第三十七話 火炎地獄のボスとLUCの効果?
喜ばしいことがあって執筆が進んだので、突発ですが更新します!
更に活動報告でサイドストーリー「愛華の飲み会 その1」を投稿しました。
興味のある方はぜひ目を通してみてくださーい
前座である魔物の津波は、運が良いのか悪いのか、なんと七回も起こった。
通常は多くても五回で終わるはずなのに。
まああくまで五回で終わるというのは俺達の経験による勝手な予測なので、そうじゃないことも時には起こると言われればそれまでだろう。
その分だけ素材確保ができたというリターンもあったので、トータルとしては大きなプラスだし文句がある訳ではない。
ただその前座が終わった後に現れたボスを見て、俺も気付き始めた。
「これ、流石におかしいよな?」
「ああ、流石にな」
陽明も同意しているし俺の勘違いではなさそうだ。
現れた魔物の名前はキャッスルゴーレム。
文字通り巨大な城型のゴーレムであり、一見すると本当に城にしか見えない。
だが実際はゴーレムという名前から分かる通り魔物であり、特殊な倒し方が必要となるC級でもかなり厄介な奴のはずだった。
ちなみにこのボスの出現と同時に体育館くらいだったフロアも拡張されており、今は東京ドーム何個分だという広さになっている。
しかも炎などは綺麗さっぱり消え去っており、普通のダンジョンの床のようになっていた。
そのおかげで熱くもなければ狭いフロアで城のような身体に押しつぶされる可能性は減ったのは助かるが、代わりにキャッスルゴーレムから多種多様なゴーレムが生み出されて地面にばら撒かれ始めていた。
「キャッスルゴーレム。自身は攻撃を一切せず、配下となるゴーレム軍をその場から動かずに作成するだけの魔物ですね。そしてその配下であるゴーレム軍が一体でも存在している限りは、ありとあらゆる攻撃を受け付けない完全な無敵状態となる。倒すのに手間が掛かる厄介な奴です」
「三年前の南米で侵食ダンジョンが発生した時に猛威を振るたって魔物っスね。あの時以外では、どのダンジョンでも現れたことない魔物がなんでこんなところに?」
こっちを見るなよ、輝久。俺が知る訳がないだろうに。
そう思ったが、他の輝久や教授まで俺が原因だと言わんばかりにこちらを見てくる始末。
よくよく考えれば、以前のアイスドレイクに続いて、浅層で竜魔人が現れるなど、ここ最近のボス戦ではおかしなことが何故か頻発している。
初めの内は単なる偶然かと思っていたのだが、どうやらここまでくると違うようだと気付かざるを得なかった。
「ていうかLUCも高いはずなのに、なんでこうなるんだ? 普通は手ごろなボスが出現するもんじゃないのかよ」
なにせLUCも現在のカンストである250なのだから。
だったらそれに見合った幸運が起こっても良いはずなのに、現実はこれだった。
「いや……もしかしたらこれがお前にとっての幸運なんじゃないか?」
「ああ、なるほど。それはあり得ますね」
「強くなるために珍しい素材を求めていて、なおかつ強い魔物との戦いを渇望している頭のおかしい野郎が求める幸運は何かってことですか。なんだ、やっぱりてめえのせいじゃねえか」
三人によって勝手に結論付けられて責められる俺。
だけどその証拠のない論調を否定できないでいた。
(可能性としてはなくはないな。肉体だってステータスによって俺が望む理想のものへと変化しているかもしれないって前に勘九郎も言ってたし)
疲れにくくほとんど睡眠をしなくても問題ない肉体。
それがVITなどによって齎されたことは間違いない訳で、同じステータスであるLUCにもそういう何かしらの効果があることは否定しきれなかった。
「え、ってことは……今後も俺にはこういうことが頻発する可能性があるってことか?」
「そういうことだな」
「まあそれも悪い事ばかりではないでしょう。あなたからしてみれば強力な、あるいはレアな素材が入手できる魔物と遭遇する可能性が上がるということでもあるのですから」
「その分、傍迷惑な野郎であることには変わりないがな」
なんということだろう。
どうやら俺は今後もこういう強い魔物と遭遇する運命から逃れることはできないようだ。
若干落ち込む。
「……まあいっか、その方が色々と好都合だし」
かと思ったが、よくよく考えれば何も問題なかった。
ソロで潜れば誰かを巻き添えにすることもないし、メリットの方が大きいと判断したのである。
今後も探索者として活動して、強い魔物と戦うことは俺の中で決定しているので。
「それよりもキャッスルゴーレムをどうするかだな。教授の魔法でどうにかなるか?」
「フロアが拡張されたので氷雪地獄では魔物を一掃するのは無理でしょう。あれは攻撃範囲によって威力が変わりますから」
あの魔法は範囲内の魔物全てに攻撃できる代わりに、その範囲によって威力が増減してしまうらしい。
