幕間 監視の目の正体と派閥
感想で気づきましたが200話超えましたねー
日本で五人目のB級探索者となった人物。
畔川椎平という女性と顔を合わせた感想は、只者ではないというものだった。
(B級になる時点でそうであることは確定していたようなものだけど、それにしても隙がなかったな)
アリーシャの魅了攻撃を一瞬で見抜いた眼力や、それらを意に介さない耐性。
更にはこちらを威圧するように発した覇気からもその腕前の高さが窺い知れるというもの。
「B級なりたてならステータス的にはこちらが優位かと思ったけど、そういう油断は禁物だね」
「そうね。しかもこっちに対してかなり強い警戒を持っているみたいだし」
少なくとも容易に勝てる相手ではないのは間違いない。
アリーシャもそれは分かったようだ。
「でもそれだけ警戒しているということは、やっぱり彼女も御使いの関係者なんだろうか?」
「十中八九そうでしょう。しかもこちらと友好的ではない派閥の。でないとあそこまで警戒される理由が分からないわ」
あちらからしてみれば突然の呼び出しではあったかもしれないが、数少ない日本のB級探索者同士で協力していこうという目的自体は何らおかしい事ではない。
もし今後の日本でB級以上のダンジョンが出現した際には嫌でも協力しなければならない、なんてこともあり得なくはないのだから。
それに表沙汰にはしていないが、日本で三番目と四番目のB級探索者になった人達にも同じことをしている。
だがその時でもここまで警戒されることはなかった。
(信吾と涼音は派閥的に敵対している訳ではないってのも大きかったけど)
有人とアリーシャに力を与えてくれた御使いが所属している派閥は、基本的には人類と共存した方が良いという考えを持つ共存派、あるいは穏健派と呼ばれるものだ。
その派閥の主なメンバーは、かつて異世界で黄金神という神に仕えていた残党が集まっているらしい。
それと敵対しているのが過激派、あるいは人類との共存を拒否している非共存派の主なメンバーが虚空神という神に仕えていた残党とのこと。
彼らはこの星の原住民である人類を基本的には下に見ており敵対する、あるいは支配下に置いて管理する方向で色々と動いているようだ。
なお、残る二人の日本のB級探索者が所属している派閥は中立派。
人類とは最低限の関わりだけで持つようにして、可能な限り互いに不干渉であるべきという考えを持っているらしい。
これはかつて精霊神という神に仕えていた残党が多いとのこと。
ここまでの情報だと黄金神が正義で、虚空神が悪のように思えるかもしれない。
だけどそう簡単な話でもないのが現実の厄介なところでもあった。
(黄金神の残党は人類と協力しようとはしている。だけどそれは人類を好んでいるからではなく、そうしなければならないほど追い込まれているからだ)
異世界の残党はどの派閥に限らず消耗しているとのこと。
世界が滅ぶほどの大戦の影響から必死に逃げ延びただけでも痛手は大きかったのに、この世界に来るまでにも様々な問題があったことで疲弊しきっているのだ。
そんな状態では原住民と争っている場合ではない。そんなことをしている余裕がないというのが共存派の共通の見解と言える。
だが逆に言えば、その疲弊している状態が改善されればどうなるかは分からないということでもあった。
またこれ以外にも非共存派が一方的に悪だと言い切れないのにも理由がある。
何故なら彼ら全てが人類に敵対的だった奴らばかりではなかったようだからだ。
御使いや神族達はこれまでの五年の間で、色々な形で人類に接触を図った。
それは僕のような探索者個人のケースもあれば、どこかの国の首脳部のようなケースがあったらしい。
どうやらその中で人類側が未知の技術を持った彼らから、それらの力を奪おうと画策して凶行に及んだ奴らがいたようなのだ。
しかもそれは一件だけではなかったらしい。
そうした欲深い、人類の業の深さを見せつけられた異世界の残党。
手を取り合えるかどうか知るために交渉しようとしたのに、一方的に攻撃されたとなれば友好関係など築けるはずがない。
むしろやられる前にやるべきという考えを抱く原因を生み出す結果となるのも仕方ないだろう。
(これだけ聞くと人類を野蛮な種族とみなして、支配下に置こうとする気持ちは分からなくもないからなぁ)
仮定の話だが、異世界の残党達がもっと万全の状態に近かったのなら人類はとっくの昔に滅ぼされていたことだろう。
一部が暴走しただけなんです、なんて言い訳で凶行を許してくれるとも思えないし。
あるいは対抗して人類側も核兵器などの禁断の兵器に手を出して、壮絶な争いの末に相打ちにでもなっていたか。
なんにせよ碌な結末を迎えることは出来なかったに違いない。
もっとも凶行に及んだ彼らの言い分もない訳ではないらしい。
曰く、どう言い繕おうが異世界の残党達はこの星に対する侵略者である。
