幕間 椎平とB級会談
現在の日本には私の他に四人のB級探索者が存在している。
そのことはずっと前から分かっていたことだ。
(それにしても早速接触してくるだなんてね。相手も何か急いでいるのかしら)
現状で帰国が確認できているB級探索者は二人。
その二人が帰国して早々、私に対して会談の申し込みをしてきたのだ。
名目上は新しいB級探索者との交流というもので。
正直断る選択肢もあった。
これが仮に罠なら、敵の誘いに乗るのは危険だろうと。
でもそれを承知の上で私は会談に応じる決断を下した。
相手が何を考えているのか、その目的がなんなのかを知るためには直接会って会話するのが一番だと考えたからだ。
そうして今、私はとある高級レストランの一室でその二人と対峙していた。
「さてと、まずは招待に応じてくれて感謝するよ」
そう語りかけてきた人物の名前は貴島 有人。
属性剣という特殊なスキルによって作り出される武器を使用する探索者だと聞いている。戦闘スタイルとしては魔法剣士だった自分に近いタイプだろう。
その隣で何も言わずにワインを飲んでいる女性は早乙女 アリーシャだ。ロシア人とのハーフとのことで、妖精の如き美貌で有名な人物でもある。
彼女はその外見などは有名だが、どういう戦い方をするのかなどの情報は謎に包まれていた。
相対してみた感じからすると戦士などの直接的な戦闘を得意とするような感じではないようだけれど、それ以外のことは分からない。
英悟達ですらその情報を掴み切れなかったので、警戒しておくに越したことはないだろう。
「それで何の用かしら? 日本を代表するB級探索者が二人も。しかも帰国早々に会いにくるなんて」
「それは伝えていた通り、新しいB級探索者となった君と交流を深めようと思ってだよ」
「あらそう? その割には約一名にその気は全くないみたいだけど」
会談に応じたものの、別に仲良しこよしをするつもりで来た訳ではないのだ。
しかもどうやら約一名も私と同じ気持ちであるようだ。
そう思って、さっきから煩わしい魅了の状態異常を掛けようとしてきている人物を睨みつけると、
「……ふーん、この程度の攻撃が分かるくらいの実力はあるみたいね」
全く悪びれる様子もなくアリーシャはそう呟く。
その様子から察するに、どうやらこちらの実力を試すために魅了攻撃を仕掛けてきていたようだ。
「でも少し腕が立つからって調子に乗らない方が身のためよ。痛い目を見たくないのなら特にね」
「あら、そうかしら? この程度の攻撃を仕掛けてくる相手にそんなことが出来るとは思えないのだけれど」
「へえ、随分と生意気な新人ね。叩きのめされたいのかしら?」
「やりたいのならどうぞお好きに。でも返り討ちに遭うだけよ?」
互いに笑顔を向けながら殺気を放っている。
そこには友好的な雰囲気など欠片もなく、今にも何かが爆発してしまいそうな緊迫感が漂っていた。
「二人とも、落ち着け。ここはダンジョンじゃないんだぞ。周りへの影響を考えるんだ」
このままでは放たれる殺気だけで周囲が悲惨なことになるところだったが、その前に制止が入ったことで一先ずそうはならなかった。
「一方的に試すような真似をしたのは謝罪する。申し訳なかった」
攻撃を仕掛けてきた本人ではなかったが、頭を下げて謝罪してきたので一先ずは許すことにする。
なにより話を聞いて情報収集しなければならないので、ここで交渉決裂になるのはこちらとしても本意ではないので。
「それでさっき聞いたけどいったい何の用なのよ」
「端的に言えばスカウトだよ。新たなB級探索者である君を協力者として勧誘したいということだね」
その前に最低限の実力があるかを確認する意味も込めてアリーシャが魅了を仕掛けてきたということらしい。
つまり先程の攻撃は有人も承知の上だった訳だ。
「B級以上の探索者は数が少ない。だから正式なパーティを組むのは無理でも、臨時でもパーティを組める相手は確保しておきたいんだ。君もソロでずっと活動するのは難しいと思うし、悪い話ではないと思うよ」
その言葉自体は嘘ではないだろう。
現状では日本にB級探索者は五人しかいないので、海外から助っ人を呼ばない限りは日本でB級ダンジョンに挑めるのもその五人だけとなる。
実力はB級以上の夜一でも、D級探索者である以上はそれより上のダンジョンに入れないので。少なくとも決められたルールを守るのなら。
(危険なダンジョンに潜る際に人手を確保したいから、協力できそうな相手とコネを作っておきたいってところかしら)
それ論理そのものに矛盾はない。
もっともわざわざ帰国早々に呼び出した理由がそれだけとも思えないが。
「悪いが君についても調べさせてもらった。だからかつてのパーティは解散してソロだということも知っている。だから君さえよければ私達と協力体制を築かないかい? 勿論、無理にとは言わないよ」
「……悪いけどそんな急に決められないわ」
本音で言えばその気は全くないけれど、ここで完全に断ってしまうと繋がりが途絶えてしまうかもしれないので曖昧な答えを返しておいた。
(まだ引き出せる情報がある可能性が高いもの)
そして恐らく相手もそう思っていることだろう。
「それもそうだろう。だから今回は顔合わせということにしないかい? 何も知らない相手とパーティを組むのなんて難しいだろうからね」
「……まあ、そのくらいなら構わないわ」
「感謝するよ。ということでアリーシャもいいね?」
「ふん! 分かったわよ」
少なくとも敵意むき出しのアリーシャはともかく、目の前の有人という人物は友好的ではあるようだ。
その態度が装いだけである可能性も十分にあり得るのが怖いところだが。
(この状況をあいつはどう見るのかしらね?)
この場を覗き見しているはずの奴のことを考えながら、私は目の前の二人のB級探索者と交流をすることとなるのだった。
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