その分、範囲内に何体存在していようが威力は変わらないので狭いフロアに大量に居る分には使えるのだが、今回の場合だと条件的に厳しいとのこと。
あるいは追加詠唱で威力を強化することも可能だが、それで威力を補うとすれば発動するのに十分どころでは済まないと言われてしまう。
「それに氷に強いゴーレムも続々と生み出されているようですからね」
指さす方を見れば、確かに氷結ゴーレムと思われる個体が次々と生み出されていた。
そればかりか灼熱ゴーレムや鋼鉄ゴーレムなど、多種多様な個体が城の四方に存在している城門からワラワラと溢れ出てきている。
「なら地道に数を減らしていくしかないか」
幸いなことに色々な種類のゴーレムを生み出すためか火炎地獄のようなフィールドは解除されている。
つまり今なら爆裂剣が使用可能だった。
「俺はこっちから左の半分をもらうから、残りは頼む」
「それは構わないが、一人で問題ないのか?」
「ああ、むしろ一人の方がやり易いくらいだよ」
爆裂剣は強力だからこそ、味方を巻き込めば大変なことになるので近寄らないでもらいたいのが正直なところである。
そうして二手に分かれて生み出されたゴーレムの処理を開始したのだが、これが中々に厄介なようだった。
「ああもう! 強くはないけど硬ったいな、こいつら!」
「キャッスルゴーレムは生み出したゴーレムのVITとMIDを大幅に強化するそうですからね。普通の個体と思わない方が賢明でしょう」
スキルを使った輝久の剣でも一撃で一体を仕留めるとはいかず、一体に何度も斬りつける必要があるようだ。
教授の魔法でもそれは変わらず、一撃一殺とはいかない。
ただしそれは俺と陽明を除けば、の話である。
陽明はその類い稀なる戦闘センスによって、戦闘の際に複数のスキルを組み合わせている。
それは衝波のような一定の防御貫通効果をもったスキルや、簡易装甲のような防御系のスキルだけでは済まず、俺が把握していないものもあるだろう。
その中でも最も脅威だと思われるのが『鉄人』という異名が付けられる原因ともなった鋼身というAGIを低下させた分に応じてVITを大きく上昇させるスキルだ。
これだけでは動きが鈍くなる代わりに防御力が上がるだけ。
通常時では陽明の受けの技術と合わさって鉄壁の如く強力な防御となる。
だが敵を殲滅する攻撃力が必要なこの場では使い物にならない……と思うだろう。
だがここにもう一つのスキルである捨て身を使うと、話は大きく変わってくる。
この捨て身というスキルはVITを下げた分だけSTRを大きく上昇させるというものだ。
そう、つまり鋼身によってAGIを犠牲に高まったVITを、更に生贄にする形で攻撃力に振り分けることができるのである。
陽明は、ほぼ全てのAGIをVITに変換。
そのVITによって敵の攻撃を防御することなく受け止める。
その防御の際には、すでに敵の身体に自分の拳を当てた状態で。
これはAGIが低下したことにより、敵の攻撃を受けてから普通に反撃を放っても敵に躱されることになるからだ。
だが受けの技術が優れている陽明にとって、敵の攻撃を受け止めながら攻撃の準備も同時に行うのはそう難しいことではない。
そして敵の攻撃を受け止めたと同時に捨て身によってVITをSTRに変換。
密着した状態で放たれる防御貫通の衝波込みの寸勁の威力は絶大の一言。
この一連の流れは滑らか過ぎて、事情を知らない奴が傍目から見たら、まるでゴーレムが陽明の肉体を攻撃した瞬間に破壊されたようにしか映らないだろう。
それこそまるで圧倒的な防御力の前に殴った方が自壊してしまったかのように。
故に『鉄人』。その正体を知らない者からしたら、何者の攻撃も通じないと思われるが故に。
(って、前よりも随分と威力が上がってるな)
この威力の上がり方は単にランクアップなどでステータスが上昇しただけではなさそうだ。
おそらくだが鋼身の前段階に別のステータスをAGIに移すスキルを手に入れたか。
最終的には全てのステータスを循環させて戦うようになりたい、そう昔に語っていた陽明の理想の戦闘法に一歩また近付いているようだ。
末恐ろしいのは今の状態でも、俺ですらその一撃をまともに受けきるのは難しいのではないかと思える威力をしていることだろう。
仮に完成に至ったら、いったいどうなることやら。
「ったく、俺も負けてられねえな」
こちらも高まったステータスによる殴打でゴーレム共を次々と粉砕しているところではあったが、あんな熱いものを見せられた以上はこちらも本気を出せねばならないというもの。
近くの個体はこれまで通り拳の殴打で破壊。離れた敵には爆裂剣を投じて、数体まとめて爆破。
極限まで鍛え上げられたDEXがある以上はミスなど生じるはずもない。
(どっちが多く倒せるかな)
ボスであるキャッスルゴーレムのことなど半ば忘れて、俺はゴーレム狩りに集中していった。
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