第四十話 争奪戦の勝者とゴーレムコア
「シャア! 俺の勝ちだ!」
幾度もの攻防の末に俺は高らかに勝利の咆哮を上げた。
もっともその代償として、額が大きく裂けて血がダラダラと流れていたが。
若干視界が揺れている気もするし、もしかしたら頭蓋骨に罅でも入っているかもしれない。
(それでも勝ちは勝ちだ)
弱体化の剣によって感覚を鈍らされた輝久が脱落。
そこからは俺と陽明の戦いになる、互いに有効打を当てるための牽制をし合う形となった。
そして最終的には相打ちのような形で互いの攻撃が決まり、陽明の方が足の骨を砕かれたことで俺の勝利となったのである。
その状態で俺の攻撃を捌ききれることは不可能だからだ。
「くそ、罠に嵌めたつもりが嵌められていたか」
「いや、それはこっちのセリフだっての」
最後の攻防の流れは俺の攻撃の隙を突いて陽明が寸勁を叩きこもうとした。
だがそれは俺がワザと見せた隙であり、逆にそのタイミングを狙って攻撃をしたのだ。
STRを強化したことでVITが下がっているであろう状況を狙って。
しかしそれすらも陽明は読んでおり、ステータスはVITを高めた状態で寸勁をするふりを決行。
一撃だけなら仮に効果を発揮しても、下がるステータスはたかが知れている。
その弱体化の剣の弱点を突かれた形だ。
それによって俺の攻撃はまだVIT強化状態の陽明に受け止められて、そのままでは負けると、咄嗟に奴が攻撃を仕掛けてきていたその足に向かって頭突きを敢行したのだ。
正直、それは意図しての行動ではなく反射や本能に近い迎撃だった。
円環闘法でSTRに振られたその蹴りは強力の一言。
だからこそ、その威力とこちらからの反撃に足の方が耐え切れなかった。
骨だけでなく筋肉や筋なども大きく損傷していることだろう。
そんなコンディションで精密な肉体操作とスキル操作が求められる円環闘法を使用し続けるのは難しい。
無理矢理続行しても、どこかで必ず無理が祟ってミスが生じることだろう。
「てかお前、円環闘法とやらで人の頭部に攻撃すんなよ。俺じゃなきゃ間違いなく死んでるだろうが」
「俺だってこんなことで死人を出す気はない。殺す気でもなければ、お前以外の人にやるつもりはないさ」
いや、だから俺にも止めろって。
一撃くらいなら受けても問題ないと思っていたのに、普通に予想より威力が高くて意識が飛びかけたっての。
「ほらほら、決着がついたのなら無駄話はそこまでにして、早く回復してください。見ているこっちの身にもなってくださいよ」
「ったく……まあいいか」
俺も陽明も回復の指輪を使用して損傷を治療する。
念のため錬金真眼を使って状態を確認したが全員問題なし。
本当に回復薬様々である。
これがなかったら怪我をする可能性のある模擬戦なんて絶対に行えなかったのだから。
「とりあえず予備も含めて、各種回復の指輪を渡しておくから壊れたら連絡してくれ。そしたら新しいのを送るから」
「回数補充アイテムとやらじゃダメなのか? それがあれば壊れずに使い続けられるんだろう?」
これまではそう俺も思っていたのだが、どうもそこまで旨い話はないようなのである。
「ここ最近で分かったことなんだけど、どうも回数を何度も何度も回復させると品質が低下するらしい。他にも発揮する効果が弱まるケースも確認されてるからな。詳細が分かるまでは使い切った方が賢明だろう」
前に作成した無限に素材を生み出すと思っていた素材剣。
だがそれは儚い夢でしかなかったのである。
回復させたのが千回を超えた辺りから、そういった不調を訴え始めたのだ。
そしてきっと続ければ続けるほど新たな不具合などが出てくるに違いないと、今は外崎さんなどに当初の使用目的とは別の形で研究される始末。
「それに新しい指輪の方が熟練度は上がる分、品質とかも良いのが作れるぞ」
「そんなもんか。まあ俺は十分な数が手に入って、使うのに困らないならどっちでもいいさ」
陽明達もそれで良いと言ってくれるので、これで決定である。
(よしよし、この方がこっちの儲けにもなるはずだしな)
回復の指輪の素材は各種回復薬と錬金術師の指輪だ。
指輪の方が俺しか作れないが、加工しやすい回復薬なら愛華でも作成できる。
素材を提供すれば愛華にだってその分の報酬がいくだろうし、可愛い後輩のために金儲けできる手段を一つ増やしてやろうではないか。
その分、更に回復薬作成に追われることになるかもしれないが、それは今と大して変わらないので問題ないとする。
ないったらないのだ。
「さてと……それじゃあ戦利品の解析させてもらいますかね」
争奪戦には勝利したのでキャッスルゴーレムの魔石は俺のものだ。
という訳で気兼ねなくアルケミーボックスに収納されていたその魔石を解析する。
すると思わぬことが幾つか起きた。
まず巨大だったとはいえ、一つの魔石だけで解析率が100%になったのだ。
これはレア物だと解析率の上昇率も良いということなのだろうか。
それで作れるようになったものだが、それがたった一つだけだった。
ゴブリンなら魔石の他にも牙とか爪などが作れるようになるのに、今回はキャッスルゴーレムの魔石だけである。
(あれだけの身体があるのに作れるのは魔石だけか。他のゴーレムだと鉱石とかが作れたりするのに)
あの頑丈そうな城壁なら、加工して建築材とかに利用できるかと思ったのだが残念である。
まあでも、これで輝久がキャッスルゴーレムの魔石を使った剣を試すことは可能になったから悪い事ばかりではない。
それよりも問題なのは、新たなレシピが頭の中に浮かんできたことだ。
火炎地獄ダンジョンでは幾つかランクアップしており、その度に新たなレシピは入手していた。
そしてその多くが解析した魔物に関係ありそうなものだったことから、解析した素材が影響するのはほぼ確定的となっている。
だが今、ランクアップはしていない。
ましてや新しい錬金アイテムを見た訳でもない。
それなのにレシピが手に入った。
(つまり特別なアイテムを解析するとレシピが手に入ることがあるのか?)
新たなレシピ入手方法が発見できたことも大きな収穫だが、それ以上にそのレシピの名前が俺の興味を引いた。
「ゴーレムコアか……聞いたことがないアイテムだな」
ゴーレムのコアは魔石だとされている。
魔法生物であるゴーレムは魔石が心臓のようなもので、それが破壊されては活動できない。
だからそこがコアとして扱われており、魔法生物系の魔物の共通の弱点でもある。
(解析が完了した灼熱ゴーレムの作成可能な素材では魔石となってるし、キャッスルゴーレムも魔石だ。つまりこのコアってのと魔石は別物ってことか? ……なんにせよ作ってみないことには分からない、か)
そう考えた次の瞬間だった。
俺が見覚えのあるいつぞやの真っ白な空間にいたのは。
「すまない、緊急の用件が出来たので精神だけを呼び出させてもらったよ」
「アマデウス……」
何が起こったのか全く分からなかった。
だがこれまで決して姿を現さなかった奴が、こうして俺を呼びつけたのだ。
これから話されるのは、その言葉通り緊急で重要な内容なのだろう。
かつて使徒が襲撃してきたあの時よりも。
「とりあえず席に座らないか? 立ち話もなんだからね」
「……ったく、分かったよ。こっちも聞きたいことが山ほどあるしな」
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