第三十九話 キャッスルゴーレムの魔石と思わぬ争奪戦
キャッスルゴーレムはボスなので倒した際は魔石だけを残す。
その魔石の大きさは城のような巨体なだけあってか、今まで見た中でも最大級だった。
通常の魔石が手で持てるくらいのサイズなのに対して、キャッスルゴーレムの魔石はこちらの身の丈以上の大きさがある。
それは一見すると二メートルを超える大岩のようにも見えるほどだった。
(ボスの魔石よりダンジョンコアの方が小さいとか初めてだぞ)
ダンジョンコアも魔物から取れる魔石も、そのダンジョンや魔物の強さによってその大きさが変わるとされている。
だがA級ダンジョンのダンジョンコアやA級の魔石でも身の丈を超えるものはないと聞く。
実際に目の前のD級ダンジョンのコアはバレーボールほどの大きさだったし、D級の魔物の魔石はもっと小さい。
つまりこのキャッスルゴーレムの魔石はその強さに対して、明らかに大き過ぎた。
それこそ滅多に現れないレアな魔物だから魔石もレア物なのだろうか。
陽明達も見たことない大きさの魔石を興味深げに眺めている。
「でけえな。てか、でか過ぎじゃね?」
「確かにいくらボスでもC級でこの大きさは異常だな」
輝久はこれ欲しいな、と呟いている。
この魔石で剣を作ればどうなるのか、試してみたくてしょうがないのだろう。
「件の侵食ダンジョンの時に倒したキャッスルゴーレムの魔石もこんな巨大なサイズだったのかね?」
「それは分からなかったはずですね」
「分からない?」
呟くようなこちらの疑問に教授が答えてくれる。
「過去にキャッスルゴーレムが現れたのは、ただでさえ少ない侵食ダンジョン発生時の中でも一件だけです。そして侵食ダンジョンは早急な魔物の殲滅が求められることもあり、素材回収などは考慮されない。そのためキャッスルゴーレムも障壁を剥がした後に徹底的に破壊し尽くされたとされています」
「なるほど、その過程で魔石もぶっ壊れてしまったってことか」
「記録ではそうなっていたはずです」
これだけの巨大で防御に優れている魔物を倒す。
それも可能な限り早急に。
そんな状況で素材の保護とか考えている余裕はないだろう。
それこそ今回の陽明の止めの一撃も、威力的には普通のキャッスルゴーレムだったら身体どころか魔石ごと粉砕していたはず。
だが幸か不幸か、今回のキャッスルゴーレムはボスだった。
だから倒した際に魔石以外の素材は消えてしまうが、逆に言えば倒しても魔石だけは残ってくれたという訳だ。
魔石の大半は砕けるなどして大きく破損すると、中に秘められた効力などが弱まるか、あるいは完全に消え去ってしまう。
だから魔石の欠片などでは輝久の刀剣選択の素材としても使えないし、他の利用方法もあまりないと言っていい。
(灼熱の肉体を持つ魔物の魔石とかは適切な大きさに砕くと、丁度いい温度になるとか皆無って訳ではないけど、効果を弱めていることには変わりはないからな)
純粋な性能を求めるのなら魔石は破損していないことが望ましいのである。
その点で言えば、この魔石は完璧だった。
なにせボスはどれだけ肉体を破壊しようが、絶対に魔石は綺麗な状態で残すから。
「これを周回のために使うのはもったいないよな?」
この言葉に他の三人も頷いて同意を示す。一つしかないので誰が手に入れるかの問題はあるが、その貴重性から一先ず周回では使わないことは決定された。
「……使い道は複数思いつきますが、今回は夜一君に解析してもらうのが一番良いのではないでしょうか?」
「お、いいのかよ」
同じパーティである輝久が非常に欲しそうにしているのに教授はそれを気にしていないようだった。
こちらとしてもその意見は願ったり叶ったりだから反対する理由はない。
「彼のスキルで利用するにしても、一つだけでは試すこともできません。効果を確認できていないものを、ぶっつけ本番で使うのは危険過ぎるでしょう」
「輝久のスキルは利用する素材によっては自分にすらダメージを与える代物ができることもあるからな」
「ぐぬぬ!」
輝久は悔しそうにしているが、反論が思いつかなかったのか何も言えないでいる。
「それにこれだけの大きさの魔石なら解析とやらもかなり進むのでは? それにLUCが250ある夜一君がこのダンジョンを周回すれば、キャッスルゴーレムと再度戦う機会もあるのではないか……と私は睨んでいます」
「そんでもって解析が完了したら俺のMPで作れるようになると」
「はい、その際には輝久が性能を確かめるために幾つか提供してくれること。その条件でどうです? 今後も協力していく間柄なのに、こんな魔石一つの取り合いで争うのもバカバカしいですからね」
落としどころとしては完璧ではないだろうか。
うまくいけば、どちらにもメリットがある話だし。
普通ならこれで終わっただろう。
だが残念。ここにいる奴らはどう考えても普通ではなかった。
「それじゃあ、この魔石は俺がもらうぞ」
「いや、少し待ってくれ」
魔石に触れてアルケミーボックスに収納しようとしたのだが、陽明がそれを制止してくる。
これは正直意外だった。陽明はこの魔石に輝久ほど興味を抱いていない様子だったというのに。
