第二十七話 ユニークスキルと錬金真眼の価値
露になった虹色の瞳を見て三人はそれぞれ驚きの反応を返してきた。
「その眼は、いったい?」
「錬金真眼ってユニークスキルだよ」
「はあ!? 嘘でしょ!」
これまでこちらをじっと観察するように見るだけで話に参加していなかったアリーシャとやらが思わずといった様子で大声を出す。
事情は知らないが、それだけ信じられない出来事だったということか。
「あり得ないわ! ユニークスキルを与えられたのは使徒の中でも極少数! それこそA級探索者になれた奴の中でもほんの数人だけなのよ!」
「へーそうなのか。ってことはお前ら、ユニークスキルを持ってないんだな?」
「当たり前でしょ! むしろ何でそんなことも知らないのよ!」
ここまで即答しているところ見るに、それは使徒の中では常識みたいなものらしい。
でなければこうも簡単に自身のスキルの情報について認めるとは思えないし。
「ちょっと待ってくれ。それじゃあ君はどの派閥にも属さないで自力でそのユニークスキルを手に入れたとでも言うのかい?」
「そうだ。だからぶっちゃけるとお前ら御使い連中が通信してきてたことも最近まで全く知らなかったくらいでな。そのせいでそっちは無視したとでも思ってたんだろうよ」
その言葉に信じられないといった様子のB級二人は、情報の真偽を確かめるためにエルーシャの方を見る。
だがそれに対してエルーシャは全く反応を示さなかった。
もっと言えば俺の錬金真眼を見た瞬間からずっと、あれほど怒り狂っていたエルーシャは石像にでもなったかのように固まっているのだ。
両目を大きく見開いて口も開いた、まさに心底驚愕したという表情で。
「エル―シャ?」
「……嘘です」
呆然とした様子で有人の言葉が聞こえていない様子のエルーシャが、ゆっくりとフラフラした足取りで俺の方に近寄ってくる。
「絶対にあり得ない。そんな事ある訳が……」
その態度に椎平が警戒した様子を見せるが、俺は手で問題ないと示す。
相手が黄金神一派の御使いだった場合、こうなるであろうことはアマデウスから聞いていたので。
そうしてすぐ傍までやってきたエルーシャは震える両の手を俺の顔へと伸ばしてきた。
敵意はないようなのでそれを俺は受け入れてやる。
「それでここまで近づけば確証は得られたか?」
まるでキスでもするかのように両手を俺の頬に当てた状態で、しばらく至近距離からジッと俺の右目を見つめてくる相手に俺は語り掛ける。
「……間違いありません。これは今は亡きあの御方の瞳です」
「あの御方ってのはアマデウスのことだろう?」
「あ、あの御方の名前まで知っているのですか?」
エルーシャが出さなかった名前をこちらが発現したことも追い打ちとなったのか、どうやら目の前の錬金真眼が本物だと分かってもらえたようだ。
「だ、だが何故です? どうしてあなたが失われたあの御方のユニークスキルを持っているのですか? それは継承することが叶わず失われたはずなのに」
「その前に確認が終わったなら、いい加減に離れなさい。さっきから近いのよ」
その質問に解答する前に、椎平が強引にエルーシャを俺から引き剥がす。それに対してもエルーシャは呆然としたまま無抵抗のままだった。
それほどにこの眼の存在が驚きだったということだろう。
(話には聞いてけど、本当にアマデウスは異世界で相当な地位に就いていたんだな)
そここそ失われたその眼を確認しただけで目の前の奴が唖然とするしかないくらいには。
「それについて教えてやってもいいけど、幾つか条件がある」
「条件、ですか?」
完全に敵意は無くなったが、代わりにどうしたらいいのか分からない様子のエルーシャと、そんなエルーシャの状態を見て困惑して様子のB級二人。
それを見るに、どうやら交渉の主導権は完全にこちらのものとなったようだ。
だとしたらこのまま畳みかけるしかあるまい。
こちらの望み通りに事を運ぶためにも。
「まずこの場で知り得た情報を他の誰にも漏らさないこと。それは人間だけじゃなく御使いとかも含めて。そしてその上で天空ダンジョン攻略に協力してくれ」
「それは……難しいです。後者の協力するのという点はともかく、失われた数々のユニークスキル中でも価値のある錬金真眼が復活したことは、我々にとって本当に重大で捨て置けない事なのです。その事実を知っていて意図的に隠すのは……」
