第二十三話 B級探索者と監視の目
錬金真眼には透視能力がある。
そしてその気になれば遥か遠方の光景まで視界に捉えられるような常識外れな視力も併せ持っていた。
だからそれらを活用すれば、誰にも気付かない遠方のビルの上からでも椎平達の会談の場所を覗き見ることも十分の可能なのだ。
「……気付かれてはいないみたいだな」
普通なら気付けるはずがない。数キロメートル離れた位置から監視している対象の視線を感じるなど、いったいどこの超人なら可能だというのかという話だ。
だが生憎とB級探索者はその超人の枠に入っているはず。
だとしたら監視に全く気付かないなんてことがあるだろうか。
(とすると監視を分かった上で、あえて気付いていないふりをしているのか?)
今のところ共謀して椎平に襲い掛かるなどのような、見られて困るようなことが起こる気配はない。
各々の内心はともかく表面上は和やかに食事をしながら会話しているだけだ。
だから監視されても問題ないし、こちらを釣るためにあえて放置しているのだろうか。
「……分からんな。相手の思惑が」
一応椎平に何かあるようなら乱入する準備も整えていたのだが、この分だとそうはならずに済みそうではある。
つまり俺としては他人が食事している姿を見るだけの退屈な監視の時間が続くことになりそうだ。
(それにしても帰国早々呼び出した理由がスカウトだって? んな訳あるかよ)
誰かに勧誘される前に声を掛けたかった、仲間の勧誘がしたかったのなら椎平がB級になった時点で何らかの接触を図っていたはずだ。
だが実際には一ヶ月以上の時間が空いている。
それだけでスカウトという話がどこまで本当か分かったものではないという推察ができた。
なお、会話が聞こえているのは椎平が通話状態をオンにした状態のスマホを忍ばせているという単純な話である。
スキルによる監視に敏感な奴ほど、こういう原始的な方法が意外と盲点となって通用することがあるのでやってみた形だ。
だが幸か不幸か、そこから聞こえる声からも怪しい素振りは一切伝わってこなかった。
(これじゃあ俺が出歯亀してるみたいじゃねえか)
かと言って何かあった時のことを考えたら監視を止める訳にもいかない。
そうしてしばらく何の変哲もない会話が続いて、俺はそれを聞き流す。
(ただの世間話を盗み聞きしても何も面白くねえな)
これが悪巧みとかなら、どう利用してやろうかとか頭を働かせたのだろう。
だが残念ながら会話されている内容は特に変哲のない普通のものでしかない。
「……早く終わらねえかな」
その願いが通じたのか、思ったよりも早く終わりの時間が近づいてきたようだ。
あるいは椎平も内容の薄い会話を早く終わらせたいと考えたのだろうか。
手早く帰り支度を整えてその場を後にしようとしている。
(ったく、いったい何が目的だったんだ?)
そう思いながら俺も監視の役目を終えたと一安心した時だった。
背後から何者かの視線を感じたのは。
「っつ!?」
だがそれも一瞬のことで既に気配はない。
だが間違いなく視線は感じた。
「……やられたな」
油断していたつもりはなかったのだが、どうやら考えが甘かったらしい。
(確実に俺の姿を見られた。ってことは俺と椎平が協力していることも相手に筒抜けになったと思った方がいいな)
今回の会談は突然の事だった上に椎平しか招待されていない。
そんな場所を監視しているということは、相手からすれば誰からその情報を得たのか簡単に予想がつくというもの。
今の視線が会談の場を作った奴らと無関係なんてことはないだろうし。
「つまり椎平が本当に単独なのか。あるいは仲間がいるかの確認が目的だったってことか?」
ノーネームの解散後の椎平はウチと専属契約はしたものの、探索者としてはソロで活動している形だ。
少なくとも表向きはそうなっている。
それを怪しんで、裏に誰がいるのか確認のために誘い出した。
それに俺はまんまと釣られたしまったというところだろうか。
だとすればこれは俺の明確な失敗だ。
こちらは何も掴めていないのに敵に情報だけを取られた形なので。
(監視とか慣れないことはするもんじゃないな。これなら英悟とかに任せた方が良かったか)
隠密などの姿を隠すスキルもなしに監視したのがそもそもの間違いだったのだろう。
だが万が一、椎平が襲撃されるようなケースを考えた時に俺が待機していた方が良いと考えたのだ。B級探索者相手だと英悟達では荷が重い可能性があったので。
だがその考え自体がそもそも驕りだったのかもしれない。
錬金真眼の能力によって遠方から監視は可能でも、俺は諜報活動については素人なのだからもっと慎重になるべきだったのだ。
それに会談が終わった時に僅かでも気を抜いたのも反省しなければならないだろう。
今の状況はその隙を相手に突かれたといっても過言ではないのだし。
ここ最近、命の危険のない温い戦いや狩りばっかりしていた弊害か。
自分でも気付かぬ内に色々と緩んでいたようだ。
我ながら情けない限りである。
「まあいいさ。反省すべきことだけど致命的とは程遠い」
業腹だが相手にしてやられたことは認めて、やり返す機会を待つとしよう。
こんな椎平の背後関係を洗うような真似をしておいて、この後に何もしませんなんてこともないだろうし。
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