第三十八話 キャッスルゴーレムと切り札
キャッスルゴーレムという魔物について分かっていることはあまり多くはない。
なにせ出現が確認されているのは一度だけであり、その時も侵食ダンジョンが発生した時だったので調査よりも倒すことが優先されたからだ。
(ただ他の生み出したゴーレムが存在している内は攻撃が通じないって話に間違いないみたいだな)
念のために生み出された雑魚を殲滅する前に何本かの爆裂剣をキャッスルゴーレムに投擲してある。
もしかしたら侵食ダンジョンの時は障壁が強力で弾かれただけで、あるいは強い攻撃なら通じるかもしれないと思ったからだ。
だがその攻撃はキャッスルゴーレムの表面に展開されていた障壁によって阻まれるだけだったのである。
その障壁も複数の爆裂剣を過剰駆動させた攻撃を受けてもビクともしない辺り、攻撃力とかでどうにかなるものではなさそうだった。
ならばやることは情報通りに雑魚を殲滅して、その無敵の障壁を壊すまで。
一度に城門から生み出されるゴーレムは限りがあるはずであり、その生産速度を上回る速度で殲滅すれば、無敵障壁を維持することは出来なくなる。
逆に言えば、その間しか奴にダメージを与えられないということでもあるが、倒す方法が分かっているのなら何も問題ない。
強靭な肉体と爆裂剣を存分に用いて、灼熱だろうが氷結だろうが砂塵だろうが鋼鉄だろうが関係なく、全ての生み出されたゴーレムの命を刈り取っていく。
(ちっ、この配下のゴーレム共は倒したら消えるのかよ)
どうやらこいつらはキャッスルゴーレムに召喚された存在であり、倒したら素材を残さずに消えてしまうタイプのようだ。
そうでなければワザと戦いを長引かせてゴーレムの素材回収に勤しむ選択もあったというのに。
実に残念な結果である。
(だったらこいつに用はない。さっさと倒すだけだ)
幸いなことに陽明の活躍のおかげで、繚乱の牙の殲滅は順調に進んでいるようだ。
これなら十分に次の配下が生み出される前に殲滅は終わるだろう。
その予想は外れることなく、大した時間も必要とせずに配下のゴーレムは一匹残らず破壊し尽くされた。
その途中で一瞬だけ妙な殺気を陽明の方から感じた気がしたが、すぐに消えたし今はキャッスルゴーレムを倒す方が優先だから無視するとしよう。
なにより楽しみは最後に取っておくものだし。
「さあ、雑魚は片付けたぞ!」
最後の一体を蹴り砕いて、聳え立つキャッスルゴーレムへと視線を向ける。
するとこれまで爆裂剣を幾ら投じても全く寄せ付けすらしなかった障壁に亀裂が入っていく。
そしてドンドンとその罅割れは広がっていき、やがて砕け散る。
「やるぞ!」
この絶好の好機を逃すつもりはない。俺は大量の爆裂剣を取り出すと、全て過剰駆動させた上でボスへと投じる。
反対側では輝久や教授、そして陽明がそれぞれ最適と思われる攻撃を放っている。
まず俺が投じた爆裂剣が炸裂して、発生した爆発と衝撃波がキャッスルゴーレムに襲い掛かる。
それに僅かに遅れる形で輝久の斬撃や教授の魔法が反対側で敵に到達し、最後に陽明の独自の技術を用いた絶大な一撃が叩き込まれた。
爆裂剣の手数や殲滅力ならともかく、一撃の威力なら陽明のそれは俺を上回っていると言えるだろう。
C級どころかB級のドラゴンであろうとも、この連撃をまともに受けて耐えられるとは思えない。
「うわ、マジか」
だが信じられないことにキャッスルゴーレムは耐えてみせた。
それもギリギリではなく十分に余裕を持って。
勿論無傷ではない。
爆裂剣が炸裂した箇所は幾つものクレーターのような凹みができており、ボロボロと一部が崩れ落ちている部分もある。
反対側でも陽明が攻撃を加えた部分は大きく歪んでいるし、先程までと違ってダメージは確かに通って入る。
だがこの巨体の前ではその損傷はあくまで一部でしかない。
それこそ人間でたとえるなら多少の切り傷ができたくらいだろう。
いったいどれだけの防御力があるのか。
(城の名前は伊達じゃないってか。面白いじゃねえか)
そこで俺は錬金真眼を発動する。選んだ能力はステータス鑑定だ。
それによって敵のステータスがどうなっているのか確認した結果、そのあまりの極端さに思わず笑いが込み上げてきた。
「こいつ……ステータスがHPとVITとMIDにほぼ全振りかよ」
他の数値はまさかの零である。
正確にはMPはそれなりにあるが、今は配下の召喚で使い切ったのか空となっている。
その代わりにVITとMIDがまさかの400越えとなっていて、HPに至っては1000を上回っていた。