「仲間への裏切りに他ならないか。まあそうだよな」
「も、申し訳ありません」
先ほどまでと違って明らかに下手に出てくる相手にちょっと驚かされたが、それでも問題はない。だってそう答えるだろうことは分かっていたので。
「で、ですがその眼の持つあなた様のことを知れば、必ず我が派閥は歓迎致します。それにレシピを盗んだという疑いが誤解だということも判明することでしょう」
そうなれば今回のように天空ダンジョンが差し向けられることもなくなるだろう。
だが俺からすればそれらの恩恵よりも、この事実が周知される方が今は困るのだ。
「ずっと黙ってろっていう訳じゃない。しばらくの間だけでいいんだけど、それでも無理か?」
この言葉に対して相手は返答をできずに頭を悩ませる様子を見せている。
本来なら悩む余地もないはずだ。裏切りについてあれだけ怒りを見せていたのだから。
でも錬金真眼というユニークスキル。
もっと言うならアマデウスという、かつて仕えていた黄金神の右腕的存在が所持していた瞳を復活させたと思われる相手の頼みなのだ。
黄金神への忠誠心が高かった奴ほど、その願いを無下にしていいものかと思うだろうとアマデウスの読み通りの反応を目の前の存在は示している。
そしてその状態の相手に対して切れる手札も俺はちゃんと用意していた。
「もしこの頼みを聞いてくれるのなら、俺はお前達の望みを叶えるのに協力してやってもいい」
「望み、ですか?」
「ああ、そうだ。具体的には、この眼の持ち主だったアマデウスを復活させる、とかな」
実は魂だけなら既に復活しているのだが、そんなことは露程も表に出さずに言ってのける。
「そ、そんなことが可能なのですか!?」
「勿論、直ぐには無理だぞ。でもいずれは可能になるはずだと思ってる。俺は今後、限界を突破するために神化の薬を作る予定だし、そうなればその先で死者蘇生が可能な薬を作れるようになるかもしれないだろう?」
「そ、そうか! 伝説の死者蘇生の神薬のことですね!」
「それは初代黄金神のみが作れた薬って話だから、全く同じ物は無理かもしれないけどな。でもいずれそれに近いものは作れるようになると思うぞ」
そこで俺は試練の魔物を倒した際に錬金真眼を手に入れたこと。
その際に残されていたアマデウスの残留意識から、御使いについての断片的な知識などを手に入れたという嘘ではないけど真実でもない内容を語っておいた。
その上でトルテインという裏切り者の存在のことなどアマデウスが知っていただろう情報を提示することで、この話が根拠のない偽りではないと示す。
実際にはアマデウスに直接話を聞いただけなのだが、それを知らない相手からすれば本当にユニークスキルを手に入れた際に奴の記憶なども入手したようにしか思えないだろう。
「その上で聞くが、このことを黄金神以外の派閥の奴が知ったらどうすると思う?」
「……アマデウス様は他派閥の者からは恨まれていましたから、まず間違いなく復活を阻止しようとするでしょう。それこそあなた様を殺してでも」
「だろ? そうなると俺としても困るから、この情報は可能な限り隠しておきたいんだ」
「……分かりました。そういう事情でしたら仕方がありません。ですが仮に私が報告しなくても長い間、隠し続けることは難しいと思われます」
以前の椎平との会談を覗き見している時に俺の姿を確認しており、そのことは既に上に報告してしまったとのことだった。だから報告を遅らせても時間稼ぎにしかならないという。
(まあそれは俺のミスが原因だし仕方がないな)
それに今回の天空ダンジョンの件が片付いたら、そう間を置かずに黄金神陣営と接触をするつもりではあるからそれほど大きな問題でもない。
その際の橋渡しは目の前のエルーシャに頼めばいいだろうし。
「それじゃあ、一先ず協力関係を結ぶってことで問題ないな?」
「勿論です。むしろ私の方からあなた様にお願いさせていただきます」
いつの間にか様付けで呼ばれるようになっていたが、争うことなく協力関係を結べたことに比べれば些細な問題だろうとスルーすることにした。
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