第二話 原初の時代と英雄達
かつてのアマデウスが生きていた世界は発展していたという。
ただし初めからそうだったという訳ではないらしい。
アマデウスが生まれるずっと昔、原初の時代と呼ばれる世界では危険な生命である魔物が世界中を闊歩しており、御使いや神族の祖先はその生息域の間を縫うように、ひっそりと隠れ暮らしていたらしい。
力がなければ魔物に襲われても逃げることしかできない。
いや、場合によっては逃げることも敵わない。強靭な肉体と特殊な能力を持つ魔物に対して、その時代の御使い達はあまりに無力だったのだ。
そんな魔物に虐げられるような不遇の時代。
だがそれもある英雄達が現れたことで変わっていく。
それまで見たこともなかった様々な力を有した存在。
様々な外見を持ち、どこからともなく現れたその存在は魔物に支配されていた地域を瞬く間に奪い、行き場を失っていた多くの御使い達が安息に暮らせる場所を作った。
その時代、英雄たちは各地に突如として現れて、それぞれが特殊な力を持っていた。
だがその中でも特に強力な力を有していた英雄が三つ。
無から有を。様々な素材から特殊で摩訶不思議な物体を作り出す力を持つ存在。
精霊という謎の存在を使役、利用して尋常ならざる魔法という力を行使する存在。
その身に触れた物体全てを破壊し尽くし、ありとあらゆるものを無に帰す存在。
その三つの存在が主となって安息の地は時を経つごとに広がっていき、いつしか御使い達が平穏に暮らせる国となった。
だがその平穏も永遠に続くことはなかった。
何故なら摩訶不思議な力を有する英雄達にも寿命があったからだ。
そしていつからか、新たな英雄が現れることがなくなったその世界では、やっとの思いで造り上げた国を守れる力を持つ存在が徐々に、だが確実に減っていった。
また英雄達が魔物を退けたことで、これまでは相手にするまでもない弱き存在として見抜きもされていなかったその立場にも変化が生じていた。
これまでよりもずっと強力な魔物が国を襲撃する回数も増え、その回数が増えれば増えるほどに英雄にも被害が出るようになっていったのだ。
そんなジリ貧のような状況の中、英雄達は決断した。
自分達の力を継承させると。自ら持つ力を次代に譲り渡し、発展させて袋小路に陥りそうなこの状況を覆すようにと希望を託して。
そのために自らが消えることすら覚悟して。
その結果、英雄の命を引き換えに、その力を継ぐ者が御使いの中から現れる。
選ばれたその御使い達は英雄達を神として崇め讃え、自分達はその力を受け継ぎし者だとして神族を名乗った。
神族となった彼らの中でも多くの貢献をなしたのは、やはりかつて強力な力を持っていた三つの英雄の力を受け継いだ者だった。
無から有を創り出す力を持つ者は、創造神、あるいは黄金神と。
精霊を使役する力を持つ者は、調停神、あるいは精霊神と。
全てを破壊する力を持つ者は、破壊神、あるいは虚空神と。
時代が経過するにつれて様々な形で呼ばれながら、その力を子孫などに継承していく。
そうして長い時が経つ中で、受け継いだ力を強くしながら国は大きく発展していき、神族同士でも争いが起こり袂を分かった結果、天神族と地神族という存在が生まれた。
またその過程で神族を主として仕え、その身を捧げて奉仕することを誇りとする者共のことを御使いと呼ぶようになった。
これが始まり。
天神族と地神族、そして御使いの。
「とまあ、異世界の成り立ちは大まかにはこんな感じらしいよ」
「大まかに、とか、らしいよ、って随分と適当だな」
「仕方がないだろう。その時代に私は生まれていないし、伝承されている内容にも抜けが多かったとかで不正確なことをも多かったみたいだし」
長い年月で失伝した内容もあれば、あるいは不都合な歴史として闇に葬られた内容もあるだろうとアマデウスは語る。
「だがそれらはこの場では重要なことではないよ。問題なのはそうやって力が継承されてきたこと。その過程で神族は二つに分かれて争うようになったこと。これが今の君達が知るべき情報だよ」
それが滅びの大戦の原因にもなっているのだから、とアマデウスは続ける。
「そうして長い年月の果てに、多くの地域をその手にした天神族や地神族は勢力を広げていった。その過程でかつては謎や未知の力とされていたものも解析して、形を変えながら自分達のものにしながらね」
それがステータスやスキル、そして魔法などということらしい。
確かにこれほどの力を得られたのなら、多くの魔物を退けて大きく発展していくのも納得できるというもの。
なにせ今の俺達、探索者もその力を得ることでダンジョン攻略や魔物と戦うことが出来ているのだから。
「そして私が生まれた時代がやってくる。恐らくは最も神族が発展したと思われる輝かしい時代だね。もっともその輝きは結果として、最後の瞬きになってしまったのだけれどね」
そこから語られたのは生前のアマデウスの人生だった。
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