第七話 アルケミー発表と予約開始
受賞及び書籍化記念更新はここまでの予定……だったのですが、もう少しだけストックあるので更新しようと思います。
とりあえず明日と明後日も更新するので、お楽しみに!
今のところ開発されたアルケミーは二種類。
疲労回復効果を持つアルケミー通常タイプと、スタミナ回復効果を持つアルケミースタミナタイプだ。
そして今回、発表と予約販売を開始するのは通常タイプのみとなっている。
その理由は単純に、現状だと通常タイプの方が作成するのが簡単だったからだ。
「これまでの研究で、回復薬に含まれる効果の中から特定のものを残すためには、温度管理が最も重要なことが分かりました」
今は予約開始前に外崎さんと最終確認中である。
これで問題がなければ商品の発表と予約、そして例のCM放送も開始する予定だ。
「一定の温度を三日維持しないと効能などにブレが出ると。そして必要な温度は疲労回復が低温で、スタミナ回復効果が高温ですか」
それ以外でも回復効果が消えるまでの時間などがまちまちになるとのことで、商品としてそれは致命的である。
同じ値段で買ったのに当たり外れがあるとか、そういう一種の運試しの商品ではないのだから。
だからこそ商品として販売するなら均一化されている必要がある。
「現在では、氷華を利用した冷却装置も完成しており、実際に装置の稼働にも成功しています。これのおかげで通常タイプの生産はかなり楽になりました。そして今のところはこれらの回復薬の加工技術と情報は我が社が独占しています」
報告書でも冷却して特定の効果を保持させた代物を相手先に渡す形をとっていると記載されていた。
それを飲める飲料に加工してもらうようになっているらしい。
(ここまで研究が進んだのは回復薬を量産できるウチならではだからな。そのアドバンテージを捨てるなんてバカのすることだろうよ)
当たり前だが、そんなことをする社長ではない。
これらの研究データは我が社の大切な武器であり、それを簡単に他社に流すなど言語道断。仮に情報を渡すとしても、それに見合うだけの対価をもぎ取れなければ話にならないだろう。
「それで相手の方は問題ないと?」
「あちらには特別品を格安で、優先的に販売する契約を結びました。恐らくはそれらを利用して、今後は自社でも開発を進めるつもりでしょう」
「仮にこちらよりも先んじて別の商品の開発に成功したとしても、ウチからの特別品の供給が断たれれば作れなくなると。それならしばらくは問題ないでしょうね」
「しばらくなんですか?」
「あっちは何年も業界でトップ争いをしていたような大手企業ですよ。十分な数の素材がある状態で研究開発を進めれば、何かしらの成功は掴むと思っておいた方が良いと思います。単純な予算はあっちのが断然上でしょうから」
こちらは回復薬を安く作れるという強みがあるにはあるが、資金力ではどう考えてもあちらが上だろう。
それに甘い予想をして足元を掬われるよりも、警戒しておいた方が良いに決まっている。
「それにあっちだってバカじゃないですから、引き抜きとか仕掛けてきてるんじゃないですか?」
「それが意外とそうでもないんですよ。まあ探りを入れてくることは何度かあったみたいですが、こちらが企業秘密だと断るとあっさり引いたようです。むしろそういった引き抜きは、ウチと接点や取引がない会社の方が圧倒的に多いですね」
「ああ、なるほど。たぶん下手なことして、こっちの機嫌を損ねでもしたらと思っているんでしょう。それで折角の取引が破綻して、別のライバル企業に話を持っていかれたらかなりの痛手でしょうから」
その辺りの見極めは、さすが一流企業と言うべきか。
だからこそ油断ならないとも言えるのだが。
「改めて確認しても商品も、それ以外の点でもほとんど問題はなさそうですね」
「だとすると問題は値段と数ぐらいですね」
このアルケミーのお値段は一本、税込みで1580円となっている。
以前よりは安くなったとはいえ、まだまだ高級商品の回復薬が素材に使われている。
それを考慮すれば、これは信じられないような激安価格ではある。疲労回復効果のほども確かではあるし。
だがただの飲料水として見るならば、高級品となってしまうのは避けられないだろう。
またいきなり大量に販売すると、市場を荒らし尽くすことになりかねないとの懸念から今回は予約での一定数のみの販売となっている。
(下手をすると、他のエナジードリンク類を軒並み壊滅させかねないからな。そうなったら色んなところから恨まれてやりにくくなるに決まってる)
世の中の仕組みとか柵は非常に面倒である。
やはり俺は探索者で気ままにやっている方が合っているようなので、今後も面倒ごとには関わらないようにしよう。
その辺りのことはウチの経営陣が対処してくれることになっているし。
「あれ、そう言えば特定保健用食品とかの申請ってどうなったんでしたっけ?」
「あれは認められなかったようですね。効果が確かでも回復薬というダンジョン発のアイテムを利用することがネックになったみたいです」
(この絶好の機会にそんな臆病な姿勢で大丈夫なのか……? まあ政治とかはよく分からんから何とも言えんけど)
でもダメだというのなら仕方がない。
だったらこちらで商品の効果が確かなことを色々な方法でアピールするとしよう。
まあ上手くいけば、その必要もない可能性もあるにはあるけど。
「それじゃあ最終確認が終了したことを社長に報告してきますね」
「お願いします。それと一先ずお疲れ様でした、八代特別顧問」
「外崎さんもお疲れ様です。それと今後もよろしくお願いします」
そうして俺は社長に報告を終える。
その数日後にアルケミーの商品発表が行われ、予約とCM放送が開始される。
なお、予約のためのサイトは発表から一瞬でアクセスが集中し過ぎてサーバーダウンしたとのこと。
たぶんそうなるのではないかと予想していたが、この分だと過度な宣伝などしなくても何も問題なさそうだった。
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