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第五章 崩壊の序曲と御使い降臨

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第三話 アマデウスの生涯 その1

 アマデウスの生まれは裕福な家庭ではなかったらしい。


「いや、言葉を濁さず言えばとても貧乏だったよ。幼い頃は食事も満足に取れなかったくらいにね」


 国が造られ、大きく発展したとしても貧富の差が完全になくなったりはしない。


 力あるものは富を掴み、そうでない者は貧しくなっていく。

 それは今の地球と変わりないとアマデウスは述べる。


「その富める者の代表格が黄金神、精霊神、虚空神とその一族だった」


 原初の時代から強力な力を継承し、ましてやそれを研究、発展させてきた実績。


 かつてよりもずっと大きくなった国を維持するためにもその力は必要不可欠であり、その力を持つ者達が権力を握るのも自然の流れだった。


 それこそ世界を統治する勢力となるくらいに。


 だがそんなことは貧困に喘ぐアマデウスにしてみれば知ったことではない。


 そんな御大層な歴史や国の成り立ちなんてものよりも、その日の飢えを凌ぐことが重要なことだったのだから。


「そんな時だった。私が黄金神一派に才能を見出されたのは」


 黄金神を含めた三大神とその一派は、長い年月をかけて継承した力を解析し、進化させるべく研鑽を積んできた。


 その結果、創造の力とも呼ぶべきその力の一部を継承者以外にも与えることが可能になっていたのだ。


 ただしそれには力に対する適正が必要であり、誰にでもできた訳ではないとのこと。


 ただ運が良いことにアマデウスには高い適性があった。


「そうして貧困に喘ぐ中で運よく先代黄金神に見出された私は、幾つもの試験などを経て力を授けられ、錬金術師となった」


 ただし適性があっても錬金術師になるためには力が必要となる。


 それは錬金術師というジョブが第四次特殊職ということからも明らかだった。

 だからアマデウスは錬金術師になるために、黄金神の一族から厳しい訓練を課されたそうだ。


 そして錬金術師になってからも辛い訓練は終わらない。


 今度は愛華が苦しんでいるように、熟練度を上げることで言いようのない苦痛を味わったとのこと。


「だが幸か不幸か、私は負けず嫌いでね。同じような境遇でも訓練についていけない奴、私よりもずっと先に進んでいる奴、そしてなにより弱音を吐く自分自身に負けたくなかったことで、誰よりも過酷な訓練をこなし、茨の道を邁進し続けた」


 そうしたことでアマデウスは、いつしか誰もが予想もしない境地へと至っていた。


 前代未聞、前人未到と呼ばれるくらいに。


 一から錬金術を学んでおきながら、その力を継承していた黄金神の一族ともその実力は遜色ないほどまでにアマデウスは高みへと至っていたのだ。


 その実力を求められたアマデウスは、先代黄金神の御使い筆頭として大抜擢された。


 周りからの反対は大きかったが、破天荒だった先代黄金神がその反対を押し切って強行したらしい。


「あの方は歴代黄金神の中でも一、二位を争うほどの凄腕ではあったそうだが、それに比例するかのように自由気ままで自由奔放な方だったからね。私もよく振り回されたものだよ」


 派閥の長でありながら仕事や会議をすっぽかして魔物狩りに出向くのは日常茶飯事。


 本来ならそんなことを続けていれば長から降ろされるものだが、そうして狩ってくる魔物が貴重で役立つものばかりだったから、周りも怒るにも怒りきれないということだったらしい。


 そして御使い筆頭として抜擢されたアマデウスも、その脱走に毎回付き合わされたとのこと。


 もっともアマデウス自身も脱走して狩りへと出掛けること自体は楽しんでいたようだが。


 あの方がいなければ今の私は決して存在しなかっただろう。


 そう語るアマデウスの言葉からは確かな尊敬と敬愛が感じられた。


 どうやらこいつにとって先代黄金神とやらはそれほどに大事な相手だったらしい。


「君なら分かると思うが創造の力、つまり錬金術はその真価を発揮するために素材を必要とする。そしてある程度まで解析を行なって情報を確保した素材なら魔力だけで作れるようになるが、そうなるためには今の君がやっているように解析をしなければならないのは同じだからね」


 だから歴代の黄金神は組織の長として皆をまとめながらも、戦いの場に出て新たな魔物の素材を確保することが求められた。


 中にはそれ以外で活躍した黄金神もいたそうだが、それはあくまで少数派。


 そして破天荒だった先代黄金神はその責任を誰よりも果たしていた。


 それこそ新しい素材を解析した数で言えば、歴代でもトップクラスであったほどに。


 アマデウスもそれに協力しており、その実績は御使い筆頭としての立場を強固なものにしていた。


 それこそ初期の頃にあった貧民だった者を黄金神に近付けては悪影響だというような、差別的な意見も跳ねのけて黙らせられるようになるように。


「あの時代は本当に楽しかった。あの方と戦場を駆け抜ける毎日は刺激に満ち溢れ、飽きることなどなかったよ」


 そんなアマデウスにとっても黄金のような時。


 だがそれは長くは続かなかった。


「年齢を重ねた先代黄金神は、やがて次代へとその座を明け渡す時がくる。その相手に選んだのはあの方の孫娘の内の一人だった」


 幼いころから天賦の才を発揮しており、しかも頭脳明晰な優等生。後継者として誰も文句のつけようのない人物。


 先代黄金神から孫を頼むと言われていたアマデウスですら、彼女なら自分の助けなど必要ないのではないかと思うような傑物だったとのこと。


 だがその人物が黄金神となったことで、これまで円滑に動いていた運命の歯車は狂い始めることになったと、アマデウスは苦々しく語るのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 >後継者の代で歯車が あ~…。次回で判明するでしょうから予測は書きませんが、アマ公が仕えてた黄金神が破天荒だったという点でおおよその流れが推測出来ますね。 それでは…
[一言] なるほど神も代替わりするのね…つまり魂も一つではない、と
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