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第四章 5人目のB級誕生と事業拡大編

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幕間 鉄人の武術と理想

 探索者が武道や武術を身に着けるべきか、その論争はダンジョンが現れた五年くらい前からずっと続いているが未だに結論は出ていない。


ただ個人的には上級探索者は別に武術など身に付けなくても問題ないのではないか、というのが中国拳法を習っていた陽明の考えだった。


 別に武術全てを否定する気は毛頭ない。


また、時としてその経験が役立ったのも認めるし、今の陽明の戦い方はそれらの技術が必要不可欠なのも事実。


 だけどそれが万人に通じるかと言われると素直に頷けない。


 なにせ普通の武術は人間の身体能力を元にして考えられている。

 それは当たり前だ。


 ダンジョンが現れる以前は誰も十メートル以上の高さを軽々と跳躍もできなければ、銃弾で撃たれても掠り傷で済むような強靭な肉体ではなかったのだから。


 また普通の握力計では握力を測り切れないどころか、握力計を握りつぶしてしまうなんてこともなかっただろう。


(今の俺なら、仮に足を払われても宙を蹴って体勢を整えられるからなあ)


 それどころかやろうと思えば、スキルで空中を歩いて敵の上を一方的に取ることも可能なのだ。


 そんなある種、これまでの人間の理屈が通じない相手に対して既存の武術などではどうしても対応し切れないというか、どうしようもない点が出てくるのも自然だろう。


 ましてや探索者が相手にするのは、そういった力を有している上に人間よりも肉体が強固な傾向にある魔物なのだ。


 たとえば実体を持たないゴースト辺りに武術だけでどうにかしろとか無理難題だろう。


 そういうこともあって戦う心構えとかを鍛える以外では武術や武道を探索者は必要としないのではないか、というのが陽明の考えである。


 その考えは目の前で暴れ続ける夜一という規格外な男を見てなおさら強まっていた。


 この男は生粋の探索者であり、その前に武術を習っていたことがないのは確認済み。


 それでもこれだけ強くなっているのだから、やはり必要ないという結論に至っても仕方がないだろう。


(いや、それを言うならこいつや俺を基準にすること自体が間違ってるのか?)


 自分も夜一も一般的とは言い難いし、輝久などもそれは同じだろう。


「……まあどっちでもいいか」


 別に武術を習いたければ習えばいいのだ。そこは個人の自由だというのが一番丸い結論だろう。


 そんなバカなことを考えながら、上から落下してくる鋼鉄ゴーレムの身体を受け止める。


 どうやらキャッスルゴーレムから生み出された内の一体が、運の悪いことに真上に現れたらしい。


 だが何も問題はない。

 この程度なら簡易装甲だけで十分に受け止められる。


「ふん!」


 両腕で受け止めた鋼鉄ゴーレムは気合を入れて上に弾く。


(軽身)


 その身体が宙を舞う間に自分の十八番にして奥義でもある戦法の準備を行なう。


 軽身はDEXを減少させることでAGIを大きく上昇させるスキルだ。


 そこから更に鋼身を発動。そして敵が落下してきて、こちらの拳とぶつかる瞬間に捨て身を発動。


 それによって最終的にSTRに集約したステータスで放つ竜突というスキルの一撃によって鋼鉄ゴーレムは粉々に砕け散った。


「ふむ、やはりVITが下がっているから下手な打撃は自分も傷つくな」


 竜突は一瞬だけSTRを上昇させた上に一撃だけ威力を増加させるスキルだったのだが、それを使った自らの一撃に耐え切れず骨が砕けてしまった拳を見ながら愚痴る。


 円環闘法、そう名付けた未だに完成には程遠い自分独自の戦法だ。


 以前までは鋼身から捨て身というステータスを三つ経由してからの一撃だった。


 だが最近になって軽身スキルを手に入れて、四つのステータスを経由することが可能になって大きく威力は増加している。


 だがその反面、難易度も大きく上昇していた。


 そもそも円環闘法はその特性上、一部のステータスを減少させることが必要となる。だがそれを好む探索者は多くない。


 何故ならステータスが減少すると、それに応じた感覚が大きく狂うからだ。たとえそれが一時的なものだとしても。


 INTが下がれば頭がボーとするような感覚に陥るし、AGIが下がれば身体が重くなったように感じる。他も多かれ少なかれ同じようなものだ。


 そしてこの鈍くなる感覚はかなり不快である。それこそ弱体化の薬を使うのを夜一が嫌がっていたことからも分かるだろう。


 もっともその対策方法が全くない訳ではない。といってもその対策は慣れること、それに尽きるが。


 だからこそ俺は弱体化の薬を普段から使用して、鈍くなる感覚とやらに振り回されないように鍛えているのだった。


(やはり現状だと衝波のように衝撃を敵の内部に与える攻撃が無難か)


