第三十一話 いざ天空ダンジョン攻略へ
全ての準備を調えた俺達は荒れ狂う海の中を船で進んでいた。
「それにしても教授が船の運転ができたなんて知りませんでしたよ」
「若い頃に船舶免許を取っていたのが幸いしました。いやはや、人生は何が役に立つのか分からないものです」
輝久が船の運転をしている教授に話しかけている。
強行偵察をした経験から、最初から有人スカイドラゴンに乗って天空ダンジョンに突入するのは無謀だと判断したのだ。
入口を守るようにして展開している魔物の数が多過ぎるので、どう考えても見つからないのは不可能だし、見つかればブレスの雨で迎撃されるのは目に見えているので。
だからギリギリまで船で近付いて、そこで突入班以外の奴らが可能な限り敵の注意を引き付け、その隙に俺達が天空ダンジョンへと突入するという手筈になっている。
(その囮役の多くがC級トップパーティの繚乱の牙やルミナスのメンバーなんだから、とんでもない豪華さだな)
この作戦は全員に共有済みであり、各々が船の中で来たる戦いの準備をしている。
まあ中には船酔いでダウンしている奴もいるみたいだが、戦いが始まればちゃんと働いてくれることだろう。
「それに比べて兄貴は相変わらず乗り物酔いが酷いみたいっすね」
「だ、大丈夫ですか、陽明さん。やっぱり薬を飲んだ方が良いのでは?」
「……すまん、今は話しかけないでくれ。色々と出そうになる」
有栖や輝久が心配していることからも分かるかもしれないが、その中でも一番酷い様子なのが陽明だった。
船に乗ってからずっと青い顔でグッタリとしており、それだけ見るとこの後に戦えるとは思えない状態である。
(異常回復薬を飲めば酔いを止めることは出来るってのに、あいつも頑固な奴だよな)
回復薬は飲めば飲むほど効力が薄くなる傾向があること。
また新たに俺が作れるようになった回復薬は耐性などが服用してから一定時間続くことから、それを無駄にしないためにも戦闘開始ギリギリまで我慢するといって聞かないのだ。
もっともB級ダンジョンを攻略する際にどれだけ傷やダメージを負うか分からない以上、そうしたくなる気持ちも理解できるが。
全く情報のない未知のダンジョン。しかもそれがB級ダンジョンなのだから。
準備はどれだけしても、し過ぎということはないに決まっている。
だからこそ俺だってA級の魔物と思われるボス相手に色々と用意しているのだし。
「揺れが激しくなってきたし、そろそろ着く頃かしら?」
「ああ、そろそろ他の奴らにも見えてくると思うぞ」
誰よりも先に天空ダンジョンを視界に捉えることができる俺は甲板で監視をしている最中だ。
そこに椎平が近寄ってきて話しかけてくる。
「ねえ、ちょっと疑問なんだけど、本当にボスを倒してダンジョンコアを破壊すればどうにかなるのかしら?」
「と言うと?」
「確かに天空ダンジョンがダンジョンである以上、ダンジョンコアを破壊すれば消滅するのは間違いないはず。だけどこれだけの事態を引き起こした奴らが、その程度のことを理解していないとは思えない」
こちらの隣の座った椎平は不安点を述べてくる。その内容は頷けるものだった。
「天空ダンジョンが外から破壊されたら崩壊現象を引き起こすと思われているように、ボスを倒されても問題ないような何らかの対処がされてるってことか。まあその可能性は十分あるだろうな」
「だったら……」
「でも、だからといってこのまま何もしなければ尋常じゃない被害が出ることになる」
別に正義の味方を気取るつもりはないが、だからといって民間人に犠牲が出ることを肯定する気にはなれない。
被害が出ないに越したことはないだろう。
「それに下手に被害が大きくなると、またダンジョンとそれに関係する探索者への風当たりが強くなりかねないからな。それでこっちの行動が制限されるのは困るんだよ」
それこそ侵食ダンジョンが被害を出した時のように、世論がダンジョン関連のことを規制する方向に動くかもしれない。
そうなればダンジョン素材を取り扱っているウチの会社への影響は避けられないだろう。
神化の薬の効果を高めるために、今後も色々と研究開発を進めなければならない俺からしたら、そうなるのは非常に困るのだ。
「……呆れた。あんたは相変わらずね」
「人間、誰しも自分の事情を優先させるものだろ。俺は少しだけその傾向が人より強いだけさ、たぶん」
一番の目的は俺のためということだが、それで被害が出ないようになるのだから別に問題ないだろう。
てか仮に問題だとしても知ったことではない。
「二人とも、そろそろ僕達は飛び立つよ。準備は大丈夫かい?」
「ああ、問題ない」
波が激しくなり、これ以上の船での接近が難しくなったところで有人が声を掛けてくる。
そうしてスカイドラゴンに変身した有人の背中には、俺と椎平が飛び乗った。
「鞍とかが有ればよかったのに」
「そんな直ぐに用意できるもんでもないだろ。下手な素材だと風圧だけでぶっ壊れるだろうし」
そもそもドラゴン用の鞍などある訳がない。
これまで魔物をテイムするスキルや職業は発見されておらず、生きたまま魔物を利用することは出来ていないので、そういう物の開発は全く進んでいないのである。
だから俺達はそれぞれ有人スカイドラゴンの背中にしがみつくしかない。
アリーシャの方に乗る有栖と陽明もそれは同じだった。
「それじゃあ薫。引き付けるのは任せたぞ」
「こっちに残るのがノーネームのメンバーでは僕一人なのは寂しいけれど、仕方がないから我慢するよ。その代わりと言ってはなんだけど報酬として子種を……」
「有人、出ていいぞ」
また戯言をほざき始めた薫を無視して、俺達突撃班を乗せたスカイドラゴンに変身した二人は空へと飛び立つ。
既にダンジョンの入口と思われる黒い穴がある位置は再度確認して教えてある。
だから魔物の守りさえ薄くなれば、有人がそこに俺達を連れて行ってくれるはずだ。
ここからは余程のことが起こらない限り止まれない。だから何が起こるのか分からないことを考慮して最大限の警戒をした上で挑まなければならないのだ。
俺にとって人生初の挑戦となるB級ダンジョンへと。
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