第四十一話 アマデウスの呼び出し
「さてと、何から話せばいいかな?」
真っ白な空間にポツンと置かれた椅子と机。
俺とアマデウスは机を挟む形で向かい合ってその椅子に座っている。
「わざわざ呼び出すくらいだし、そんなに困る内容なのか?」
「いや、話す内容自体は問題ではない上に緊急事態ということでもないよ。ただ伝えなければならないことが多くて、何から話したものかと思ってね」
「それならこっちからの質問に答えろ。お前の目的はなんだ?」
こいつは使徒の襲撃を知らせるなど、こちらに有益な情報を齎してくれている。
だがそれが単なるお節介なだけとは思えなかった。
こいつにはこいつなりの目的があって、俺に手を貸していると睨んでいる。
「私の目的だね。大前提として、私は私を打倒した君に服従を誓っている。その上で私自身が叶えたい願いがあるとすれば……一言で表すと黄金神の復活、となるかな」
黄金神、その名には覚えがあった。
「確か回復薬のフレーバーテキストみたいなのに書いてあったな」
「かつて御使いとしての私が仕えていた相手だよ。もっとも今は死亡しており、その座は空位となっているようだけどね」
「つまりお前はかつての主人を復活させたいと?」
そのために俺に協力しているということだろうか。
その敵となるのがアーサー達?
「いや、私の目的は黄金神の復活であって、かつての主人の復活ではないよ。それどころか私はかつての主人には復活には反対の立場だ」
「あん? どういう意味だ?」
かつて仕えていたという黄金神を復活させたいのに、そいつの復活には反対するとは矛盾しているではないか。意味が分からない。
「その辺りの詳細を説明したいのは山々なんだが、それをしていると時間が足りなくなりそうだな……よし、ならそれについては後々で話すとしよう」
「いや、勝手に話を進めるなよ」
服従しているとか宣うくせに、こっちの意見はガン無視じゃねえか。
「君の気持ちも分かるが、今はこちらの提案を受け入れてくれないか? どうやら思っていた以上に索敵されているみたいでね。この状態であまり長く話していると、敵に私の存在を気取られる可能性が高まってしまうんだ」
「それはお前の敵に、ってことだな?」
「正確には、敵味方問わず御使いや神族に、だね。これまで私が君との接触を最低限にしていたのも、主な理由がそれだよ。こうして下手に君と交信すると、それを探知されかねなかったからね」
理由は分からないが、こいつは他の御使いなどに見つかりたくないらしい。
「だが安心してほしい。今回君が手に入れたゴーレムコア。それがあれば私の存在を敵に察知されることはなく、君と会話することが可能となるからね。それもあってこうして多少の危険を承知で呼び出したんだよ」
そしてその使い方を教えるとアマデウスは述べる。
といってもその方法は至極簡単だったが。
本来のゴーレムコアの使い道は各種ホムンクルスに錬金するだけ。
それでホムンクルスに魂のようなものが宿り、ある程度の意思を持って活動するようになるとのこと。
なおホムンクルスはコアを錬金した作成者には絶対服従であり、裏切りの心配はないらしい。
そして今回はその工程にアマデウスの御霊石を加えて錬金してほしいとのこと。
それでアマデウスの魂はホムンクルスの肉体に込められる、要は魂だけの状態から肉体を得る、受肉を果たす形となる訳だ。
「本当にそれだけで敵に察知されなくなるのか?」
「勿論だよ。単に受肉するだけなら御霊石をホムンクルスに込めればよかったんだ。だがそれだと発する波長が御霊石、つまりは取り込んだダンジョンコアのものとなってしまう。そんな特殊な波長を垂れ流していたら、御使いなどはすぐに気付くからね。だがゴーレムコアを取り込むことで、発する波長をゴーレムコアのものに偽装することが可能となる。少なくとも私がアマデウスという存在であるということは、そう簡単には分からなくすることができるよ」
なお、アマデウスはアルケミーボックス内にいるほとんどの間は休眠状態で過ごして、その発する波長とやらを消していたとのこと。
