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[書籍第2巻、4月18日発売!]隻眼錬金剣士のやり直し奇譚-片目を奪われて廃業間際だと思われた奇人が全てを凌駕するまで-【第4回HJ小説大賞 年間最優秀賞受賞!!!】  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中
第五章 崩壊の序曲と御使い降臨

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幕間 氷姫の過去と恩人

 氷姫。


 自分の異名であり、ずっと頼りにしてきたスキルの名称でもある。


(私の探索者人生を語る上で決して切り離せない大切な力)


 世界でも珍しい初めて魔物を倒した時から所持していたスキルだったということもあって、このスキルは注目されたものだ。


 そしてその所有者である有栖自身も天賦の才が有るのではと期待されたものである。


 私自身もこれで両親の仇を取れるのではないかと期待に胸を膨らませた。


(けれど現実は残酷だった)


 その期待とは裏腹に、最初の内はこの氷姫のスキルはまるで有用ではなかった。


 氷姫を生み出すためにはMPと気力を消耗する。

 だが探索者になりたての自分のMPなど僅かでしかなかった。


 そしてスキルレベルⅠでは、その貴重なMPを消費して作れる子は片手で持ち上げることが可能なくらいなものだけ。


 当然ながら魔物を倒せる力なんて有しておらず、愛玩用にするくらいしか用途は見つけられなかったものだ。


 与えられたスキルが使い物にならなければ、自分などただの世間知らずで非力な存在でしかない。


 となれば当初は多くの人にパーティを組もうと誘われたが、期待外れとして放逐されるまでそう時間は掛からなかった。


 最初の魔物を倒すのもお金で雇った用心棒に協力してもらってやっとだった自分だ。


 荷物持ちとしての役割も満足に果たせないこともあったし、それも仕方のないこと。


 だけどそれでも私は諦められなかった。


 優しかった両親。


 父も母も発展した医療で多くの人を救いたいという理念の元、日本以外に赴いて医療的な指導や様々なケアを行なっていた。


 そんな私にとって偉大で尊敬する両親の行いは報われることはなく、それどころか実に惨たらしく悲惨なものだった。


 それこそこれまで多くの人を救ってきた善行など何の意味もないと示すかのように。


 映像など残されておらず伝聞でしか分からなかったが、それでも魔物なんて怪物に食い殺されて死ぬような目に遭っていい訳がない。


 だけど現実はそうなった。


 遺体も遺品も戻らず、空の棺で両親の葬儀が執り行われるのを見て私は悟った。


(この世界に神様なんていない)


 因果応報なんて絶対に嘘だ。

 だってそれなら両親があんな形で死ぬ訳がない。


 あるのは理不尽で残酷で、どうしようもない現実だけ。


(許せない)


 どうして両親が死ななければならなかったのか。


 ダンジョンや魔物が何故生み出されたのかなんてどうでもいい。


 だってどんな理由があろうとも、両親を死なせたことを決して許すことはないのだから。


「魔物もダンジョンも、それらを作り出した奴がいるならそいつも、絶対に許さない」


 必ず復讐してやる。


 そう固く決意したものの、力のない私には到底叶えられそうな願いでしかなかった。


 だがそんな時だった。


 期待外れの足手まといとして誰もパーティを組んでくれなくなった私に、ただ一人だけ手を差し伸べてくれたのは。


 羽場切陽明。


 当時は鉄人の異名こそ付けられていなかったが、それでも彼は一角の探索者として頭角を現しており、色々なパーティに勧誘されることも多かったと聞く。


 大柄で恵まれた体格だけでなく、武術を身に着けた上で戦う者としての心構えも兼ね備えた優れた人材。


 非力で使えないスキルしか持っていない私とは違って、探索者として大成することが約束されているような傑物だった。


 今でこそ私と彼は日本のC級で肩を並べるみたいな扱いをされているが実際にはそんなことはない。


 だって彼は寄り道をしなければ、もう既にB級になっていたはずだから。


(その寄り道の一つである私が言えた義理ではないかもしれないけれど)


 探索者として優れていた陽明さんは、指導者としても素晴らしい才能を有する人物だったのだ。


 そしてまた陽明さん自身も世話好きだったこともあって、時には自分の探索者としての活動を減らしても後進育成に時間を割いていた。


 その内の一人が私であり、だからこそ私は陽明さんに返しきれない恩がある。


 他でもない彼の頼みならほとんどのことよりも優先させてもいいくらいに。


(でも、そんな陽明さんの頼みでもこればかりは聞けないわ)


