第三十二話 突入
船で近付ける限界まで接近したルミナスや繚乱の牙の合同パーティがスカイドラゴンの群れを引き付けるために戦闘開始したのを錬金真眼の視界が捉える。
その中でもひと際目立っていたのだが薫だった。
様々な歌や音楽で敵の注意を引き付ける。
または仲間に対する支援や敵に対する妨害を積み重ねていくからだ。
吟遊詩人の多くは歌や演奏によって効果を発揮するものが多く、それらは敵の攻撃を受けて途切れれば中断されてしまう。
そして一瞬でも途切れれば再開はできないので、また最初からとなってしまうのだ。
だが逆に言えば中断さえされなければ、永続的のそれらの効果を発揮し続けることが可能でもあった。
既に輪唱道化や演奏道化を発動して複数の支援効果を発揮している薫のおかげで、他のメンバーはかなり楽になっているに違いない。
(やっぱりあいつには大勢を支援させて正解だったな)
基本的に薫は直接的な戦闘能力はそれほどでもない代わりに仲間を支援するという点で他の追随を許さないと思っている。
何故ならあいつの本領はまだまだここから発揮されるからだ。
吟遊詩人を極めれば各三体の道化と本人で合計七から八くらいまでの支援効果を発動できる。
そこまで鍛え上げえるだけで十分凄腕の分類に入るし、当然ながら薫はその領域にまで至っている。
というかそれどころで済まないのがあいつの恐ろしいところなのだ。
(あの調子なら余程のことがない限りは大丈夫そうだな)
B級のスカイドラゴン相手だと繚乱の牙やルミナスでも大丈夫だろうかという不安もあったのだが、薫の支援によって足りないステータスなど不利な要素を消せているようだし心配は無用だろう。
それよりも今は自分の為すべきことに集中するべきか。彼らがああして足止めをしているのは突入班である俺達のためなのだから。
「かなりの数のスカイドラゴンが下の方に引き付けられてるわね」
「ああ、行くならこのタイミングだろう。準備はいいね?」
スカイドラゴンに変身したことで風の影響をほとんど受けない有人とアリーシャは相手から見つからない雲の中で身を潜めていた。
その背中に俺や椎平などがしがみついた状態で。
「ええ、魔法の準備は出来てるわ」
「私の方も大丈夫です」
「何もできなくて申し訳ない限りだ。頼んだぞ」
近接戦特化の陽明は竜の背から敵に攻撃手段がないに等しい。
弱い魔物ならともかく、スカイドラゴンという強敵相手だと生半可なスキルなどでは通用しないからだ。
そしてそれは俺も似たようなものである。
半ば強引に爆裂剣を投擲するにしても激しい空中戦の中ではまともに敵に当たるとは思えないし、下手に近くで爆発すると有人達にまでダメージや衝撃が襲い掛かることも考えられるからだ。
だから突入するまでの俺の役割は、錬金真眼で天空ダンジョンの入口を捕らえ続けてその場所へと有人達を誘導することとなっている。
「よし、行くか」
その俺の言葉を合図に二体のスカイドラゴンがワイバーンとは比べ物にならない速度で動き出す。
隠れていた雲の中かから飛びだした二つの影は、あらかじめ俺が教えていた入口のあるポイントへと一直線に向かう。
俺達にとって最も好都合なのが変身した二人のことをスカイドラゴンが仲間だと誤認してこのままスルーしてくれること。そうなれば特にこちらを阻む障害などなくダンジョンに入れるので。
「……気付かれたぞ!」
だが敵もそこまでバカではなかったらしい。
同じ魔物ということで少しだけ時間は稼げたものの、その背中に獲物である人間がいるのを見つけた個体が現れ始める。
そして一体でも気付けば仲間にそれらが伝わるのにそう時間は掛からない。
だけどその僅かな時間でも先に進めるのに変わりはなかった。
「行きなさい、氷姫!」
背後から追ってこようとする奴らに対しては有栖の氷姫が立ちはだかる。
短時間なら宙を受ける氷姫達だったが、圧倒的な数の差によって大半がすぐに砕かれて消滅してしまう。
ただし一方的にやれるだけでなく特攻する形で敵の翼などを凍りつかせている個体も存在していた。
更に消滅しても有栖がすぐさま追加の氷姫を召喚して、常に妨害し続けることでどうにか背後から追いつかれることはない。
もっともそれを悟った個体は大きく息を吸って、距離を詰めるのではなくブレスでこちらを撃墜しようとしてくるが。
「しっかり掴まってなさい!」
それを回避するためにアリーシャ達は激しく左右に身体を揺らしながら飛び続ける。
またブレスを吐こうする個体に有栖が氷姫を妨害に向かわせることで、放たれるブレスの数を減らそうとしていた。
今はどうにかそれら被弾を防いでいるが、これがずっと続けばいずれは敵の攻撃が命中
してしまうだろう。
(だけど問題ない! あと少しでダンジョンの入口だ!)
ただし敵もそれを理解しているらしく、下の誘導に引っ掛からなかった個体が最後の壁となるように俺達と入り口の間に割り込んでくる。
そして当然、そこでじっと待っているだけなんて温い訳がなく、息を合わせるようにしてブレスを放つ準備を始めていた。
単発では回避されるなら一斉掃射で逃げ場を無くす判断は正しい。
実際それをやられたら回避なんてまず不可能だ。
「トリプルハイパーグラビティ!」
だからこそ椎平は全力で壁となっているスカイドラゴンに向けて超重力の負荷を叩きこんだ。
それも全ての魔法ストックを使用して。
そうして発生した広範囲の超重力を空中で受ける。
しかもブレスを吐くために割と無防備になっている状態で。となればそいつらが考えるまでもない。
俺達と入り口の間に存在していた大量のスカイドラゴンの大半は、バランスを崩すなどして耐え切れずに海へと落下していく。
そうなれば俺達と天空ダンジョンの間を遮るものはない。
(任せたぞ!)
今の魔法で大量のスカイドラゴンを叩き落としたのは敵を下にいる仲間に押し付ける形となって申し訳ないが、この作戦は事前に説明してあるので何とか頑張って対処してもらうしかない。
俺達の役目は、なんとしてでも天空ダンジョンへと突入すること。
そしてダンジョンボスを討伐して、ダンジョンコアを破壊。
被害が出る前に天空ダンジョンを消滅させることなのだから。
「このまま突入するぞ!」
有人はその言葉通り一切減速することなく空中に存在している黒い穴へと突っ込んでいくのだった。
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