だから人類にはない未知の技術を持った侵略者という危険な存在は一刻も早く排除するべきという。
ある意味では、どちらも完全に間違っている訳ではないのが判断の難しいところだった。
更には異世界の残党の中でも色々な思惑や意見があるのと同じで人類側も彼らを利用しようとか様々な考えを持った人がいる。
そうした複雑な思惑や目的が絡み合い、混沌とした情勢となっているというのが今の世界の情勢だった。
そんな中で突如として現れた回復薬を大量に販売する一企業。
それも売っているのが黄金神派閥の有する技術が使われているとなれば共存派は捨て置けない。
共存派にとってそれらの技術は秘匿していた大切なものだったはずだから。
どうやってその技術が流出したのか。盗まれたと思われるものはそれだけなのか。
そして誰が盗んだ、あるいはその手引きをしたのか。
共存派の中でも裏切り者の特定のために色々な調査が行われたものの目ぼしい成果は出ず、一時は使徒となった誰かが裏切ったのではないかと僕達まで疑われたほどだった。
それほどにこの一連の回復薬の販売の件は大混乱を引き起こしたのである。
それもあって僕もアリーシャもしばらく身動きがとれない期間があり、綿密な調査の末にここ最近で疑いが晴れたことでこうして日本に戻ってきた次第だった。
一連の事件の黒幕とその目的を調査するために。
「戻りました」
そこで待っていた人物が戻ってきた。
いや、正確には人ではないので人物はおかしいのかもしれない。
「おかえりなさい、エルーシャ。無事でよかったわ」
アリーシャが出迎えている女性は一見すると、どこにでもいそうな日本人女性にしか見えない。
だがそれはあくまで外見だけのこと。
何故ならその中身は日本という国を担当している共存派の御使いであり、僕達に力を与えてくれた存在であるエルーシャなのだから。
本来はダンジョンの外では活動できない彼女だが、ホムンクルスという使い魔に意識だけを移すことで裏技的に活動を可能としている。
もっとも稼働時間などの問題でこうして現実世界で活動していられるのは僅かな間だけだが。
「それで成果はあったのかい?」
「はい。どうにかあの場を監視している人物を捉えることはできました。ただ現場からかなりの距離があったので特定まで時間が掛かったこと。更に捉えた瞬間にこちらの存在を相手にも気取られたようなので、監視をさせていたホムンクルスそのものは即座に破棄して帰還することを選択しました。あのまま監視を続けるのは危険だと思いましたので」
今回、エルーシャが用意したホムンクルスは周辺の監視や索敵に特化したもののはず。
それなのに中々見つけられなかった上に、監視したことにも即時に気付くとは侮れない相手なのは間違いない。
「かなりの腕前の相手のようね。それで、その人物の特徴は?」
「少しお待ちください。今、記憶から映像を出力します」
エルーシャが捉えたという人物の正体。
その人物がホムンクルスの機能で映像として出力される。
「この眼帯は……確か社コーポレーションの社長の息子だったはずだね」
映像の中で鋭い視線をこちらに向けてくる男。
そいつは片目に眼帯を付けているという分かり易い特徴があった。
「そうね。これまで調査した中に資料があるわ」
その男の名前は八代 夜一。
調査の中でも黒幕の候補者として何度か名前が挙がったことのある人物だった。
彼は探索者であるものの、その経歴はかなり特殊なものである。
何故ならこの人物は件の社コーポレーションという企業でもそれなりの地位に就いているようなので。
探索者としてはかつてC級だったものの、試練の魔物との戦いにおいて片目の視力の喪失や降格処分を受けて一度は最下級まで落ちている。
更には薬の副作用でランクも1まで下がってしまったらしい。
「だけど今はD級まで戻ってきているみたい。ランクまでは分からないけど異常な成長速度なのは間違いないね」
「確かに。だとすると畔川椎平ではなく彼が黒幕の可能性もなくはないのか」
畔川椎平がB級探索者になったこともあって黒幕候補の本命だと考えられていたが、思わぬ伏兵がいたものだ。
それともあるいは僕たちのように二人とも使徒として力を与えられたか。
(でもそれならどうしてランク1に戻ったんだ? 御使いから力を与えられたのなら弱くなる必要があるとは思えない)
それとも片目の視力を失ったことやランク1に戻ったことは周りの目を誤魔化すための偽装工作なのだろうか。
複数の筋から確認が取れているとあるので嘘だとは思えないのだが。
「……とにかく慎重に、かつ迅速に調査を進めよう。こちらとしてはどうにかして穏便な解決をする必要があるのだから」
そう、共存派の御使い達が暴走する前になんとしても。
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