ちなみに今の攻撃で削れたHPは59なので、単純計算だと同じ攻撃を20回も叩き込めば倒せるだろうか。
もっとも徐々にMPが回復しており、それを見る限りでは何度も雑魚狩りを繰り返さないといけないことになりそうだが。
きっとMPが全快か、ある程度まで回復したら再度配下を召喚してくるだろうし。
それでもボス自体が攻撃してこないので、いずれは倒せるだろう。
かなりの時間を必要とすることを除けば問題はないと言える。
だがこのまま敵の強力な防御を前に、チマチマ削るだけしかできないのは気に入らなかった。
もしそれしかないなら手段を選んでいる場合ではないと思っただろうが、今の俺にはこの膠着に近い状況を打ち破れる切り札があるのだ。
「いいぜ、やってやろうじゃねえか」
切り札の一つとして、いざという時のために取っておくことも考えたが、ここで試しておくのもアリだろう。
性能の確かめる実験はしているが、実戦で使っておかないと何か思わぬ落とし穴があるかもしれないし。
そうしてアルケミーボックスから取り出したのは一本の錬金剣だ。
これに錬金されているのは、とある薬である。
そう、本来は魔物相手には効果を発揮しないはずの、例のあれである。
「ボスのお前に通じるのなら、きっとこの弱体化の剣はどの魔物にも通じるだろ」
指輪に錬金すると、発動する度に自身に弱体化のデバフが掛かって全ステータスが1下がる。
その上に過剰駆動だと10も低下するという、俺からすれば一定時間だとしても御免な能力を発揮する弱体化の薬。
だが剣に錬金した場合は、その真逆で俺にとって最高の特性を発揮するのだ。
「この弱体化の剣は通常駆動だと、一定時間内に攻撃を与えた相手のステータスを1だけ下げることがある。その確率は使用者のINTとかLUC、そして相手のMIDとLUCなどによって変動するみたいでな」
独り言を呟きながら俺は城壁の一部に向かって剣を振るう。
傷つくのは僅かだけだが攻撃が通っているのなら問題ない。
それを十回ほど繰り返した辺りで敵に待ち望んでいたデバフが付加されて、ステータスが1だけ下がったのが確認できた。
更に十二回ほど攻撃した辺りでまた一つ、鉄壁に思えたVITとMIDの数値が低下している。
通常駆動でもこれなら、手数重視で剣を振り続ければこちらの攻撃がよく通るまでそんなに時間は掛からないだろう。
ましてや過剰駆動なら尚更だ。
「過剰駆動の場合は一度に下がるステータスが3になって、デバフが入る確率が少しあがるんだ。その分、効果が切れた時点で剣はぶっ壊れちまうんだけどな」
爆裂剣と違って過剰駆動を発動しても効果が続く限りは自壊せず、また一撃で壊れないのはありがたい話だった。
そうだったら敵に効果を及ぼすまでかなりの数を必要としていたことだろうし。
もっとも仮にそうでも問題ない。
なにせ弱体化の薬も錬金剣もアルケミーボックスの中に山ほどあるので。
そう、俺が弱体化の薬を大量に仕入れたのは犯罪者を捕まえるためなどでは決してないし、言うまでもないが勘九郎のような使い道でもない。
そもそもちんけな犯罪をしている小悪党を確保するのにこんな薬を俺は必要としていないのだ。
暴れても抑えられるだけの力を有しているのだから。
そしてそんな罪を犯した探索者に手加減するような優しさも甘さも持ち合わせていない。
功績稼ぎの面では生け捕りが望ましいが、死んだら死んだでしょうがない。
なにより即死でなければ回復薬でどうにかなる場合が多いし。
だからこの弱体化の剣を作ること、それこそ俺がこの薬を大量に所持している主目的だったのだ。
でなけば感覚が鈍るのが嫌いな俺が、この薬を大量に仕入れる訳がないだろう。
他に使い道など必要ないのだし。
「すぐにこいつの防御をボロボロにしてやるから、陽明達は力を溜めててくれ」
そんな指示を出しながら両手に弱体化の剣を持つ。
勿論どちらも弱体化の剣であり、過剰駆動も発動済みである。
「すぐに俺より低いステータスにしてやるからジッとしてろよ?」
そんなことを言わなくても、こいつは配下を召喚するだけで動けないのだが。
心なしか城全体が振動している気がしないでもないが、気にしないことにしよう。
キャッスルゴーレムに意識が有ろうが無かろうが、どっちにしたって破壊することは決定事項なので。
そうして俺の振るう双剣によって瞬く間に強みである絶対防御を脆くされたキャッスルゴーレムは、あっさりと次の陽明の一撃によって破壊され砕け散っていくのだった。
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