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第四章 5人目のB級誕生と事業拡大編

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第三十一話 新人の評価とノーネームの在り方

 俺と繚乱の牙が交互に魔物を討伐して10階層ほど進む。


 もっとも繚乱の牙といっても陽明と教授は見ているだけで手を出さずに、新人の戦闘が終わる度にアドバイスやどういう意図を持って支援を選択したのかなどを聞くことだけだったが。


 その途中だった。陽明が突然質問を投げかけてきたのは。


「夜一、お前の眼から見て和樹はどうだ?」

「ん? ああ、まあ普通に優秀じゃないか」


 新人君としか内心で呼んでいなかったせいで名前を言われても誰だったかと一瞬戸惑ったが、それを隠して素直な回答を口にする。


 ステータスに溺れているようなこともなければ、周囲の状況を見て支援のタイミングも考えている。


 どこぞの不正で昇級してきた愚か者みたいに実力不足なんてことはない、ちゃんとしたC級探索者だった。


 そんなようなことを伝えても陽明は困った顔をしていた。

 どうやらこの返答は聞きたい内容ではなかったらしい。


「質問が悪いですよ、リーダー。では改めて聞きますが、仮に彼がノーネームに入りたいと言っていた場合、あなたは新たなメンバーとして受け入れることを検討しますか?」

「それはないな」


 改めての教授の質問に俺は即答する。


 何故ならそんなことは考えるまでもないことだから。


 そもそもノーネームは既に解散して存在していないとか、過去の話でもリーダーは哲太で、そもそも俺に新たなメンバーの加入決定権がないとかは置いておくとしても、その可能性は1パーセントもないと断言できる。


「優秀ではあるけれど、あなた達が欲しがるほどの人材ではない。そういうことですね」

「そういうことだな」


 輝久や陽明、あとはこの教授とかなら仮にノーネームに入っても十分にやっていけるだろうが、彼ではまず無理だ。


 そもそもどう考えても薫の劣化バージョンにしかならない。


 あるいは辛抱強く教育を施して、成長を促せば思わぬ才能が開花するなんてこともあるかもしれない。


 だが生憎とノーネームは新人に優しくとかあり得ない。


 実力的に付いてこられない奴がいても、


「遅いぞ、早くしろ」


 とか言うだけでさっさと先に進んでいくだろう。


 俺を筆頭に自分勝手な奴らが多いし、常識人枠の哲太や優里亜でさえ、実力不足の奴は要らないというスタンスだったのだから。


 このスタンスは一見すると厳しいように思えるかもしれないが、ダンジョンではほとんどの場合は命が掛かっているのだ。


 そんな状況で実力不足の仲間を入れるメリットなどノーネームではないに等しかった。


 もっともそれが正しいという話ではない。


 数を増やしたり質を上げたりする、言わば探索者全体のことを考えれば、繚乱の牙がやっているような新人教育をする方が正しいことなのだ。


 実際に俺も会社で似たようなことをしている訳だし、その有用性を否定はしない。


 ただあくまでノーネームにおいては、そんなことは一片の考慮もされていないというだけで。


 あそこでは各々が強いことは絶対条件だった。

 別に最初からそれを強制したのではないが、自然とそうなっていった。


 チームのルールというか在り方がそれだったのだ。


「貴重な意見、ありがとうございます」


 言外に込められたそんな意思を感じ取ったのか、教授が礼を述べてくる。


 それを聞いて繚乱の牙がどうするのか、とは尋ねない。

 あくまで他所のパーティだし、どうするかは彼らが決めることだからだ。


(一番は腕利きをスカウトすることだけど、それが簡単にいかないから困ってるんだしな)


 奇しくも会社で人材不足に悩んでいる俺からしてもれば、それは共感できる悩みというものだろう。


 そんなこんなで中層の十四階層に進もうとした時だった。


「あ、遂にきたか」

「先行組か。まだ居たみたいだな」


 輝久達が魔物を討伐して出現した転移陣だったが、その色が通常の青色と違って赤色になっている。


 それが示すのは、今はこの転移陣が使えないということだ。


 このダンジョンは、各階層に誰かが入って戦い始めたら魔物か探索者のどちらかがいなくなるまで誰も侵入できなくなる。


 だからあとから援軍として参戦するとかは不可能であり、今のこの状況は前が魔物と絶賛戦闘中ということでもあった。


 魔物を倒すか、あるいは転移石などで脱出して探索者がいなくなるなどすれば転移門は使えるようになるのだが、


「この調子だと、こいつらに先行されると俺達が詰まることになるな」


 しばらく待っても転移門が通過できないことからも、それなりの時間を掛けて魔物と戦っていることが分かる。


 それは決して悪い事ではないのだが、サクサク進みたい俺達からすると困ったことになるのもまた事実。


 こういう場合、取れる手段は限られている。


 大人しく前が空くのを待つか、諦めて脱出するか。

 はたまたどうにかして追い越すか、である。


「どうする?」

「追い越すに決まってるだろ」

「任せてください兄貴。もし邪魔するなら俺がボコボコにするんで」


 陽明の問いに対して、ほぼ同時に俺と輝久が答える。


 と、それをきっかけにした訳ではないだろうが、そのタイミングで転移門の色が変わる。どうやら魔物との戦いが終わったようだ。


「急ぐぞ!」


 ここでのんびりして、また先のフロアに進まれると面倒なので俺はすぐに転移門へと飛び込んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 社コーポレーションが『繚乱の牙』と雇用や契約をすることになってもB級の椎平よりも下のC級なので扱いは彼女程には出来ないでしょうね。 いや待てよ、C級の実力者が複数いて知名度が高く有能な者ば…
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