第三十四話 深層へ進む、その前に
「お前、無茶し過ぎじゃないか?」
「問題ないさ。見ての通り傷はすぐに治せるからな」
竜魔人の素材を回収して解析しながら俺は陽明の呆れた声に回答する。
実際、あの程度の傷やダメージなら低級回復薬で対処可能なものだったし、目の前で敵の技を見て無理そうなら俺だってこんな危険な実験はしなかった。
「それにこの方が宣伝としては良かっただろ?」
回復薬を飲むという行為をせずとも回復できる。
傷一つない腕を見せて、それを改めて証明してみせた。上級探索者であるこいつらなら、その絶大な恩恵の大きさを分からない訳がない。
上になればなるほど一秒、いやそれより短い一瞬のスキが命取りになることがあるのが探索者なのだから。
「回復薬を飲んだ様子はなかった。ただその身に着けている指輪が傷を治す瞬間だけ僅かに光っていたね」
「ご明察、流石は教授だな」
これまでジッと観察しているだけあって、今までの戦闘の違いを見逃しはしないらしい。
「回復薬の量産については把握していたけど、まさかそれを発展させたアイテムの開発まで成功しているとは。素直に驚かされるよ」
「お褒めの言葉は素直に受け取っておくよ。ただ今のところこれは非売品なんだ」
「ふむ……その火や熱に強そうなローブもかい? それも見たことのないアイテムのようだけれど」
(おっと、そこも気付くか)
どうやらローブにも何らかの秘密があると見抜かれているらしい。
まあ陽明達は初期から探索者をしていた奴らだ。
そいつらが見たことも聞いたことのないアイテムを俺が身に着けていれば、何かあると怪しんでも当然の話か。
「悪いがここから先は企業秘密だな」
ジッと此方を見つめてくる教授が俺の視線を追って懸念を理解したのか頷いた。
「なるほど……和樹、君は先に戻りなさい」
「え、でも」
「元々、君の鍛錬は中層までの予定だったからね。ここから先は予定通り私が引き継ぐよ」
有無を言わせぬ口調で新人を先に脱出させる教授。
こちらの意図を組んでくれたようでなによりである。
「ふう、これで本題に入れるな」
ようやく腹を割って話せるというものだ。
「どうやら和樹はお眼鏡に叶わなかったようだね」
「別に悪いってほとでもないけどな。ただ欠片も関わりない相手をいきなり信用はできないさ」
陽明達も別パーティだったから、そこまで深い関係だった訳ではない。
だけど互いに意識していた相手ではあったし、小競り合いなどで相対してきたこともあったから信用できる面というものもあるのだ。
「それで俺の評価はどうなった?」
これは昇級試験の件ではなく、俺と協力する気になったという話だ。
「実力の方は申し分ないとしか言いようがないね。それにわざわざ使って見せたところから察するにその指輪も提供してくれるんだろう?」
「ああ。しかも条件次第では他にも色々と付けられるぞ」
「それなら余程の要求でもない限りは飲ませてもらうよ。なにせその指輪だけでも他の連中を納得させるには十分だからね」
聞けば繚乱の牙は更に規模を増しており、今は百五十人を超える日本最大級のクランとなっているのだとか。
その反面、資金繰りや経営などを担当する人物も増えており、そういった人物を説得する必要があるとのこと。
どうやら組織が大きくなって陽明の一存だけで決められることは少なくなってきているらしい。
まあそれだけの規模なら会社とほぼ同じようなものだろうし、それも仕方のないことなのかもしれない。
「って回復薬だけじゃ説得するには足りなかった感じか?」
「繚乱の牙は協会にも伝手があるから資金さえ用意すれば必要な数は揃えられそうだったからね。それなら変に貸しを作るよりも、金で調達する方が良いのではないかという意見があったんだ」
「なるほどな。大手クランとしてのプライドって奴か」
俺が元ライバルパーティのメンバーだったこととかも関係しているのかもしれない。
そんな相手に手を貸してもらうのはどうなのか、とか。
しかも対外的には俺は借金塗れで降格処分を受けた落伍者だし。
(探索者でも、ただ魔物を倒してればいいって訳じゃないのはこいつらも同じだな)
どうやら陽明達も色々と苦労しているようだった。
「けっ、そんなプライドなんてクソくらえだっての。んなもんより俺達が強くなって生き残る可能性を増やす方が何倍も重要だろうによ」
「輝久、お前は俺と協力するのに抵抗はないのか?」
「ねえよ。んなことよりもてめえより強くなる方が優先されるに決まってんだろ」
こちらの協力を欲しておきながら、臆面なく面と向かってそれを利用した上で俺を超えると断言してくるこいつの態度はある意味で痛快だった。
やたら突っかかってくるのは面倒だが、こいつのこういう分かり易いところを俺は嫌いではなかった。
陽明には聞くまでもないから、これでこの場にいる全員が賛成ということだ。ならば話は早い。
「なら、どこまで協力するかなんだが……色々と考えた結果、お前らには全部話すことにした。現状だと協力者が足りな過ぎるからな」
他国の上級探索者が敵になるかもしれないことを考えれば、俺達だけでどうにかなると思うのは甘いだろう。
となればこちらも仲間の上級探索者を増やすしかない。
「全部、とは?」
「俺がどうやってここまで強くなったのかに始まって、ダンジョンの成り立ちに至るまで、ここ最近の俺が知り得た全てだよ、教授」
そんでもって決して逃げられないように雁字搦めにしてやろう。
その意味も込めて、俺はその問いに答えを示すために眼帯を取る。
そしてその人に非ざる、虹色の宝石の如き瞳を露わにしてみせた。
それほどまでにこの眼は、探索者という魔物を見慣れた奴らでも異様に思えるものだということだろう。
「この眼はユニークスキルの錬金真眼っていってな……」
そこからそれなりの時間を掛けて、試練の魔物との死闘から、御使いの存在やダンジョンの成り立ち、そして海外のA級の襲来など、今日に至るまでの大まかな事情を語っていった。
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