第三十五話 錬金封印が施されたボス部屋
天空ダンジョンを発生させたと思われる御使いアソシアの裏切者は誰かという質問に俺は挑発することで答えた。
何故なら俺に力を与えたのはあちらからしたら過去の大戦とやらで既に死んでいるはずのアマデウスであり、他にそのような存在はいないからだ。
その大戦で暴れ回ったとされるアマデウスが生き返ったと知られたら、どんな影響があるか分かったものではない。
たとえアマデウスがかつて所属していた黄金神の派閥相手だとしても、そう易々と教える訳にはいかないというもの。
だがこれだけの事態を引き起こした相手が、裏切者なんて存在しないという答えで納得して引き下がる訳もない。
「随分と色々な種類の獲物を用意してくれるんだな」
その言葉通りにスカイドラゴンだけではなく、他にも色々な種類の魔物がこちらを取り囲むようにして次々と現れていた。
ただ見たところ数は多くてもずば抜けて強大な力を持つ個体は見受けられない。
(C級の魔物も結構いるし一番厄介そうなのがスカイドラゴンだからな。これなら余裕で蹂躙できるぞ)
ダンジョン内にいることで発揮できるステータスが250になっているのだ。
これなら爆裂剣などを駆使すれば、それほど苦労することなく魔物共なら一掃することもできてしまうだろう。
そう思っていたのだが、そんなこちらの思考を読んでいたかのようにアソシアは嘲笑う。
「この程度なら問題ないと言いたげだな。だがこちらもそんなことは百も承知なのだよ」
「ってことはまだ何か奥の手を用意してくれている感じか?」
このまま何もなく簡単に済んだ方が楽なのは間違いないが、初めて挑むB級ダンジョンがあっさりと終ってしまうのは勿体ないという気持ちもあった。
だからまだ何か仕掛けてくるとしても悪いことばかりではないというのが正直な気持ちである。
「回復薬の量産をしていること。そして先程のスカイドラゴンとの戦闘で使った爆発する武器などから、貴様がどうやってか我らの秘匿している錬金アイテムを活用しているのは分かっている。そしてそれらを使えれば、この状況もどうにかなると考えているのだろう?」
「まあ、そう言われればそうとも言えるな」
確かに俺は錬金術の力を手に入れていて、それで作成した錬金アイテムも駆使しているので完全に間違った発言ではないだろう。
爆裂剣を使えば殲滅も容易だとも思っているし。
「恐らくは裏切者が何らかの目的でお前に役に立つ品々を横流ししているのだろう。それを活用しているからこそ、貴様は短期間で急速に力を付けられた。つまり今の貴様にとって錬金アイテムこそが力の源であり、欠かすことのできない命綱でもある訳だ!」
そうやってこちらの秘密を暴いたかのような態度のアソシアに対して、俺は欠伸をかみ殺していた。
(前置きが長げえな。さっさと結論を言えっての)
周囲の魔物がアソシアの支配下にあるのか律儀に話を終えるまで待っているようだが、俺までそれに付き合わなければならない訳ではない。
だからこれ以上、無駄な話が続くようならさくっと実力行使に移っても構わないだろう。
(俺が周囲の魔物を蹂躙すれば、嫌でもその奥の手とやらを切らざるを得なくなるだろ)
だが幸か不幸か、アソシアは肝心の内容を遂に口にする。
そしてその内容は意外にもこちらを驚かせるものだった。
「錬金術とそれによって作り出される錬金アイテムは確かに強力だ。だがこのボス部屋では錬金術や錬金アイテム、つまりは黄金神に関連する力の使用が不可能になっているのだよ!」
「それは、マジか」
ダンジョンでは特定の場所で一定のレベル以下のスキルが使えなくなったり、あるいは魔法が使えなくなったりなど特殊な地形効果が付与されている空間が存在することがあった。
そしてどうやらこのボス部屋では錬金関係の力を狙い撃ちで禁止としているようだ。
(だとすると俺一人をこのボス部屋に連れ込んだのも、この封印効果で嵌めるためか)
回復薬量産の件からして、裏切者と繋がっている何者かが錬金術関係の力やモノを利用している可能性は高かった。
だからこそ敵もこうしてそいつに対してメタを組む準備をしていたのだろう。
それこそ以前の俺が試練の魔物に対して徹底的に対策を練って挑んだように。
「理解できたようだな。貴様が大量の回復薬を確保していたとしても、そして強力な威力を誇る錬金アイテムをどれだけ譲り受けていたとしても、ここではそれらは意味をなさないのだよ。さあ、自らの自信と力の拠り所を封じられたまま、なす術なく朽ち果てるがいい!」
その言葉を合図にして、周囲で待機していた魔物も動き出す。
アソシアはそれを見ながら勝ち誇った顔をしていた。
まるで錬金の力を封じられた俺では、この集団を対処できないと確信いているかのように。
だが、
「……いや、よくよく考えたら面倒ではあるけど、別にそこまで困らんな」
俺は近寄ってくる魔物を殴りつけて仕留める。
だって錬金アイテムが使えなくても限界まで高めたステータスは健在なのだから。
「爆裂剣とかが使えないとなると殲滅まで時間は掛かるだろうけど、だからと言って負ける気はしないな」
そもそも錬金剣士となる前、剣豪だった頃の俺は基本的に剣で戦ってきた。
つまり魔物相手に剣だけで対処する経験はこれまでに何度もしているのである。
だったらそれと同じことをこの場でもすればいいだけだと、俺はアルケミーボックスから剣を取り出して構える。
「は! 強がるのは勝手だが、それがいつまで持つかな?」
それを見てもアソシアは自信満々な態度を崩すことはなかった。
どうやらその様子からして、こちらが錬金の力を頼り切りにしていると確信しているようである。
だったらまずはそれが間違っていると証明してやるとしよう、
「そっちこそ、いつまでそうやって勝ち誇っていられるかな?」
そうして俺はブレスを放ってきたスカイドラゴン目掛けて、一気に駆け出すのだった。
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