝撃を完全に殺し切れなかったのか、攻撃を防いだ腕に衝撃と痺れが伝わってくる。
(この感じ、こいつと俺のステータスの数値はそこまで離れていないのかもな)
そこに隔絶した差があるなら攻撃を受け止めていても衝撃を感じることなどなかったはず。
そうではない時点で、こいつのSTRの数値が250からそう遠くないことが察せられるというものだし、攻撃の速さや正確性からAGIやDEXも決して低くはなさそうだ。
「A級の魔物並のステータスに加えて、特殊な防御手段もあるから守りが堅い。これは思っていた以上に厄介そうだな」
そこで爆裂剣をアルケミーボックスから取り出して、今度は投擲するのではなく持ったまま敵に突っ込み、それをボス目掛けて振り下ろした。
このまま攻撃が当たれば発生した爆発に自分も巻き込まれることになるというのに。
だけどその爆裂剣による攻撃はボスの肉体に当たる瞬間、こちらの手に握られていた剣が消滅して不発となってしまう。
更にスカイドラゴンの牙が錬金された別の錬金武器でも、直接斬りつけた際は爆裂剣と同じように吸収されてしまった。
どうやら先ほどのアソシアの錬金アイテムを吸収するという言葉通り、錬金武器である剣そのものでの攻撃は、どれだけ威力があっても攻撃が当たる前に吸収されて無力化されてしまうらしい。
またどうやらこのボスはどうやってか知らないが錬金アイテムによる攻撃かどうかを瞬時に見極めていると思われる。
何故なら合間にこっそりと挟んだ水銃や通常アイテムの爆裂玉による攻撃などに対しては、その掌を向けることで全て防がれたからだ。
その様子はまさに正確無比。
一つの取りこぼしもなければ、幾重に仕掛けたフェイントにもまるで誤魔化されない点からして、あるいは自動的に錬金アイテムを選別するような能力を持っているのかもしれない。
「錬金アイテムの攻撃はどこに当たっても、触れた瞬間に吸収して無効化。その上で錬金アイテムの反応がない攻撃がきたら、掌の守りによる無効化で対処すると」
これはまさに鉄壁の守りと言っても構わないだろう。
こちらが錬金アイテムを使用しなかったとしても六つの攻撃までは無効化できるのだから。
だがその守りに対して、攻撃の方は今のところそれほど脅威とは言えなかった。
何らか魔眼持ちなのか三つある顔のどれかの目が光る度に、火炎などが地面から吹き上がって襲ってくるものの、攻撃の瞬間に目が光るので回避のタイミングは掴み易いし。
そうやって互いに攻撃が決定打になることなく膠着状態が続く中、ボスが手数を生かそうとしたのかまたしても殴りかかってくる。
だがそれは悪手だろう。
これまでの攻防の中で攻撃する瞬間は掌による防御ができないだろうことは察しがついている。
それでもこれまでは魔眼による遠距離からの、ある程度の距離を保った状態からの攻撃だったから反撃は受けなかったのだ。
でも拳による近接戦闘になれば、カウンターを叩き込むタイミングを掴むことは不可能ではない。
だから俺は最悪相打ちとなる覚悟で反撃を叩き込もうとして、そんな分かり切った事実を、このレベルの魔物が理解していない訳がないのだと思い知らされる。
「吸収反転、放出」
初めて言葉を発した目の前の戦闘型ホムンクルス。
そんなボスである奴の言葉の意味を理解する前に、爆裂剣が何発も合わさったかのような強烈な爆発が俺の身体に襲い掛かっていた。
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