だからこそ緊急時以外は俺とも接触しなかったらしい。
「私としても君に話したいことは山ほどあるからね。周りの目の心配が要らない状態になったのなら、これまで話せていなかったことも明らかにすると誓うよ。たとえばステータスの上限を突破する方法、とか今の君が一番知りたいのではないかい?」
「……お前は知ってるんだな、その方法とやらを」
「勿論だ。それも一つだけでなく数種類ほど提案できるよ。中にはあまりお勧めできないものもあるけどね」
250を超える手段。
それは今の俺にとってかなり重要な情報である。
それをこいつは分かった上でこう言っているのだろう。
「重ねて誓うが、私は君に打倒された時から君の部下だ。あるいは配下や眷属と言い換えても良い。要するに御使いという存在の誇りにかけて服従を誓っている訳だ。今後の方針について意見を述べたりすることはあっても、裏切ることだけは絶対にないよ」
それだけ絶対服従を強調されると逆に怪しい気がしてくるのだが、そもそもこいつが俺を殺したいのなら以前に治療しなければ良かったはずだ。
あるいは受肉を果たすまで俺を利用していた、なんてこともあるかもしれないが、そんな可能性を疑い始めたらキリがないだろう。
「分かった、早い内に準備を調えてその方法とやらでお前を受肉させるよ」
「お願いするよ。それともし心配なら、その場にノーネームという君の味方を集めておいても構わないよ。私が復活と同時に反逆しようとしても問題ないように」
そんなつもりは更々ないけどね、とアマデウスはクスクス笑っていた。
どうやらこちらの考えなどお見通しということらしい。
と、そこで笑顔を浮かべていたアマデウスが何かに気付いたのか表情を真剣なものへと変える。
「鬱陶しい奴らだな」
それどころかその言葉には隠しきれない不快さが込められていた。
「敵か?」
「敵か味方かまでは分からないが、覗き見しようとしている奴がいるのは間違いない。それも複数。まあ我が主が色々と騒動を起こしているようだから、それも仕方のないことかもしれないけどね」
そう言って肩を竦めてみせるアマデウス。
だがそのなんてことないという様子とは裏腹に、話はここまでだという雰囲気を感じさせた。
「続きはまた今度か?」
「察しが良くて助かるよ。次は監視の心配がない状態で話をするとしよう。なんなら邪魔な監視をしている奴らを始末するのに協力だって惜しまないよ、私は」
「お前、相手は同じ御使いとかじゃないのか?」
同族を始末すると言ってのけるアマデウスに呆れかけたが、人間だって同じようなものだと思い直す。
そういう俺だってこれまでに同じ人間を始末してきたと。
「同族だろうが敵は敵。邪魔者には消えてもらうのが一番だろう?」
「どうやら俺と気が合うみたいでなによりだよ」
「そうだね、そういう意味でも君と私は良い主従関係を築けると思うよ」
そんな軽口の叩き合いを最後に意識が薄れていく。
どうやら時間切れのようだ。
「それじゃあ、また今度。といってもその機会はすぐにやってくると思うけどね」
そうして気付けば俺の意識はボス部屋に戻っていた。
そして何も異変を感じていない陽明達の様子からこの間は時間が経っていないことを察する。
(受肉ねえ。一応、暴れられた時のことを考えて対策しておきますか)
アマデウスのことはペラペラと吹聴できないので、実力以外でもその場に誘えるメンバーなども限られてくる。
そうなると自然と少数精鋭とならざるを得ないだろう。
そのうちの一人として目の前の陽明などまさにピッタリではないだろうか。
一撃の威力に関しては、場合によっては俺を凌ぐような実力者だし。
なにより協力者として今後もより良い関係を続けていくためにも除け者は良くないだろう。
巻き込んで逃げられないようにしようとかは思っていないぞ。
全く、全然、これっぽちも。
「なあ陽明。ちょっといいか?」
そして数日後、アマデウスの復活が執り行われるのだった。
「面白い!」「続きが読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の星評価をお願い致します!