 いるかどうかも分からなかったダンジョンを作り出した相手。


 五年間、片時も忘れたことがない求め続けた復讐の対象が、諦めかけていた仇が遂に見つかった。


 その瞬間から今に至るまで私の頭の中は復讐の二文字に支配されている。


 冷静になれば今の自分がおかしいのは分かる。


 陽明さんにもアマデウスという存在は、ダンジョンを生み出した奴らと同族というだけで、実際にダンジョンを生み出した訳でないことなども説明された。


 だけどそれでも止まらない。いや、止められないのだ。


 それがどんなに理不尽で理屈にあってないのかを頭の片隅で理解していてもなお。


(復讐のためなら命だって惜しくはない)


 その言葉が嘘ではないと証明するかのように、私はこれまで一度も実戦では使ったことのない奥の手を使う。


 これまで氷姫はスキルレベルが上がるごとに色々な面で強くなってきた。


 生み出す子が強くなったり数が増やせたりすることは基本として、それ以外でも色々な能力を開花させたのである。


 その内で単体の強敵に対して最も効果があると思われるのがこれ。


 氷姫合体という生み出した子を文字通り合体させる能力だ。


(分かっていたことだけど、彼は圧倒的なまでに強くなっている。このままじゃジリ貧で負けるだけ)


 あの陽明さんが好敵手として認めている人物。


 以前から色々と油断ならない人だったけれど、今はそんなレベルではない。それこそ今の私など足元にも及ばないくらいに。


 でもだからといって素直に諦める選択など取れない。


 そうするには遅過ぎるくらい、私は戦いの日々に浸かり過ぎていた。


(デメリットはあるものの合体させた氷姫のステータスはおおよそ170まで達した。これでもまだ相手に届かない……けど!)


 足りないならば補えばいいのだ。


「氷結強化!」


 氷姫は全身が氷で構成されているので、氷属性の強化が効く。


 またそれ以外でも私が使えるありったけの支援スキルで強化を施す。


(ぐう!?)


 限界を超えた強化の影響か、氷姫の肉体が悲鳴を上げているのが私にも伝わってくる。


 この調子だと、この子と繋がっている(・・・・・・・・・・)私の身体も遠からず限界を超えるだろう、


 だけどそれでも構うものか。今の私は自身の命などどうでもいいのだから。


「いきなさい 氷姫!」


 その言葉に応えるように限界を超えた氷姫が動き出そうとして、


「爆裂剣、過剰駆動(オーバーロード)


 無情なその言葉と共に放たれた一撃で私の希望は無残にも砕け散った。


「そんな……!?」


 彼が投じた一本の剣。それが先ほどよりもずっと強烈な爆発を発生させて、強化された氷姫はその爆発に耐え切れなかったのか大きなダメージを受けている。


 だがそれでもまだ完全に壊れた訳ではない。


 だから氷姫専用の回復スキルを使用すれば、所々が罅割れたその体は元通りになってまた戦えるようになるのだ。


 そう、だから合体した氷姫には問題など何もない。

 あるとすればそれは私の方だ。


「自主的にスキルでダメージの身代わりをしている訳ではなさそうだし、やっぱり合体の代償である程度のダメージとかを共有している感じか。どうりでギリギリまで使わなかった訳だ。で、装備してた身代わりの指輪は壊れたみたいだけどどうする?」


 どうやら合体した氷姫のダメージが私にもくることも、身代わりの指輪でそれをどうにか防いだのも見抜かれているらしい。


 そして新たな指輪を装備する時間は与えてくれそうもなさそうだ。


 つまりここから先のダメージは私自身が受け止めなければならないということ。その結果がどうなるかは考えるまでもない。


 だけど、それでも!


「……氷姫!」

「だよな。お前ならそうするよな」


 自らの命を惜しむことなく氷姫に敵を倒すように命じて、敵に向かっていく氷姫の背中を私は見届ける。


(お父さん、お母さん……)


 次の瞬間には強烈な爆発が発生して、何もできずに意識が刈り取られるであろうことを察しながら。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 両親の魂残ってないのかな?残ってたら蘇生わんちゃんあるのでは?
[良い点] 更新お疲れ様です。 陽明、夜一の(多分)知らない所で色々やってるんですなぁ…。 強さの頂を貪欲に目指すバーサーカーな面と、手を差し伸べなければ潰れてしまう存在に向ける優しさの面という対称…
[一言] なんであの坊主頭のおっさんから話繋がるのかと思ったらそういう事かぁ… ずっとC級で新人育成とかやりそうだなあの人
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