第三十六話 打破される策略
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いっぱい本を出したい……!(笑)
不意打ちで接近したスカイドラゴンの首を切り落として、アルケミーボックスにその死体を回収した俺はすぐにスキルを発動する。
そう、仮にこのボス部屋では錬金関係の力が使えないとしても、俺はそれ以外のスキルも幾つか有しているのだ。
「水銃」
爆裂剣などの方が便利で威力も高かったこともあって、これまであまり使ってこなかったスキルを発動した。
錬成水をばら撒けば、弾となる素材の補充も問題はない。
(と言うか水銃だけでなく、錬金関係の力は封じられていてもアルケミーボックスは使えるのな)
錬金水だけでなく剣を取り出せるので、その辺りには制限が掛かってはいないようだ。
だとすると素材を解体するとかの錬金に関係する機能だけ封じられているのだろうか。
そう思いながら四方八方に水で形成された弾丸を乱射する。
生憎と水銃のスキルレベルは低いので、ステータスがどれだけ高くてもこのレベルの魔物相手だと大したダメージを与えられないかもしれない。
だが味方がいないこの状況なら誤射の心配もないので、試してみるのは悪くない選択肢のはずだ。
それで思った以上の効果が得られたら儲けものだし。
「意外と効いてるのな」
射出された無数の水の弾丸の大半は、迎撃されるか堅い守りの前に弾かれてしまった。
だが目などの急所に当たった場合では、それなりのダメージを与えられているケースも存在しているではないか。
これなら使いようもあるというもの。
今の俺のDEXなら剣を振るいながらでも狙った場所に水銃を叩き込むことも容易だし、スカイドラゴンの翼を傷つけるなどの牽制技としてなら使えるだろう。
「ふん、先ほどまでと違ってその程度の攻撃しかできないのか? やはり錬金アイテムがなければ貴様の実力も高が知れているようだな!」
それを見てアソシアがそんな嘲るような言葉を投げかけてくる。
だがそれに反して奴は一向に戦闘に加わる様子は見せなかった。
(やっぱりエルーシャが言っていた、大半の御使いや神族自身はまともに戦えるような状態じゃないってのは本当らしいな)
仮にアソシアが戦えるのなら魔物に任せきりではなく、どうにかして自分でも攻撃を仕掛けてきたことだろう。
あれだけの怒りを向けていたのだし、こちらに情けを掛けるようなことをする訳がないのだから。
だが実際にそうはせず奴は魔物をこちらにけしかけて、言葉で口撃するのみ。
その理由は単純に、戦闘用のホムンクルスの数が貴重だからだ。
どうもこの世界に持ち込めた戦闘用ホムンクルスの数は限られていて、そう簡単に消費できないのだとか。
今の黄金神一派の残党では高性能な戦闘用のホムンクルスを作ることもままならないとのことで。
だからこそこいつらは直接俺に刺客を差し向けるのではなく、天空ダンジョンを出現させるというような迂遠な手を取った訳だ。
「なんにせよこのダンジョンを消滅させれば、お前たちの目論見は頓挫するって訳だ」
自分達では裏切者に通じる輩を仕留めることができないからこそ、ダンジョンやそこにいる魔物を使ってどうにかしようとしているのだ。
だからその手段を断てば、もはや奴らに打つ手はない。
もしかしたら性懲りもなく別のダンジョンを作って差し向けてくる可能性もなくはないが、そうする前に交渉の席に着かせることはできるはず。
エルーシャという協力者もいることだし。
だからやはり俺のやるべきことはただ一つ。
それはボスを倒して、天空ダンジョンを消滅させることだ。
だから俺はこちらを嘲笑っているアソシアに見せつけるように、魔物に向けて突撃しながら斬撃を放つ。
たとえ錬金術を封じられても俺は止まらないと証明するために。
全ステータスが250という数値から繰り出される一撃は、生半可な魔物では受け止めることも許さない。
一撃でC級の魔物複数体が一刀両断されて物言わぬ死体となった。
そしてもはや習慣となっていたのだろう。
スカイドラゴンと違って解析が終わっていない魔物の死体だったから、無意識の内にアルケミーボックスでそれらの死体を回収したと同時に解析しようとする。
「……ん?」
それが妨害されることなく完了したことに違和感を覚える。
(あれ? ここでは錬金関係の能力は封印されているんじゃなかったか?)
素材の解体は錬金剣士になって手に入れた能力だし、どう考えても錬金に関係するはずだ。
だから本来なら解体しようとしてもできなくなるべきだろう。
だが実際はそうではない。
だとしたら封じられる能力とはいったい何なのだろうか。
(あるいは爆裂剣とか直接的に戦闘に関係するものだけが効果対象なのか……?)
その検証を行なおうとアルケミーボックスから爆裂剣を取り出して、適当な魔物に投じたら、驚くべきことにこれまでと何ら変わらず魔物を爆殺した。
「普通に使えるじゃねえか!」
他にも回復薬なども問題なく使える上に錬金して新たなアイテムも作り出せると、これでは制限されている能力がどこにあるのかという状況である。
(もしかして封印云々はブラフだったのか?)
先ほどまでのアソシアの発言は全て偽りであり、こちらに使えないと思わせるための芝居だったのだろうか。
そう思ってアソシアの方を見たのだが、
「な、何故だ! どうして貴様には封印が効いていない!」
滅茶苦茶動揺している様子なのでブラフではなかったらしい。
だとすると封印とやらは存在しているのに何故か俺には効果がないといったところだろうか。
(そう言えば錬金術師の秘奥は制限を無効化する能力を持ってたんだったな)
てっきりデメリットなどに対してのみ効果を発揮すると思っていたのだが、どうやら他者からの封印なども無効化できるようだ。
だとすると俺の錬金の力は、他人がどうこうできる代物ではないということだろう。
「当たり前だろう。紛い物や質の悪い力ならともかく、この私が君に与えた力はそんな生半可なものではないよ。むしろこの程度で封じられると思われるなんて、舐められているようで不快ですらあるね」
そこでアルケミーボックスの中に収納されているアマデウスの声が頭の中に聞こえてくる。
不完全ながらでも復活したことを知られては不味いからボックス内に隠れていると言っていたのに、こうしてこっそりと話しかけてくるなんて何か思うところがあったらしい。
(とにかく俺に錬金関係の封印は効果がないってことでいいんだな?)
「その通り。ユニークジョブやユニークスキル持ちは特別で、それこそ全盛期の神族だろうとそれらの能力を封印することはできないよ」
極限まで研ぎ澄まされた力はありとあらゆる制限や拘束を無効化するとのこと。
ましてや今の異世界の残党はここまで逃げてくるのに疲弊して、技術の継承もままならないくらいに衰退しきっているのだから、そんな奴らがこちらの力を封じるなんて天地がひっくり返っても不可能に決まっているらしい。
「まあいいや。力を封じられてないのは有り難いことだからな」
爆裂剣などが使えれば、殲滅までの時間を大幅に短縮できるというもの。
(……いや、この際だから本当に封印された時の予行練習をしておくか)
便利なスキルやアイテムを利用するのは悪いことではないが、それに頼り切りになってしまうのは宜しくない。
最後に頼れるのは、やはり自分自身が持つ力なのだから。
「どうせこの後にはボスが出てくるんだ。全力を出すのはその時でも構わないだろ」
そう言いながら俺はこの際だから水銃のスキルレベルも上げてしまおうと、無数の水の弾丸を周囲に浮かび上がらせるのだった。
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