第八話 新商品とCMの影響と
回復薬ほどではなかったが、それでもアルケミーが世間に与えた衝撃はかなりのものだった。
飲めば疲労が回復する飲み物。商品の謳い文句ではなく、実際にその効果が実感できるくらいに分かる商品なのだからそれも無理はないだろう。
(と言ってもこっちは回復薬と違って、疲労感が抜けるだけでスタミナが回復する訳ではないけどな)
その効果ですら疑う人も世の中にはいたが、実際に販売されて効果を確かめてもらえばどうとでもなると判断している。
なにせウチは今、回復薬作成を達成したことで良くも悪くも世間の注目が集まっているのだ。
妬み嫉みはいつものこと。その程度の雑音など気にする必要もない。
それにその対応策も考えてはいるし。
この後に販売する分とは別で、国内の一部のスポーツチームにアルケミーを使ってもらう、要するにテスターなってもらう予定なのだ。
勿論この前に効果を確かめるテストは散々繰り返しているので、これはその効果を実感してもらって嘘ではないということを宣伝してもらう意味合いが強い。
(疲労が抜けるだけでもスポーツ選手とかからすれば助かるだろうからな。スタミナ回復効果の方ならより一層欲しがるかもしれんし)
社員のテストでも寝る前にアルケミーを飲んでみると、目が覚めた時の目覚め方が今までにないくらいに良いとの報告もある。
これは寝る前に飲んだアルケミーが睡眠中にも効果を発揮して疲労感を消し、睡眠によって消耗していた体力などが回復するせいだと考えられている。
また疲労が消えることで質の良い睡眠が齎されている可能性も指摘されており、その辺りは今後の研究でより詳しく調べていくとのこと。
またこれらの研究の副産物として、味の改善された回復薬の作成にも成功していた。
それらは一般では販売はせずに、今のところは知り合いなどに譲る形で効果に差異などないかを確かめている。
ちなみにこれを渡されたダンジョン協会本部長とか飯崎さんとかが泣いて喜んだとか。
(あっちも色々と忙しそうで薬漬けだろうからな。可哀そうに)
その原因であることは自覚しているが、反省する気も自制する気も更々ないので、今後も頑張れと応援する次第である。
そしてアルケミー発表と同時に放映された椎平主演のCMだが、これまた大好評だった。
大まかな内容は、映像の中で激しい運動をした感じを出して、最後にアルケミーを飲むだけで、それほど特別な中身ではないだろう。
だがB級に昇格する過程でステータスも上昇した椎平の外見は、それこそ芸能人と比較しても勝るとも劣らない。
いや単純な肌の綺麗さなどでは、勝っているとさえ言えるレベルだ。
凄腕の探索者でありながら、その類い稀なる美貌の持ち主が躍動する映像。
探索者に興味のない層でも、興味を引き付ける要素を十分に兼ね備えているのだろう。
しかもネット上で公開されたCMのメイキング映像も、その話題を盛り上げるのに一役買った。
なにせその映像で椎平がロープなどもなくバク宙を決める瞬間が映っていたからだ。
しかも明らかに余裕を持って軽々と。
椎平の話では、これらは本来身体にロープとかをつけてスタントする予定だったのだが、それを理解していなかった椎平が何も付けずに素でやるのかと勘違いしてしまった結果とのこと。
椎平クラスになれば、この程度の動作はダンジョン外でも余裕で可能だからこそやってしまったのだろう。
ここでも探索者と一般人の常識の乖離が起こってしまった形だ。
(椎平がその気になれば、空中を歩くことも余裕だからな。バク宙くらいなら、そんな機材を必要という考えすら浮かばなかったんだろうよ)
そうして撮影された映像の多くが、椎平の素の身体能力で行われていることがメイキング映像で判明して、これがまた一部でバズッた。
いや正確に言うのなら、バズり散らかしたと述べるべきだろうか。
外見は女優やアイドルに引けを取らずに、アクションもバリバリこなせる。
しかも現場で学習能力も非常に高いことも証明してしまっている。
となればその結果はどうなるかは言うまでもない。
今の椎平には取材の依頼が殺到している。
しかもそれどころか一部からはドラマや映画の出演のオファー送られてきたとのことで、その渦中に巻き込まれた椎平は実に面倒臭そうにしている次第であった。
なお、そのほとんどは断ったが、唯一次のアルケミーのCM出演だけはどうにか請け負ってくれた。
対価として、また俺があいつの言うことを聞く羽目になったが。
(このままだと新しいアルケミーが販売される度に、俺の貸しばかり増えてきそうなんだが?)
社長などにそう反論したが、その程度くらい我慢しろと命令されてしまった。
実に理不尽な上司で遺憾の意を示したい所存である。
(それにしても、ここのところ飲料メーカーからの問い合わせとかがとんでもないな)
日本のメーカーは有名なところはほぼ全て。それどころか海外のブルーブルとかの超大手からも業務提携などの申し込みが殺到している。
そして大手の多くは、こちらに有利過ぎるとも思える条件を提示してきていた。
その金の匂いを感じ取る嗅覚と危機察知能力は、流石は大手だと言わざるを得ない。
そして恐らくそれを拒否して、このままヨントリーだけに材料を提供すると、それら全てを敵に回す可能性がある。
だから折を見て、特別品の提供だけは行なうなどのある程度の譲歩を行なう予定だとのこと。
(愛華の他にも、外崎さんと勘九郎に優里亜が錬金術師になってくれたからな。これで多少は特別品の生産効率も上がるはずだし)
愛華と同じような苦しみを味わっている三人だが、やはり元のステータスが高いせいか、あるいは苦痛に耐性があるのか優里亜や勘九郎は慣れるのも早かった。
そのおかげもあって想像以上に早く回復薬量産も可能になりそうだ。
無論、俺も熟練度上げと経験稼ぎも兼ねて仕事中だろうが戦闘中だろうが関係なく、常に回復薬などを作っている。
そのおかげでアルケミーボックス内に在庫も大量にあるので、そのくらいの増産なら間に合うはず。
問題はこれが別の分野でも起きた時だ。
今回はアルケミーの影響が強くて飲料メーカーが殺到した形だが、それ以外からも続々と話はきているようだし。
その中には、格安で譲れとか、無償で回復薬を寄付しろ、とかお前は何様なんだよと言いたくなるような傲慢な要望を突き付けてくる奴らもいたそうだ。
(なんでこっちが苦労して作ったものを損してまで提供しなきゃいけねえんだよ。研究開発にどれだけの金が必要だと思ってやがる)
回復薬を作れて大幅な費用削減が可能なウチであっても、そういった研究費用は決して安くはないのだ。
またそういった商品の売り上げから社員の給料や会社の事業に必要な資金を捻出している。
宣伝になるとかならともかく、こちらのメリットがない状態での無償提供などオブラートに包まなければ、一昨日きやがれ、の一言でしかない。
神化の薬の質を高めるためにも、新しい商品開発は必須。
そのための開発資金は幾らあっても足りることはないので、今まで以上に資金調達も頑張らなければならないのだから。
(だけど異世界の失敗の件もあるからな。その辺りの塩梅も考えてやらないとな)
今のところ作り過ぎて困るようなことにはならないはずだが、明確な失敗例がある以上は自分達も気を付けなければならないだろう。
そんなことを考えていた数日後、遂に会社ではなく俺自身に接触してくる奴らが現れるのだった。
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