第二十五話 天空ダンジョンの発生と対処
不気味な宣戦布告を最後に、例の通信は使えなくなってしまった。
アマデウスにやり方を習ってこちらから交信をして見ても反応は一切ない音信不通の状態であり、どうも相手側は完全にこちらと敵対する意向を固めたようだ。
(誤解というか互いに予期せぬ擦れ違いがあるんだけど、こうなった以上は仕方がないか)
それに仮に通信できたとしても、こんな状態ではこちらの話をまともに聞いてくれるとも思えない。
残念だが、現状では和解という選択肢が取れる可能性は皆無と言っていいだろう。
「問題はこの相手が何を仕掛けてくるのかだな」
宣戦布告のような発言をしてきたことからも、かなり過激なことをやってくるのではないか。
それこそアーサー達が前にやった以上のことを。
でなければあんな敵対的な宣告を通達しないはず。
だから俺はこちらの陣営の奴らには警戒するように伝えて敵の動きを待った。
また可能な限りダンジョンなどに異常がないか確認を取るようにして、その時に備えていた……のだが、結論から言うとその警戒は残念ながらあまり意味はなかった。
何故なら敵が仕掛けてきた方法。
それは新たなダンジョンを発生させることだったからだ。
しかも既に氾濫状態であり、ダンジョンの周囲に魔物が溢れかえっている非常に危険な状態の。
そんな危険なダンジョンの発生を観測した日本ダンジョン協会は、対応可能と思われる探索者達を本部へと呼び出した。
起きている状況を説明して、すぐにでも対策を練るために。
「現在、太平洋上で発生が確認されたダンジョン、通称天空ダンジョンはゆっくりと西に、つまりは日本へと向かってきている。その速度はかなり遅いが、このままではいずれ日本に上陸を許すことになるだろう」
協会本部長が集めた探索者達に語ってくる。
天空ダンジョンと名付けられたそのダンジョンはまるで台風のようだった。
空というか雲の中にダンジョンがあるようで、しかもその周囲は本物の台風のような暴風域が形成されており、迂闊には近寄ることもできない天然の要塞のようで守られているようだ。
「吹き荒れる風だけでも厄介だが、周囲を守るように飛行している魔物の存在も問題だ。どうもこちらの接近を拒むように展開していることが確認されている」
「氾濫しているのはスカイドラゴン。B級の魔物ですか」
「その通りだ。つまりこの天空ダンジョンはB級のダンジョンと予想されている。つまり本来なら君と早乙女君、そして畔川君しか入れないということだな」
この部屋には真っ先に対応を期待されるB級三人以外にも探索者が集められていた。
繚乱の牙にルミナス、そして英悟や薫などのソロのC級探索者もチラホラいる。
そんな中でどういう訳かD級の俺まで呼び出されていた。しかも顔ぶれを見た感じ、どうやらD級は俺だけのようである。
そのせいで関わりがないC級の奴らからチラチラと視線を向けられて若干気まずいではないか。
(でも、そんなことを気にしてなんていられない緊急事態ってことだな)
このまま天空ダンジョンが進み続ければ吹き荒れる暴風を手始めに、周囲に展開しているスカイドラゴンも日本に襲い掛かることだろう。
そうなればどれだけの被害が出るものか分かったものではない。
それこそ天空ダンジョンが進んだ道にはそれこそ何も残らないかもしれない。
B級の魔物が暴れるということは、それだけ危険なことなのだ。
そんな緊急事態で戦力を隠している余裕はない。
それが本部長や飯崎さんの下した判断なのだと思われた。
そして俺もその決断に不満はないから、こうして素直に会議に出席しているのだ。
(これが例の宣戦布告と関係してないってこともないだろうしな)
つまり言うなればこの天空ダンジョンは、俺に対して差し向けられた敵の兵器のようなものだ。
そのために敵も正体不明の俺を始末しようと準備していたことだろう。
つまり天空ダンジョンにはかなりの危険が潜んでいると思われる。
だがそれでも俺は逃げるつもりはなかった。
仮にここで逃げて別の場所で活動するようにしても、どうせまたそこが襲われるだけだろうから。
(あの憎悪の籠った言葉からして逃がす気は全くなさそうだしな)
それに対して俺も引く気がない以上、話は単純。
差し向けられた戦力全てを正々堂々打ち破ってやろうではないか。
そうすれば連絡が取れなくなった相手も交渉の場に出てこざるを得なくなるかもしれないし。
「今回の未曽有の事態に際して、ダンジョン協会では特例としてB級以下でも天空ダンジョンへ侵入することを認める決定を下した。また一刻も早くダンジョンを消滅させる必要があるためダンジョンコアを破壊することも同様に認められている」
仮にダンジョンに入らなくとも、氾濫によって外に溢れたスカイドラゴンの対処に協力してほしいという要請が本部長から探索者へと正式に通達される。
命懸けの作戦となる以上これは強制ではなかったが、この場にいるほとんどの探索者がその要請を受ける様子だった。
そんな形で話は進んで、それぞれがどうやってスカイドラゴンに対応するか。
あるいは危険を承知でダンジョンに挑戦するかなどを相談している中で、とあるB級探索者がこちらに近寄ってくる。
「話がしたい。周囲に人がいないところで」
そして擦れ違いざまに、俺にだけ聞こえる声でそう語りかけてきた。
この中で最も天空ダンジョンを攻略してくれる探索者として期待されているB級探索者二人が、わざわざ場違いなD級と長々と話をすれば注目を集めてしょうがないのは自明の理というもの。
話す内容が周囲に聞かれて困るものになるのは分かり切っているので、俺としても人目がないところで話すのに否はない。
「奇遇だな。こっちもそう思ってたところだ」
こちらも周囲に聞かれないように了承の意を返したことで、思わぬ形でB級二人との密会が決定するのだった。
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