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[書籍第2巻、4月18日発売!]隻眼錬金剣士のやり直し奇譚-片目を奪われて廃業間際だと思われた奇人が全てを凌駕するまで-【第4回HJ小説大賞 年間最優秀賞受賞!!!】  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中
第五章 崩壊の序曲と御使い降臨

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幕間 防衛戦開始と円環闘法のリスク

この作品がなんと、第4回HJ小説大賞の年間最優秀賞に選ばれました!!!

発表からは一日遅れてしまいましたが、記念に更新します!

 氷姫。


 それは目の前の一ノ瀬有栖が探索者となった時から保有していたスキルであり、その能力は簡単に言えば氷姫と呼ばれる氷の人形を作成することだ。


 それによって生み出された氷姫達は様々な形で活用することができる、非常に応用力の高いスキルでもあった。


 それを証明するかのように、有栖から与えられる魔力を大量に溜め込んだ七体の氷姫達は有栖の言葉に呼応するように飛翔すると、こちらに迫ってくる魔物の群れへと突貫する。


 当然、魔物側もそれをただ見ているはずもない。


 遠距離攻撃を持っている個体が遠くからでも接近してくる氷姫に対して攻撃を仕掛けてきた。


 数発くらいならともかく、大量の魔物から放たれるそれらを完全に回避するのは難しかったのだろう。


 途中で一体の氷姫が空中で撃ち落とされる形で敵の攻撃を受けてしまう。


 だが次の瞬間、その氷姫は身体に溜め込んでいた冷気を爆発させるようにして周囲に撒き散らしてみせた。


 そしてその影響なのか、氷姫が撃墜された辺りには無数の氷の壁や柱が発生しているではないか。


「氷獄という氷姫の能力の一つです。これであの壁や柱に近付いた氷や冷気に対する耐性のない魔物は凍りついて動けなくなります」


 しかも単なる足止めだけではなく、それこそ弱い魔物ならあの領域に近付いただけで凍死するとのこと。


 名前的にも繚乱の牙の教授が使う氷雪地獄(ニブルヘイム)という魔法に似たような効果を持っている感じらしい。


 ただしこちらは氷雪地獄(ニブルヘイム)ほど効果範囲が広くはさそうだが。


 もっともそれも一体だけならの話である。


 なにせ飛翔している氷姫はまだ六体もの残されている上、新たな氷姫が有栖の傍に生み出されているのだから。


 この分だと突撃の結果がどうだったとしても、先に送った氷姫が砕け散った途端に次の氷姫が補充されることだろう。


「なんならそれを連発しているだけでも防衛するだけなら可能そうじゃない?」


 それこそ氷獄という領域で周囲一帯を埋め尽くせば、敵はそう簡単にこちらに近寄れなくなるだろうし。


 そう思ったのだが、そんな私の考えを否定するように有栖は首を横に振る。


「いえ、そう上手くはいかないと思いますよ。強い個体なら氷獄を強引に突破することも可能でしょうし、そうでなくてもこのクラスのダンジョンなら短い空間を跳躍する類いの移動方法を持っている魔物もいるでしょうから」


 それに本来ならこの氷獄という能力は連発できるものではなかったらしい。


 なんでもこの能力を発動するのには氷姫にかなりの魔力を与えなければならないとかで、下手に連発すればこれまでならあっという間にMP切れになってしまったとのこと。


 だがその問題に関しては、夜一から供給される錬金アイテムが解決している。


 更に追撃とばかりに有人などの攻撃も敵の集団へと放たれて、ごっそりとその数を減らしていた。


「さてと、行くとするか」

「ええ、敵が補充される前にさっさと目的を達しましょう」


 今の攻撃でかなりの数が削れたとは言え、未だに空間の裂け目から魔物は生まれ続けている。


 つまりのんびりしていたら折角の有栖達の攻撃も無駄になってしまうことを意味していた。


 だから私と陽明はそうさせないためにも駆け出す。空間の裂け目を破壊してこの防衛線に勝利するために。


 そうしてほぼ同時に走り出した私達だったが、先に躍り出たのは陽明の方だった。


(この速度からして、移動時はAGIにステータスを振ってるわね)


 陽明はスキルによって自身のステータスの振り分けを一時的に変えるという特殊な戦法を取るのは知っていた。


 確かにその時その時に必要となるステータスを高めることができれば、多くの状況に対応できることだろう。


 敵が物理攻撃を仕掛けてきた時にはVITを強化して防ぎ、自身の攻撃の際にはダメージを増やすためにSTRやINTを上昇させる。


 それが完璧に行なえるのなら、それこそ本来なら耐え切れない攻撃も防げるし、歯が立たないはずの敵にもダメージを与えられることになる。


 だがそれはあくまで理想の話でしかない。


 何故ならこの戦法は適切なステータスの振り分けに失敗すれば、一瞬で自身の命を脅かしかねない致命的なリスクを背負っているからだ。


 たとえば物理攻撃だと思ってVITを高めたのに実際は特殊攻撃だった場合、高めたVITは何の意味も持たない。


 それどころかその場では無駄なVITを高めるために本来必要なMNDなどの数値を犠牲にしていることになる。


 要するに陽明が行なっているのは、一つ間違えれば命を失いかねない綱渡りをずっと連続してやっているようなものだ。


 魔物相手に命懸けの戦いが当たり前の探索者だとしても、更にそれ以外のリスクまで余計に背負うような戦い方をするのには相当な度胸が必要になる。


 なによりそんなリスクのある戦い方でC級まで死なずに上り詰めるためには、驚異的な判断力や状況判断能力が求められるのは間違いない。


 だが陽明はそんな綱渡りをしていることなど微塵も感じさせない様子で、氷獄を潜り抜けてきた巨大なイノシシのような魔物の突撃を受け止めると、


「ふん!」


 逆にその巨体を振り回すように利用して周囲の魔物を薙ぎ払う。


 流石にこのダンジョンに出現するレベルの魔物だと、それに巻き込まれてやられるような奴はほとんどいなかったが、それでも敵を吹き飛ばすことで先に進む道が確保できている。


「一応これを繰り返せば、いずれは空間の裂け目にも辿り着くな」

「あのね、それだとどれだけ時間が掛かる分かったもんじゃないわよ」


 陽明が魔物と接敵している間に追いついた私は、そこで準備していた魔法を発動する。


「マジックソード・ウインド」


 風の魔法を剣に纏い、それをこちらに迫っている群れ目掛けて薙ぎ払う。


 その途端に烈風が吹き荒れ、その風圧に耐え切れなかった魔物が吹き飛ばされていった。


「風の魔法剣か。随分と節約するんだな」

「仕方ないでしょ。この状況で一々魔法を唱える訳にもいかないんだから」


 もっと強力な魔法で一気に吹き飛ばしてやりたいところだが、有栖達の攻撃でも完全に道が切り開けていないところからして、それが簡単に出来るとは思えない。


(強敵が現れた時のためにもストックしている魔法は温存しておきたいもの)


 それに裂け目に近づけば近づくほど敵の数も多くなるのだ。


 いざという時のためにも切り札は残しておくに越したことはないだろう。


 どうせこのまま順調に魔物を蹂躙して進んで終わり……なんてことにはならないに決まっているのだから。

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