第一話 世界崩壊の可能性
アマデウスが告げた、世界がダンジョンに呑み込まれるかもしれない事実。
その衝撃の発言を聞いた俺の第一声は、
「それで?」
「それで、とはこれまた興味なさそうな言葉だね」
「別に興味ない訳ではないけど、それだけ教えられてもどうしようもないだろうに」
ダンジョンに呑み込まれて世界が消滅する、それは回避できることなのか。
そもそもそれはどのくらいの可能性があるのか。はたまたどういった原因でそうなるのか。
そういったことを聞かない事には何も始まらないし、始められないではないか。
焦って無暗に動いても逆効果になることだって考えられるし。
「そうだね、ではまず世界が崩壊する可能性だけど……現状ではまだ1%以下といったところかな。ただしこのまま事態が進行すれば、その可能性は段々と高まっていくのは間違いないね」
「現状では心配はいらないのならなによりだ。それにその口ぶりだと、どうにかできる方法はない訳じゃないんだろう?」
「勿論だよ。見つからないように休眠していたとはいえ、その状態でも可能な限り情報は集めていたからね。その方法だけど、簡単に言えばダンジョンを間引く必要がある」
「ダンジョンを間引くってことは数を減らすってことだよな?」
頷くアマデウス。ただし今までのようにダンジョンコアを破壊する方法では意味がないと言う。
「ダンジョンコアやダンジョンは、神族や御使いがこの世界で活動しやすい環境に変化させる環境適応装置のようなものだとは前にも教えただろう」
「地球異世界化改造、だとか言ってたな」
御使い共がこの世界を侵略しているようなものだったはず。
「言っておくけど、地球異世界化改造という行いの全てが悪い訳ではないよ。ダンジョンコアを利用した本来の地球異世界化改造なら、現地生命体の暮らす環境に我々がお邪魔させてもらうことが可能になるようにする。つまりこの場合は人間である君達の世界やその環境を壊すことなく共生することもできるものだからね」
実際にダンジョンから採れる素材や取得できるアイテムは世の中を大きく変えて、色々な分野の発展を促した。
その代償に様々な被害や問題も引き起こしはしたが、大きな視点で考えれば功罪の功の方が大きいというのが世の中の大勢の考えである。
「だが、どうもその地球異世界化改造に暴走傾向が見られるんだ。今はまだその兆候すら軽微で、おそらくこの事実に生き残った御使い達は気付けていないと思う」
「それにお前は気付いたと、休眠状態とやらだったのに?」
そこまでアマデウスと他の御使いには差があるというのだろうか。
だとしたらこいつはいったい何者だということになるのだが。
「そうだよ。 ……ああ、なるほど。どうして私が気付けたのに、他の御使いなどが分からないのか、それが疑問なんだね。その答えは簡単で、単純に他の御使いなどの実力が圧倒的に足りないからさ」
言外に自分が優秀であると告げるアマデウス。
だがその続きの言葉を聞いて、それが決して自惚れではないようだと理解させられる。
「私はこれでも、かつて異世界において最も強大な力と勢力を有していた三大神。その一柱である黄金神の側近にして護衛を務めていた存在だからね。今はその当時の力の大半を失っているけど、そこで得た知識や経験は他の有象無象とは比べ物にならないのさ」
「三大神? 黄金神とやらはともかく、そっちは初めて聞いた単語だな」
「うーん、その詳細を説明するのには長い話になるからね。とりあえず今は異世界を統べていた三つ会社があって、社長も三人いた。その内の一人が黄金神であり、私はその秘書兼ボディガードだったと思ってくれれば分かり易いかな? その立場だったことで私は一般では知り得ぬ機密事項なども知っていて、だからこそ異常にもいち早く気付けたということさ」
「でもそれなら他にもそういう奴はいるんじゃないか? お前が特別優秀だったのは何となく理解したけど、それでも他に同じような奴がいたはずだろ?」
「いたけど、間違いなく全員死んでいるね」
その後の発言で、俺を含めてこの場にいる全員がドン引きした。
「だってその内の何人かは私が大戦の時に仕留めたからね。最後は道連れにする形になったけど、その甲斐あって避難することも出来ない状態まで追い詰めたから、少なくともこの地球まで生存していることは絶対にあり得ないよ」
「いや、そこで誇らしげにするなよ」
敵を仕留めることを躊躇しない俺ですら、それを誇ってみせるこいつにはドン引きである。
続く言葉でその印象はガラリと変化したが。
「仕方がなかったのさ。なにせこちらは敵と内通していた裏切り者のせいで黄金神が暗殺されてしまったからね。主を殺されておいて報復を行なわない選択など、私にはあり得なかったんだよ」
「神が殺されたのか? しかも三大神とかいう強者だったんだろう?」
「ああ、殺されたよ。黄金神の力や立場を狙った者共のせいでね。だがそれが結果として大戦を引き起こし、我々の世界が滅ぶことに繋がったのだから、実に皮肉な話だと思わないかい?」
そうやって笑うアマデウスだったが、その表情からはどんな感情を抱いているのか見通せなかった。
どこか悲しげにも見えるし、あるいは本当に愉快そうにも見える。
「ふむ……どうやら世界崩壊の話の前に、黄金神や異世界のこと、そして大戦前後で何があったのかについて話をしないといけないみたいだね。でないと色々と差し障りがありそうだ」
そうやってアマデウスはゆっくりと語りだした。
異世界について。
黄金神について。
そして、かつて世界を滅ぼした大戦とその原因についてを。
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