「キャッスルゴーレムに止めを刺したのは俺だ。通常の分配だと俺に決める権利があるはずだろう?」
「それはそうだけど、お前がこの魔石を手に入れてどうするつもりだ? これだけの大きさだと装備に加工するのは無理だろ」
C級でその気になれば稼ぎ放題の陽明がこれを売って金にするとは思えない。
あるとすればこれを使って装備などを強化することだが、それも俺から幾つか譲り受けるようにすればいいだろう。
なによりこの魔石は装備に加工するのには向いていない。
単純に大き過ぎるのだ。
魔石などを装備に組み込む際は適度な大きさのものが良いとされている。
小さな石くらいの大きさなら鎧や盾に埋め込むなどは比較的やり易い部類だからだ。
仮にこの巨大な魔石を削って、その一部を装備に組み込むにしても下手な方法では秘められた効果を失う可能性が大きい。
そうならないように加工するための方法を見つけるには、何度も試行錯誤を繰り返す必要があるだろう。
一回だけのチャンスで成功するのは絶対に不可能と言い切れるくらいに無理難題だ。
そんな確率の悪いどころか、負けが確定しているギャンブルをこいつがやりたがるとは思えないのだが。
そして案の定というべきか、陽明の望みはそんなことではなかった。
「夜一、この魔石は俺を倒したら無料でやる」
それだけで察した。
こいつはこの魔石を体のいい理由に使っているだけだと。
「お前……それを理由に俺とやり合いたいだけだな?」
「まあな。でもお前としても悪い話ではないだろう?」
その通りなので何も言い返せなかった。
繚乱の牙という熟練のC級パーティ相手に今の自分がどれだけやれるのかを確認できる折角のチャンスなので、虎視眈々とその機会を伺っていたくらいだし。
「それでも足りないのなら、そうだな……よし、分かった。お前が勝ったらルミナスとの顔繫ぎをした上で説得にも協力することを誓おう」
「いや、あいつらは無理だろ」
かつてノーネームと繚乱の牙に並ぶとされる、もう一つのC級パーティ。
その腕前は折り紙付きであり、協力を取り付けられるのならそれに越したことはない。
だがとある理由それは無理だろうと判断していた。
「お前が懸念しているのはあっちのリーダーの説得だろう? 任せろ、俺に秘策がある」
「……本当に勝算があるんだな?」
ルミナスのリーダーは別に危険人物でもなければ、普段は温厚で話の分かる女性ではある。
だがそんな彼女には、決して触れてはいけないタブーの話題があるのだ。
そして協力を取り付ける上でそれは大きな障害となり得るのである。
だが陽明がそれをどうにかできるというのなら話は変わるというもの。
これまでは下手な情報を与えると不味いからと連絡を取ることもしなかったが、そうしないで済むならそれに越したことはない。
「待ってください、それなら俺もやりますよ! そんで勝ったらその魔石は俺が貰います!」
まだ話は済んでいないというのに途中で輝久まで参加を表明する始末。
けどこうなったらやらないと済まないだろう。
なにせこの状況を心の奥底で待ち望んでいた戦闘狂が、この場には三人もいることだし。
「まったく……私は見学していますからお好きにどうぞ。ただし戦う前にその魔石はアルケミーボックスとやらにでも収納しておいてください。戦闘の余波で壊れるなんてことになったら目も当てられませんから」
「ああ、分かったよ」
一応この魔石の争奪戦のはずなのに、既に三人とも魔石のことなど眼中になかった。
だがまあ、それは気にしたら負けである。
「ルールはいつものでいいな?」
「ああ、いいぜ」
「そういやこれも久しぶりっすね」
俺達は何度も小競り合いをしていたせいで、こういう時の取り決めがされていることもあって話は早い。
相手の殺害と回復はなし。
怪我をしても互いに恨みっこなしのスキルも使用可能な生き残り戦だ。
最後に立っていた奴が勝利の。
「二人同時にかかってこいよ。その上で圧倒してやるからさ」
「痛い目みしてやるよ、クソ野郎が」
煽り合う俺と輝久に、それを無言で眺めている陽明。
だが放たれる殺気は誰もかれも負けてはいない。
それを見て、再度大きな溜息を吐いた教授が魔法で石を作り出して頭上に放り投げる。
それが地面に落下した瞬間、陽明が容赦なく俺に蹴りかかってきた。
それも明らかに例の独自のスキル運用をした状態で。
その証拠に踵落としが振り落とされた床が砕けて、凄まじい衝撃波が蹴りを回避したこちらに襲い掛かってくる。
「お前、殺しはなしのはずだろ!」
「加減はしてる! それにこの程度で死ぬほど軟じゃないだろう!」
「おしゃべりしてる余裕はねえぞ、こら!」
輝久も既に刀剣選択を発動して、用意した剣で斬りかかってきていた。その斬撃はどう見ても本気そのものである。
「上等じゃねえか!」
それを錬金真眼で視界に捉えながら、俺も武器を取り出して本気で迎撃するのだった。
「面白い!」「続きが読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の星評価をお願い致します!




