第二十八話 天空ダンジョン攻略の準備
エルーシャが協力すると決めたことに他二名も異存はないようだった。
「僕達はエルーシャに与えられた力でここまでやってこられたからね。彼女には恩があるんだ。それにこの状況で君と敵対しようものなら、彼女に恨まれるどころじゃ済まなそうだしね」
「意味もなく仲間に恨まれるのは私も御免よ。それにユニークスキル持ちの相手は私達二人がかりでも分が悪い以上、逆らう気はないわ」
御使いのことを仲間と言い切る有人と、それに追従して反対しないアリーシャを見て少しだけ意外に思った。
(御使いは原住民たる人間を見下してそうなイメージを勝手に抱いていたけど、そうじゃない奴もいるってことか)
考えてみれば御使いが人間に似ているのならそうであってもなんらおかしくはないだろう。
人にだって色々な考えや信条の持ち主がいるのだから。
「それじゃあ協力すると決まったのなら、早速どうやって天空ダンジョンを攻略するか考えようぜ」
「ようやくか。待ちくたびれたぞ」
これまで黙っていた陽明もここから会話は参加する様子を見せている。
まあ御使い関連のことは俺がどうにかするしかなかったので、下手に口を挟めないのも致し方ないことだろうが。
「その前に、天空ダンジョンはB級ダンジョンだ。つまりボスはA級の魔物である可能性もあり得る。そうなると僕達でも勝てるか分からない相手になる訳だけど勝算はあるのかい?」
「それは実際にやってみない事には分からないな。でもステータスだけならそこまで劣ってるってことはないと思うぞ」
A級の魔物のステータスは250以上でカンストしている俺より互角以上なのはほぼ確定している。
だけど爆裂剣などの強力な錬金アイテムを駆使すれば、勝算はあると俺は考えていた。
「ならばボスは基本的に夜一に任せるとしよう。勿論、戦ってみて無理そうな場合は撤退も視野に入れろよ」
「無駄死にするつもりはないし分かってるよ」
「ならば問題はどうやって夜一をそこまで送り込むか、だな」
天空ダンジョンはただでさえ吹き荒れる風のせいで接近が困難な上に、その周囲を守るようにスカイドラゴンというB級の魔物が守りを固めている。
まずダンジョンに入る前にそれらをどうにかしないといけない。
「一般人に被害が出ないようにするなら、なるべく陸に近づく前に攻略をするべきだろう」
「それはそうだけど、そもそもどうやって空に浮いているダンジョンに侵入する気?」
「それは俺が全力でこいつのことを放り投げてだな……って、流石にこれは冗談だからそのバカを見るような眼は止めてくれ」
椎平と陽明が冗談を交えながらダンジョンに入る手段を模索している。
(船やヘリで近付くのは難しいって話だからな)
マジックコンテナを階段のように積み上げて昇ることも考えたが、暴風やスカイドラゴンによってコンテナが破壊されるのが簡単に想像できた。
そんな妨害がある中では、そう簡単に昇るのを許してくれるとは思えない。
(そもそもダンジョンの入口がどこにあるのか正確に分からないのが問題だよな)
一応、雲の中や風の渦の中心部分にあるのではないかという予想はされているが、それもあくまで予想でしかない。
それらが間違っていた場合、様々な妨害を受けながらまずはダンジョンの入口を探さなければならない訳だ。
(錬金真眼があれば、ある程度近付ければ入口を見つけること自体はできそうだな。問題はどうやってそこに辿り着くか。それに椎平の空歩のスキルも空中を歩けるだけで自由自在に空を飛べるものじゃないし、空中戦は地上戦とは勝手がかなり違うのも難点だな)
本来なら時間を掛けてじっくりと調査をするところなのだろうが、今はその猶予がないのである。
「お待ちください。天空ダンジョンに近付くことだけならば、この二人の力を使えば可能になると思われます」
「そうなのか?」
「はい。この二人は特定の条件を満たせば魔物に変身可能になるスキルを与えてあります。ですので飛行できる魔物に変身すれば天空ダンジョンへの接近も可能でしょう」
それは本人の許可なくこちらに教えていい情報なのかと思ったが、苦い顔をしている有人の顔を見るに違うようだ。
「……はあ、もう仕方ないな。確かに僕達二人には魔物に姿を変えるスキルがあるけど、それには変身する魔物の魔石が必要になる上に制限時間もある。だからもしここから天空ダンジョンに飛んでいくと仮定した場合、かなりの数の飛行が得意な魔物の魔石が必要になるんだよ」
「バラされたから言っちゃうけど、たぶん一番いいのは天空ダンジョンの周囲を自由に飛行できるスカイドラゴンの魔石を手に入れることね。それでスカイドラゴンに変身ができれば風については問題なくなると思うし、もしかしたら同種の魔物なら襲われる確率を減らせるかもしれないわ」
スカイドラゴンは暴風域でも問題なく飛行できているのが確認できているから、その魔物になれれば風については無効化できるということか。
でなければスカイドラゴンがあの中で墜落していないのがおかしいってことになるので。
「……一応、ワイバーンの魔石の在庫はそれなりにあるから一回の往復くらいは可能かもしれないわね。でもただのワイバーンだとB級のスカイドラゴンにはどう足掻いても勝てないから、たとえ飛んで行っても無駄になるだけよ」
「いや、待て。それなら俺達が協力すれば問題は解決できるかもしれないぞ」
アリーシャが諦めるようにそう言ったのを俺は止める。
何故なら俺には条件を満たせば特定の魔物の素材を作りたい放題になるというチート級の能力があるので。
あるいはそれが分かっていたからこそエルーシャは俺にこの二人のスキルについて話をしたのか。
(まあいいさ。有用な手段が見つかったのなら、それを取らない選択肢なんてある訳がないんだし)
互いに所有するスキルについての擦り合わせを行なった結果、いけそうだという判断を下す。
その結果、まず俺と有人の二人で強行偵察を決行することになるのだった。
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