第十話 食わせ者とアメリカの使徒
「こいつ、マジで厄介だな」
「ええ、流石は大国の高官って感じっすね。油断ならない相手ですよ」
帰ったふりして英悟と共に盗聴していたら、想像もしていない単語が聞こえてきて驚かされたものだ。
(こっちがどういう反応をするかお手並み拝見ってか? やってくれるぜ)
こちらが話を盗み聞いていることを承知しているのに話を止めない。
それどころか、あえてこちらに聞こえるように使徒という聞き逃せない単語を呟くおまけ付き。
これを狙ってやってきているのだから、このスティーブという男はとんだ食わせ者だ。
「これで探索者じゃないってんだから、どういう頭の回転してるんでしょうね?」
世の中には信じられないようなバカもいれば、こいつのように恐るべき頭脳を持っていう天才もいるということか。本当に油断ならない相手である。
しかも今はそんな話題など忘れたかのように甲殻亜竜のステーキについて、護衛などと感想を言い合って楽しんでいる始末。
どういう切り替え方と面の皮の厚さだと言いたくなるというものだ。
「でも、この情報は俺達にとって重要なものですよ」
「そうだな。まずアメリカに使徒、そして御使いが居ることはほぼ確定したからな」
世界で最もA級が多いことからもそうではないかと予想はしてはいたが、確証があるのとないのとでは全然違う。
「それにどうして夜一さんが今まで舐められることが多かったのかも分かりましたしね」
椎平を始めとして、大抵の探索者はステータスが上昇すればするほどに風格というものが自然と出ていた。
だが生憎と俺はそんなことはなかった。少なくとも自分からそれを出そうとしなければ。
それは今も会社で普通に働いて埋没できていることからも明らかだ。
(ステータス250の風格が出てれば、嫌でも注目を集めるはずだもんな)
だが現実はそうではない。
恐らくその理由は、俺がそう望んでいるからだ。
勘九郎が以前に言っていた。
ステータスが高くなれば理想としている自分へと近づいていくのかもしれないと。
そして俺は強くなることを理想としている。
しかも敵が油断や慢心している隙を突けるのならそれに越したことはないという信条の持ち主でもあった。
それはこれまでに散々やってきたことからも明らかだろう。
その心を反映した成長をした結果、俺は傍から見ると弱そうで舐められやすい雰囲気を持つに至っているのではないだろうか。
そしてアメリカのA級探索者で、同じような特徴を持っている奴が一人だけいた。
その名はデイビス・ウォーカー。
イギリスのアーサーとどちらが最強かと議論されることの多い人物だ。
「だとするとアメリカの使徒の最有力候補はデイビス(こいつ)だな」
使徒が一人だとは決まっていないので、他のA級も使徒である可能性も捨てられない。
だが今回の件で最も警戒すべき相手はこいつだろうというのが俺達の認識だった。
「それでどうします? 何もしないでも、このまま情報を得られるだけこっちは得ですけど」
「そうだな……いや、何もしないのはないな」
思わぬ情報を齎されて、それに戸惑って動けない。
そんな印象を相手に持たれるのは舐められる要因になりかねない。
少なくとも相手から、迂闊に手を出して行けない相手だという認識を改めてされるようにしなければならないだろう。
だがそれでもこちらの情報はあまり渡したくはないのが難しいところ。
そうしてどうしたものかと考えながらボンヤリと甲殻亜竜のステーキについて談笑しているスティーブ達の会話に耳を傾ける。
そこでふと思いついた。
「……よし、どうせなら相手の要望に応えてやるとするか」
アマデウスや錬金術のことは明かさずに、こちらの実力を示す方法。
それは
「甲殻亜竜狩りの時間だ」
食材提供だった。
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