第二十四話 擦れ違いと宣戦布告
「さてと、それで急に話があるなんて何があった?」
周囲に誰もいない自宅で、俺は独り言を発するように呟く。
と言っても本当に独り言などではなく、アルケミーボックス内のアマデウスに向けて話しかけているのだが。
監視をする際にやらかした帰り道、テレパシーのように奴が語り掛けてきたのだ。緊急で話しておきたいことができたと。
「すまない、予想外のことが分かってね。でもこれは君にとってもかなり有益な情報となると思うよ」
「へーそれで肝心のその中身は?」
続きを促すと、アマデウスは待っていたように淀みなく語りだす。
「まずここ最近の私についてなんだが、休眠から覚めた以上はアルケミーボックス内でもある程度の行動が可能となっているんだ。それもあって何もしていないのは暇過ぎることもあって、周囲に気付かれない範囲で情報収集などを行なっていた。その方が主である君の役に立つだろうからね。だけどその際に妙な音声というか、通信のようなものを傍受したんだ」
通信といっても電波を介して行われるような現実世界の技術で行われるものではなく、スキルなどを利用したかつての御使いなどが使用していた連絡とのこと。
つまりは俺達がこれまで傍受することが不可能だった異世界流の伝達手段ということだ。
(そうか。こいつはかつて異世界で御使い筆頭だった奴だし、御使いだけが秘匿している技術などにもある程度は精通しているのか)
だからこそ俺達がこれまで気付けなかったものにも気付けたのだろう。
と思ったのだが、どうやらそれも間違っていないが完全に正しいという訳でもないらしいことが、話の続きで明らかになる。
「この音声は君達が回復薬を販売した時期に流され始めたもののようでね。ただ妙だったのが、その異世界で活用された通信はそもそも隠されていなかったんだ。それこそラジオのように周りに聞かせるような形で流されているものらしくて、だからこそ能力的には低レベルのホムンクルスしか発揮できない今の私でも傍受できた形だね」
「隠されてなかったって、そんなことあり得るのか?」
下等な原住民には盗聴なんて不可能と侮っていたとでも言うのだろうか。
まあアマデウスがいなければ俺達も気付けなかった通信のようだし、仮にそうなら余程自信があったしか思えない。
もっともこうして傍受されている以上、もしそうなら大きな失態ということになるだろう。
「それがね、どうもこれは注意喚起のようなんだ。あるいは警告と言い換えた方が正しいかな」
「ああ、なるほど。隠したい内容ではなく大々的に周知させる目的だからそもそも隠されてなかったと。で、肝心の警告の内容はなんだったんだ?」
わざわざ大々的に、周囲に聞かれるのを承知で流す警告。
さぞ重要な内容なのだろう。それによっては良い情報が得られるのではないかと思ったら、
「一言で表すなら、黄金神のレシピを使っている我々に対する警告だね。どうもこれを流していた相手は、我々がそれらのレシピを盗み出して利用していると考えていたみたいだ」
まさかのそれを聞き取れないこちら向けだったようだ。
黄金神のレシピというと、俺がランクアップや錬金真眼で獲得しているレシピの事なのは間違いないだろう。
回復薬を販売した辺りということは特別品なども含まれるだろうし、その過程で相手にそれらを利用しているのを悟られたと思われる。
「いやでも俺はレシピを利用してるけど盗んではいないだろ? それともあれか。俺が手にしたレシピは他のところから失われるみたいなシステムになってるのか?」
「いや、そうではないよ。君がレシピを手にしても他から失われることは絶対にない」
一瞬混乱しかけたが、ゆっくりと状況を整理して考えてみる。
盗んだ訳ではないのに相手がそう思うのは何故だろうかと。
「……ああ、もしかしてこの警告をしてきた奴らは黄金神派閥の残党ってことか?」
「恐らくは」
アマデウスの復活も、錬金真眼というユニークスキルの存在も知らない相手からすれば、これらのレシピは流出するはずのないものという認識の可能性がある。
あるいは崇めていた黄金神のレシピとのことだし、もしかしたら今では門外不出の扱いをされていてもおかしくはないのか。
それなのにそれを利用したと思われる回復薬が販売された。
それも尋常じゃない量であり、自分達とは関係のない勢力から。
(俺はどの神族の勢力に属していないからな)
そうしたことから相手はどこからかそれらのレシピが盗まれたと考えた訳だ。
そうでもなければ回復薬の量産が可能になるなんておかしいという風に。
「ちなみにこの音声だけど、最初の方は問い掛けや呼び出し、交渉の申し出や対話の申し込み、注意喚起や警告という経過を辿って、最終的には脅しや最後通牒で終わったようだね」
「えーと……それら全てを俺らは無視したということだな?」
「意図してのことではなかっただろうけど、相手はそう取るだろうね」
(滅茶苦茶問題じゃねえか、それは)
しかもその上で回復薬販売を続行したとなれば、相手からすれば対話を完全に拒否しているようにしか思えないに違いない。
もっと言うなら喧嘩を売られていると感じても、なんらおかしくないだろう。
(回復薬を売る時点で色々な方面に喧嘩を売る可能性は考えていたけど、ここまでのものになるとは想定外だっての)
それにまさかこんな形でコンタクトがあったなんて思ってもいなかった。
でも相手もそれは同じなのかもしれない。
回復薬量産に御使いや神族が関わっていないなんて向こうも思っていなかったのだ。
だから御使い用の連絡手段を用いた。
だがその当時、唯一こちらでその連絡を受け取れる可能性のあったアマデウスは休眠していたのだ。
そのせいで互いに致命的な擦れ違いが生じてしまったと思われる。
(あるいはアーサー達が襲撃してきたのも、こちらが対話を拒否していると勘違いした結果だったのか?)
こうなるとこちら視点では一方的な襲撃だったが、あちら視点では手を尽くしても反応がないことから交渉の余地なしという判断の末だった可能性もあり得てくる。
「お前、その通信とやらを利用して今からでもこっちのメッセージを届けることは可能か?」
「可能ではあるけど私がそれを行なうのはお勧めできないな。どう誤魔化しても通信する以上、相手も情報を得ようとしてくるはず。その過程でアマデウスという存在が復活したことがバレるかもしれない。だから私の存在は隠したまま君自身に通信する方法を教えるのが一番安全だと思う」
錬金真眼の知覚強化が有る状態ならコツさえ掴めばすぐにでも簡単な交信くらいなら可能になるとのこと。
だから早速そのコツとやらを教えてもらったその瞬間だった。
まるで狙ったかのように頭の中にその通信とやらが流れ込んできたのは。
「裏切り者とそれに与する者共に告げる。地獄へ落ちろ」
それは明確な宣戦布告だった。
しかも明らかな憎悪の感情が込められた。
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