第三十話 空中戦の難しさと班決め
やはり敵の得意な領域で戦うのは得策ではない。
熾烈な逃走劇を潜り抜けて帰還を果たした俺達はそう結論を出していた。
B級の魔物であるスカイドラゴンでも、俺なら余裕を持って戦えるだけのステータスは持っている。
だが空を飛べるスキルもない現状で、敵の得意な空中戦を行なえば一方的に攻撃され続けるのがオチだろう。
一体ならともかくあれだけの数に囲まれたら、仮にコンテナで足場を作っても間に合わなくなるのは目に見えているので。
そして一度でも海に落下すれば、上からブレスの雨でボコボコにされることだろう。
(せめて海の上じゃなくて地上ならやりようもあるけど、そうすると魔物の上陸を許すことになるからなあ)
天空ダンジョンが大地に近づけば近づくほど、その周囲を守るスカイドラゴンによる被害が出る可能性が高まるのだ。
仮にそうなる前に民間人を避難させたとしても、人的被害以外で深刻な影響が出るのは避けられないだろう。
港やそこに止めてある船など、あのブレスに一発でも耐えられるとは思えないし。
「協会には伝えてきたよ。これから僕達で天空ダンジョンを攻略すると」
強行偵察のおかげでスカイドラゴンの魔石は作れるようになっている。
だから次は有人スカイドラゴンに乗って俺が天空ダンジョンに乗り込むことになっていた。
「あの数のスカイドラゴンと空中戦。しかも海の上で戦うのはどう考えても無謀だからね。ただあの感じだと、単純に突っ込んでも辿り着く前に数の暴力で撃ち落とされるのがオチだろう」
敵の得意な領域だったこともあり五体相手でもかなり苦労したのだ。
だからこそ対策もなしにその何倍か分からない数を相手にしながらダンジョンまで無事に辿り着けるとは誰も思っていない。
「だから天空ダンジョンへと突入する僕達と、そのためにスカイドラゴンを引き付けるそれ以外で班分けをする必要がある」
「だとすると問題はそのメンバー分けだな」
まず俺と有人は突入班で決定している。
A級の魔物と思われるボスに勝てる可能性が一番高いのが俺であり、天空ダンジョンの入口までその俺を運べるのが有人なのでそれは絶対である。
ちなみに天空ダンジョンの入口の場所は強行偵察をした際に錬金真眼でしっかりと目視してある。
スカイドラゴンの群れがある遥か上空、吹き荒れる嵐の中にぽっかりと黒い大穴が開いており、どうもそこからスカイドラゴンが出てきているようなのだ。
つまりそれが天空ダンジョンの入り口の可能性が非常に高い。
というかそれ以外にあり得ないだろう。
「スカイドラゴンだと何人までなら背中に乗せられそうなんだ?」
「色々と試してみたけど、まだ慣れてないから全力で空中機動をすることを考えれば二人が限界かな。下手にそれ以上を乗せると振り落とす可能性が否めない」
魔物に変身できるスキルは色々な状況に対応できる便利な能力ではある。
だがデメリットが全くないなんてことはなく、ステータスなどは変身した魔物が基準となって人間状態に保有していたスキルなどは使えない。
また肉体の操作なども一から自分で理解しないといけないそうだ。だからワイバーンなどに変身しても。そこから空を飛ぶのにかなりの練習が必要だったとのこと。
その経験があるから初見のスカイドラゴンでも飛行できるようだが、微妙に勝手が違うこともあって完璧とは程遠いと有人達は語っていた。
「ただ飛ぶだけならともかく、加速する際には風を掴んで蹴るような特殊な動作が必要みたいでね。だから申し訳ないけど同じスカイドラゴンでも機動力などは相手の方が上だと思っておいてほしい」
「万全になるまで訓練する時間もないしそれは仕方ないさ。それよりもそれを踏まえて俺以外のメンバーを誰にするかだな」
有人とアリーシャが変身できるので、背中に乗せられるのは俺を含めて四人が限界となる。
つまりその少数精鋭で全く情報のないダンジョンを攻略しなければならない訳だ。
「椎平は確定だな。単純な実力でも選出するべきだし、遠距離攻撃が豊富でスカイドラゴンの背中からでも敵に攻撃できる戦力があるに越したことはない」
特にハイパーグラビティなどは空を飛ぶスカイドラゴンにとってかなり有効だと思われるし。
「陽明は戦闘面ではいると助かるけど、ダンジョン探索という面だと有栖の方が有用なんだよな」
「確かに氷姫の能力を駆使すれば、マッピングも楽になる上にある程度の罠などは無効化できるだろうね。本人の防御面の弱さが少し心配だけど、そこは僕達がフォローすれば何とかなると思うよ」
「個人的には薫の支援がほしいんだが、でもあいつスキルを考えれば外で釣り役をしてくれた方がいいか」
中のダンジョンがどういうものなのか分かれば、それに適したメンバーを選出できるのだが、今回はそんなことは言っていられない。
(……最悪、一度目はダンジョン内の情報を得たら撤退することも視野に入れるか)
そのことも含めて俺と有人は誰を突入班にするか話し合いを続ける。
そうして繚乱の牙やルミナス、そして解散したノーネームの中から選りすぐりのメンバーが選出されるのだった。
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