第二十二話 ルミナスとの協力体制
繚乱の牙に続いてルミナスという日本を代表するC級探索者パーティの協力を取り付けられた。
それで万事が全て上手く進む……となれば話は早かったのだが、現実はそうではない。
協力するにしてもどういったことを頼むのか。
その見返りとして与える報酬はどうするのかなど、詳細を詰めて決めなければならないことはそれこそ山のようにある。
それらも会社に丸投げできれば楽だったのだろうが、御使いや異世界関連のことなど表に出せない情報があり過ぎた。
それこそアマデウスが生きているなんてことがバレたらどうなるかも分からないので、その辺りの情報の扱い方には細心の注意を払う必要がある。
だからこうして交渉など全て自分でやるしかないのだった。
「ウチから提供できるのは回復薬が主だな。それ以外でもリストの中にあるものなら融通するから、好きなように選んでくれ」
場所は相も変わらず例の料理店のVIPルーム。
現状だとダンジョン以外ではここが一番、外部に情報を漏らさないで会談できる場所なので仕方がないのだ。
「……回復薬だけでも驚きですが、他のアイテムも聞いたことのない物ばかりですね」
有栖がリストを見ながらそう呟く。
まあマジックコンテナや各種仮面。それ以外でも虫避けのお香や氷華生成装置など、長く探索者をやっているこいつらですら見たことのないアイテムばかりなのだ。
更にはそれらのアイテムを錬金術師の指輪や外套、錬金武器に込めて渡すことも可能となっているので、驚くのも無理はないだろう。
「これがあなたが新たに手に入れた錬金術という力ですか。確かに全面的に協力する価値のある、非常に強力な力ですね」
「だろ?」
試しとして渡したMP回復が可能な錬金術師の指輪の効果を確認している有栖ともう一人。
その様子からは好感触なのが伝わってきた。
「他にも魔物の素材でほしいものがあるなら言っておいてくれ。時間があればそれを優先して作成するようにするから。それ以外でも希望するアイテムの開発とかも言ってくれれば可能な限りは対応するぞ」
全ての希望に対応できるとは言えないが、ある程度までなら労力を割くのは厭わない。
そのくらいルミナスの協力を得られるということは大きいことなので。
「でしたらこの氷華のような氷系統のアイテムや魔物の素材があると助かります。氷姫スキルを成長させるのに必要になるので」
「了解。ならとりあえず氷華については生成装置ごと渡すから好きなだけ作って使ってくれ。壊れたら補充もするし」
こちらとしては時間がある時に回復薬を作ってくれるよう頼んでおく。
専用の釜は用意しておけば、こいつらのMP量なら短時間でもかなりの量の回復薬が作れるだろう。
売り物としては特別品以外でも回復薬が大量に必要なのだ。
どれだけあっても余ることはないので、その補充を行なってくれる人はいればいるほど良い。
「それと陽明から聞いているとは思うが、今後他国の御使いや使徒などと小競り合いをする可能性が高い。その時にお前達のチームには協力を要請するかもしれないから、そのつもりで戦力を蓄えていてくれ。そのための協力は惜しまないからよ」
「こちらとしては願ってもない話です。感謝致します」
そこで私としてはと言わない辺り、有栖個人としてではなくルミナスというチームがそれで構わないということを示していた。
実際、隣の副リーダーである加藤絵理沙という人物もいつものように一言も発さず、無言で頷いているし。
「それにしてもお前は相変わらず無口の異名の通りみたいだな」
その言葉に対しても絵理沙は頑なに何も話さず、けれど笑ってピースで返事を示している。
このことから分かる通り、別に目の前の人物は意思疎通が図れない訳ではない。
けれど決して自ら言葉を発しようとはしないのだ。
しかもこいつは昔から赤い×印のついたマスクを付けて話す気がないことをアピールしている。
あくまで話さないのであって話せない訳はないのに。
まあ言ってしまえば俺達と同じ変人奇人の類であった。
「ところで報酬についてですが、本当に金銭などの支払いなどは要らないのですか? これだけの数の回復薬やアイテムを提供していただけるというのに」
有栖の問いかけに絵理沙も同意するかのように頷いている。自分達に有利過ぎる条件だと思っているのだろう。
だがそれで問題はない。
「ああ、協力してくれるのなら金は要らない。というか金銭のやり取りを発生させると色々と面倒なんだよ。だからお前らもどこでこういうアイテムを手に入れたのとか聞かれたらダンジョンドロップしたってことにでもしておいてくれ」
今回の協力体制は社コーポレーションとは関係ない、あくまで俺個人との秘密の契約ということになっていた。
その理由は下手に会社を挟むと色々と決めなければならないことが増えるからだ。
(金銭のやり取りをするにしても、額が増えれば税金関係とかで面倒臭くなるからな)
それにいきなりルミナスと繚乱の牙という日本の二大探索者パーティと協力体制を敷いたことが表沙汰になれば、また色々と騒ぎになるのは間違いない。
たたでさえ椎平というB級探索者と専属契約しているのだし。
そういう面倒事は避けたいので提供する品々は俺がこっそりと作って誰にも知られないように渡す形にしてある。
言ってしまえば裏取引という奴だろうか。
「マジックバックなどに収納してしまえば何を持っているのか確認することは難しいですからね。あまり褒められたことではないでしょうが、この状況では仕方がないでしょう」
アイテムの受け渡しもダンジョンですれば足がつく恐れはないに等しい。
今のところ税務署などがダンジョンの中まで監視の目を張り巡らせることなど不可能だし、提供したアイテム類も使用するのは主にダンジョンでとなる。
(確認ができない以上は誤魔化すのも可能だからな)
ダンジョンが世界に現れて五年。残念なことに各国の法整備などが間に合っているとは言い難い状況を利用させてもらう形である。
英悟などは特にそういうことに長けていて、ダンジョンで表に出せない契約とか取引をしているとのことだし。
そうやってある程度、協力体制についての擦り合わせが終わったところだった。
「そう言えば聞いていますか? 日本のB級探索者が戻ってくるそうですよ」
「ああ、知ってるよ」
そう、海外で活動している四人のB級探索者の内の何人かが、どうやら久しぶりに日本に戻ってくるようなのだ。
その理由までは明らかになっていないが、タイミング的に怪しい感じはある。
何故なら日本のB級以上のダンジョンは少なく、しかも既存のB級探索者ならそれらのダンジョンは既に攻略しているはずだから。
だからこそ奴らは海外に活動拠点を移していたはず。
それなのに戻ってくる。それが単なる帰省とかだと思うほど俺の頭はお花畑ではなかった。
「偶然だと思いますか?」
「たぶん違うだろ。それに仮に偶然だったとしも、どうせ面倒事は起きるだろうから警戒だけは怠らないようにしておいた方が良いと思うぞ」
なにせ俺の悪運はカンストしているので。
そしてその予想通り、B級探索者が日本に戻ってきたことを契機とするかのように問題が発生することになるのだった。
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