第二十六話 協力交渉と裏切り者の扱い
活動報告でサイドストーリーを投稿しました。
良ければ見にきてください!
協会に集められていた探索者は今回の件にどういうスタンスで関わるかを決めた後、一旦解散することとなった。
天空ダンジョンを攻略するにしても、外に溢れ出た魔物と戦うにしても準備が必要だからだ。
そんな中、俺と椎平と陽明の三人は指定された人のいない廃ビルに出向いていた。
「まだ来ていないみたいだな」
「話し合い顛末によってはここで戦闘開始もあり得るだろうからな。あっちもそれなりの準備をしてるんだろ」
陽明が周りを見てそう呟くが、指定された時間よりだいぶ早いので相手の遅刻という訳ではない。
俺や椎平、そして繚乱の牙もルミナスも今回のミッションには積極的に参加するつもりなのは言うまでもないだろう。
特に有栖などは絶対に被害を出さないという固い決意の元、今回の戦いに参戦するようだ。
あいつが自分の両親と同じような形で犠牲になる人を許容できる訳ないので、それは当然のことでしかない。
むしろこんな事態を引き起こした可能性のある異世界の残党に更な怒りを燃やしているようだったし。
(それでも前と違って暴走しないからいいけど)
その溜め込んだ怒りは存分に発揮してもらうことになるだろう。
そうして待つことしばらく、約束の時間になる前にこの場所を指定した人物達は現れた。
ただしその人数はB級探索者である二人だけではなく、もう一人の見知らぬ女性が同行していており、その人物を目視した瞬間に俺は驚かされた。
何故ならその人物を見た瞬間、新たなレシピが手に入ったからだ。
(手に入ったレシピは支援型ホムンクルスか。……ってことはこの見知らぬ女は人間ではなくホムンクルスってことだな)
アマデウスと同じように人の形をとっていても厳密には人間ではない存在。
だとすれば中身はアマデウスと同じ御使いなのではないかという予測が立った。
「念のため聞いておくけどこっちの自己紹介は必要か?」
「いや、それには及ばないよ。畔川さんとは先日顔合わせをしてばかりだし、残る二人についても名前や簡単な素性くらいは調べてあるからね」
亡命した人物を除けば、日本出身の探索者の中では最初にB級になった男である貴島有人がそう述べてきた。
ちなみに二番目の人物である早乙女アリーシャは無言でその背後に控えているのみで、今回は魅了攻撃を仕掛けてくる気配もない。
「話が早くて助かるよ。でも悪いがこっちは紹介してほしい奴が一人いるな。そっちのB級じゃない人物は、いったいどこの誰なんだ? 少なくとも日本の探索者ではないみたいだし、海外からの助っ人とかか?」
探索者どころか人間ですらないのが分かっている上で聞いてみる。
ここでどういう回答をしてくるのか様子を見るために。
「……彼女の名前はエルーシャ。探索者ではないけど僕達の協力者さ」
(なるほどな。嘘は吐かないけど、全部をバカ正直に話すつもりも無いって感じか)
互いに信頼できる相手かどうか分からない以上、その対応は決して間違ってはいなかった。
だから本来ならこっちも同じように核心に迫ることは言わずに、相手の出方を窺うべきなのかもしれない。
でも天空ダンジョンという危機が迫っている現状では、そんなことをしている時間が惜しいのもまた事実。
だからこそ俺はこちらが不利になる可能性を承知で踏み込むことにした。
「御使いなのか神族なのかは知らんけど異世界の残党だろ、そいつは。もっと言えば身体が支援型ホムンクルスだってことも分かってるよ」
「っ!?」
こちらの言葉に驚きの反応を示す相手の三人。
その中でも最も反応が顕著だったのはエルーシャだった。
B級二人は驚きながらもやはりそうだったのかという納得の表情でもあるのに対して、エル―シャはそれこそ信じられないといった様子である。
「それが分かるということは、やっぱり君も使徒なんだね」
「使徒の定義が、御使いや神族などの異世界の残党に特殊な力を与えられた奴、っていうならその通りだな」
君も、という発言から目の前の二人も俺と同じ使徒という存在であることが確定した。
もっともその過程が俺とその他ではかなり違いがありそうなのは黙っておいたが。
実際に錬金真眼などのユニークスキルをアマデウスに与えられたので嘘は言ってないし。
