第五話 残党の目的と誤算
「異世界の残党の主目的は、この世界でも自分達が生きていける環境に変化させることで間違いない。そのために貴重なダンジョンコアを使ってダンジョンを創り出している。これは前にも語ったね」
「ああ、そうだな」
「だがそもそも、ダンジョンコアで変えられる環境とやらにも限界がある。それも当然だろう。どんな環境でも自由に変えられるのなら、原住民がいない世界を好きに変える方が容易いのだから。だからこそ残党は自分達が生きていた世界と似たような世界を探して彷徨い続けて、ようやくここを見つけたのだと思う」
その過程ではダンジョンコアを使っても、自分達が生きていけるようにするのが無理な場所が多く存在したに違いないとアマデウスは語る。
「つまり元々のこの世界の環境は、我らの世界と似通っているということでもある。だからこそダンジョンコアの機能だけでも十分生存可能に変化させられる。そんな似通った世界での誕生した知的生命体だ。似たような性質を兼ね備えていても不思議はないだろ?」
近しい環境で誕生したからこそ、その本質なども近しいものがある。
なるほど、それはあり得ない話ではないだろう。
少なくとも全く違う環境なのに、偶然その性質などが似通っていたなんて話よりはずっと納得できる。
「あるいは、もしかしたら私達と君達の祖先が近しい存在だった、とかの可能性もあるが、それが分かるのはそれこそ本物の神という存在くらいだろうさ」
現状で分かるのは俺達人間と神族、御使いの奴らに似通っている点、あるいは性質があるということだけ。
だが現状はそれで十分。
(思考回路が近しいのなら敵の考えを読むのも可能なはず。もっともそれは敵からも読まれる可能性があるってことだけどな)
でもだからこそ残党は人間との共生も可能だと思ったのかもしれない。
全く意思疎通ができないような、理解不能な思考回路をしている相手とそうなるとはそもそも思わないだろうし。
「そうやって残党はダンジョンコアを利用してダンジョンをこの世界に創り出した。そして時間を掛けて、自分達が活動可能な環境に変化させていこうとしたのだろう。今の奴らは生身でダンジョン外に出るのは無理なようだからね」
「そうなのか?」
「ある程度似ているとはいえ、ここは元の世界とは違う場所だ。君達人間だって仮に地球と近しい環境の惑星に降り立った時、宇宙服などの保護が必要なのは分かるだろう?」
似ていても全く同じではない。
未知の病原菌があるかもしれないし、一見して同じでも空気中の成分など目には見えない点での差異があれば、人間にとっては致命的となる。
酸素濃度が変わるだけでも人間は意識を失って、最悪の場合は死に至ると聞くし。
「つまり残党の目的は自分達が宇宙服のような保護がない状態でもここで活動できるようにするってことなんだな」
「共生するにしても、支配するにしても、自分達がまともに活動できないのであれば意味がない。だから各派閥の思惑はあれど、その点に関しては共通の目的となっているはずだよ。もっともそれすら今は危うくなっているようだけど」
残党たちは地球に到着してからダンジョンコアを世界中に配置した。
一ヶ所に集中せずに世界中に点在させたのは、そうした方が全体への干渉が容易になるため。
「だがそもそも誤算があった。それはこの世界が思った以上にダンジョンコアとの相性が良過ぎたことだよ」
世界中に撒かれたダンジョンコアは、言うなれば種子である。
地球に根付いてダンジョンという花を咲かせ、光合成を行なうかのように地球の環境とダンジョン内の物質を循環させる。
そうすることで御使いなどが活動できる環境を地球に生み出すのだ。
しかしダンジョンが現れてから約五年、世界中にばら撒かれたその種子は順調に育ち過ぎている。
そうアマデウスは語る。
「想定を超える速度での環境の変化が起こっている。そして急速な変化は、齎す歪みも大きくなる。その歪みが大きくなり過ぎれば、いずれ寄生先すら巻き込んで崩壊するだろう」
種は撒かれて思惑通り綺麗な花を咲かせた。
だが咲いた花は、撒いた者の想像を大きく超えて、更に咲き誇るために土の養分を根こそぎ吸い取り尽くそうとしている。
土台が崩壊すれば、花自身も枯れるしかないのに。
今のダンジョンの状況はそんなものだとアマデウスは断言した。
「勿論、今すぐにそうなる訳ではない。今のペースでも数十年は持つだろう。だがそれでもこの流れを変えなければ、おおよそ百年後には間違いなく多くを巻き込んで崩壊するだろうね」
そして対応が遅れれば遅れるほど、齎される影響は大きくなる。
だから対処するなら早いことに越したことはない。
「思った以上に世界から養分を吸い取るダンジョンが多過ぎるのが問題。だからそれを減らすために間引く必要があると。なるほどな」
「簡単にはいかないだろうけどね。なにせ今までの方法では、ダンジョンコアを壊しても修復されてしまう。つまり時間稼ぎにしかならないという訳だ」
しかも今の世界では、ダンジョンを勝手に消滅させるのは禁止されている。
数回くらいならバレないかもしれないが、そう何度も繰り返せば発覚するのは避けられないだろう。
「残党とやらは、この事実に気付いてないのか?」
「そこは恐らくとしかいいようがない。けれどわざわざ時間を掛けて環境を整えようとしている場所を、意味もなく崩壊させようとするとも思えない。だとすればまだその事実に気づいていないと見るべきだろうね」
「それを教えればどうにかなるんじゃ……って簡単にはいかないのか」
残党側からすれば、俺達人間など何も知らない原住民だ。
そんな奴らがダンジョンコアとダンジョンが危険だと教えても、お前らに何が分かると言われるのがオチだろう。
あるいは特別な存在だったというアマデウスがそれを教えればいいかもしれないが、それでどうにかなるのなら既にこいつはそのために動いているはず。
だが実際には姿を隠していることからも、それではダメなのだろう。
「残っているのが黄金神一派だけなら可能性はあるが、それ以外の派閥だと私は不倶戴天の敵扱いだろうからね。むしろ憎き仇敵が復活したことが許せない奴らも多いだろう。まともに話を聞く前に今度こそ魂まで抹殺しようとするかもね」
「そういや敵の優秀な奴を道連れにしたとか言ってたもんな、お前。だから恨まれててもおかしくないってか」
だからこそアマデウスはこれまで細心の注意を払って隠れていたのだろう。
復活した自分を敵が狙う可能性を考慮して。
「私は既に一度死んだ身だ。そしてその結末にも納得している。だから自分の命が惜しい訳ではないけれど、無駄に命を散らす趣味もないからね。なにより私を復活させた主がとばっちりで襲われるのは忍びないから隠れているのが無難さ」
そうでなくとも回復薬の件で襲撃されているので、わざわざその要因を増やす必要はないだろう。
そこまで話してアマデウスは凡その話さなければならないことは終わったという。
それを聞いた俺達は、まだそれらの情報を呑み込み切れないでいた。
あまりにも重大で突拍子もない、そして壮大な話過ぎだし、なにより考えなければならないことが多過ぎる。
とりあえず今までの情報を整理する意味も込めて、俺は勘九郎や英悟などと今後どうするかについて話し始めた。
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