 敵に密着した状態でほとんど衝撃だけを相手に与えるようにすれば、こちらの肉体が損傷することはない。


 また最後の捨て身の際にVITを下げることから、敵の攻撃に対してかなり無防備になるのもこの闘法の難点の一つだった。


 使い方を間違えれば敵から手痛い一撃を受けることになるのである。


(最終的には全てのステータスを経由させた上で一点に集めた力を、スキルを使って敵に叩きこむのが理想なんだが……まだまだ先は長そうだな)


 とは言え、以前よりもその理想に近づいた感覚を掴んでいた。


 そして夜一の協力があれば、それが更に加速するであろうことも理解している。


 砕けた拳は回復の指輪で瞬時に治療する。

 これがあれば一々回復薬を飲む手間が掛からない。


 これだけでも十分過ぎる効果な上に、他にも錬金アイテムとやらは様々な効果を持っていることが分かっているのだ。


 その中にはきっと、自分にとって役に立つものがあることだろう。

 あるいは今はなくとも、今後に作成できるようになるかもしれない。


 夜一の話ではランクが上がっていけば新たなレシピも手に入るそうだし、その可能性は無限に広がっていくと言っても過言ではないと思えるほどだった。


(あるいは錬金アイテムでステータスを経由させる工程を省略できるようになるかもしれないからな。全てのスキルを手に入れるのは時間が掛かるし)


 問題があるとすれば、そういったものを実現させるための人手が足りないことと夜一は言った。


 回復薬作成だけでも手一杯な現状では、他の開発に中々踏み出せないというのにも頷ける。


 だがその一部については繚乱の(ウチ)の協力があれば改善されるはずだ。


 俺も輝久も少なくない恩恵があると分かった以上は協力を惜しまないし、他の一軍のメンバーだって回復の指輪など絶対に欲しがるだろうし。


「だとすると、どの辺りまで話を通すかだな」

「まずは一軍メンバーだけでいいでしょう。下手に今の経営陣側に話を通すと欲をかいて下手なことを仕出かしかねないですからね」


 いつの間にかこちらの傍にきていた教授がそう語りかけてくる。

 どうやら俺の零した独り言だけで、こちらの考えなどお見通しらしいと肩を竦めるしかない。


「それにしても彼の本気は恐ろしいですね」

「ああ、そうだな」


 俺も教授も色々と考えたり話したりしながらも戦いの手は緩めていない。


 それなのに繚乱の牙の一軍である俺達三人よりも夜一の方がゴーレムを殲滅する速度は上だったのだ。


 カンストしたステータスによって俺のようにスキルを使う必要もなく硬いゴーレムの身体を打撃で破壊。かと思えばいつの間にか投じていた剣によって遠く離れた数体をまとめて爆殺していく。


 その動きには一切余分なものがない。武術などの動きとはまた違った、ただ敵を倒すことだけに集約されたかのような無駄のない動き。


 それを見て思ってしまう。


(ああ……仕合いたいな)


 きっと今のあいつなら俺が全力で挑んでも全てを受け止めて、圧倒してくるだろう。


 あるいは理想に届いた俺ですら、そうなるのだろうか。

 それを試せるのなら試してみたいと思ってしまう。


 戦いを生業とする者としての本能がそうさせるのだろうか。


「リーダー」

「おっと、すまん」


 思わず漏れ出た殺気を教授に指摘されて慌てて引っ込める。


 ノーネームと繚乱の牙、もっと言えば大体夜一と輝久の小競り合いの際には俺はリーダーとして制止する側だった。


 だが本音を言えば、俺もそちらの騒ぐ方に混ざりたいと思っていたのだ。


 繚乱の牙というそれなりに名の通ったパーティのリーダーがそれは許してくれなかったが。


(もしかしたらそれが嫌で、あいつはノーネームのリーダーを哲太の方に押し付けてたんじゃ……?)


 今にしてその可能性に思い至る。


 何故なら好き勝手に暴れている今の夜一は非常に楽しそうで、良い笑顔を浮かべていたからだ。それこそ最高だと言わんばかりの。


「さあ、雑魚は片付けたぞ!」


 しばらく後に雑魚を片付けた夜一が嬉々としてボスであるキャッスルゴーレムに挑む姿を見て、尚更その可能性が高そうだと思う陽明だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 まぁ夜一は某作品なら『己と己以外』なスタンス(実際世界から半ば認められてる)範馬勇○郎みたいな特別のオンリーワンになろうとしてる・近づいてる男ですからね。そこに通常の…
[一言] 責任ある立場とか夜一君は思い切り嫌がりそうですねぇw
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