「誰ですか!? あなたにその力を与えた裏切り者は!」
そこでエルーシャが口を挟んできた。
その様子は鬼気迫るものがあり、椎平や陽明もそれに反応するように臨戦態勢になったことで辺りにひりついた雰囲気が漂い始める。
それを感じ取って有人が慌てた様子でエルーシャを宥めようとしたが、それを振り切ってエルーシャは敵を隠さずこちらを睨み続ける。
「これまでは半信半疑だったが今、確信を得ました! 一目見ただけで今の私がどのタイプのホムンクルスであることが分かる以上、間違いなくあなたに知識や力を与えたのは黄金神一派の誰かだと!」
その考えは間違ってはいない。
アマデウスはかつて黄金神一派の重鎮だったと自分で言っていたし。
「だとすれば私はその者は決して許してはおけない! 上に許可なく活動をしているだけでも重大な規律違反なのに、黄金神様のレシピという我らにとっての宝を持ち出すなど明確な背信行為に他ならないのだから!」
やはりそうだったのか。こいつを始めとした黄金神一派が怒りを感じているのは、大切に守っていたレシピを盗まれたと勘違いしたからだったのだ。
例の通信からその可能性が高かったが、やはり張本人から直接言質を取れたことは大きい。
(それなら対処のしようもあるからな)
ここに来る前にアマデウスとどう対処するか色々と考えてきた。
その中でもこのパターンは説得が可能であろうと考えられた比較的マシな部類である。
最悪のケースとしては、相手がアマデウスと敵対している派閥の御使いなどで話し合いの余地が全くないということも考えられたので。
「それに答える前に幾つか確認させてくれ。まずお前達は本当に天空ダンジョンをどうにかするつもりなのか? あれはお前達と同じ派閥の黄金神一派が送り込んできたものだろうに」
あれだけ明確な宣戦布告してきてすぐにこの事態だ。実は宣戦布告をしてきた奴と天空ダンジョンを発生させた奴が違いました、なんてことはまずあり得ないだろう。
「確かにあのダンジョンはエルーシャの仲間が送り込んだものだ。恐らくその目的は君に力を与えた裏切り者に懲罰を与えるといった類のものだろうね。エルーシャもそうだけど、彼らはどうも裏切り者は絶対に許せないという考えみたいだから」
たぶんそれはかつてトルテインという裏切り者によって黄金神を殺された経緯があるからに違いない。
だからこそエルーシャはここまで怒りを露にしており、その仲間も天空ダンジョンを送り込むなんてことを仕出かす羽目になったのだ。
「だけど少なくとも僕達はそれを良しとはしていない。エルーシャも裏切り者は許せなくとも、無関係の人を巻き込むことは否定的なんだ。だから僕達としてはどうにかこうなる前に事態を収束させたかった。そのために急いで畔川さんに接触を測ったりもしたのだけれど、それは些か遅かったみたいだね」
一度、発生したダンジョンを無害に消滅させるためにはダンジョンコアを壊す以外に方法はないと有人は語る。
「一応確認だけど、外からミサイルを撃ち込むとかじゃダメなのか?」
「仮にそれでどうにかダンジョンを破壊することはできたとしても、崩壊現象が起こるのは避けられないと思う。ここまでの事態を引き起こすくらいだし、その点に関しては対応されていると考えるべきだろうからね」
(まあそりゃそうか。御使い云々に関係なく、この事態を国が指を咥えて見ているだけなんてことはないだろうしな)
そもそも台風のようなダンジョンをミサイルなどでどうにかできるのかという問題があるのだが、その問題を取り除いたとしても崩壊現象が起こればダンジョン内の魔物が外に溢れ出る。
それも氾濫よりもずっと大きな規模で。
つまり被害を出さずにこの状況を収めるためには、どうにかして天空ダンジョンを攻略してダンジョンコアを破壊するしかないのだ。
「分かった、とりあえず今のところ矛盾はないみたいだし信じよう。こんな状況で協力できそうな相手と争うなんて無駄な労力でしかないからな」
そう言いながら俺は眼帯を外す。
ここら先の言葉に説得力を持たせるために。
「その上で言っておくが、俺はどの派閥にも属していない」
偽装を解いて虹色に光る錬金真眼を覗かせながら俺はそう語りだした。
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